ODA Salon

National Graduate Institute for Policy Studies
 (GRIPS)

「新しい日本のODA」を語る会


 

Last updated 7 August 2007

 コメント紹介コーナー


第10回ODAサロン:幹事による第10回会合の概要
(2007/6/22付け「devforum」にて紹介)

【幹事からの問題提起】

  • 日本のODA総額に占めるアフリカの比率は(結果的に)約10%だが、金額はこの10年間で半減している。DAC主要国の対アフリカ支援で日本は4%弱のシェアに過ぎない。

  • 日本の対アフリカODA総額について、(倍増公約後の)2008年以降の戦略がない。 2008年水準を維持する必要がある。

  • アフリカ支援を拡充し、純増部分を、成長の加速(=卒業のための支援)のため、 アフリカリスクの緩和・民間投資の促進をめざした特別ファシリティーに投入しては如何。そのためのモデル国を選ぶ。

 【宮司氏の発言ポイント】

  • 民間セクターこそが経済発展の原動力

    • 企業活動が経済発展の好循環を生み出す(「東アジアの奇跡」の原動力)。

    • 援助は多ければ多いほど、よいものではない。MDGs、人間の安全保障は貧困問題に取り組む姿勢をアドバルーン的に打ち出す意義はあるが、援助資金ばかり集めることは、必ずしもアフリカのためにならない。

    • 最も重要なのは、民間セクターによる経済再生の道をリードしてあげること。(ただし、公共性の高い領域では政府の役割は重要。国の実情に応じた政策をとる必要があり、アフリカにおける拙速な民営化には反対。)

  • ODAをより戦略的に、重点国化を

    • 日本のODAは実際の貢献に見合う正当な評価をうけていない。沖縄G8がNEPADの生みの親であり、TICADがオーナーシップという概念を生み出したことへの認知度は低い。

    • ODAは日本外交上の最大の武器。アフリカ53カ国の票を確実にとりこむための長期的な戦略をもつべき。大事な税金を使うからには、「国民益」に資する援助をすべき。

    • しかし、総花的な支援でなく、当面は南ア経済圏の南部アフリカで政治的に安定した国を重点的に支援すべき。南部アフリカの国民は農耕民族で性格が温和。また、日本と欧米のやり方の違いに気づき始めており、日本がアジアでやってきたことに関心を示している。こういった諸国との協力関係を強化していく意義あり。

    • ナイジェリアはリスクが高いが西アフリカの雄であり、拠点として考慮に値する。

  • なぜアフリカ支援か

    • 日本は自らがおかれた状況に危機意識をもつべき。中国やインドが台頭し、2050年までに日本の経済的地位は大きく変わる。経済大国である今のうちにアフリカに目を向けて、日本企業の投資を通じて経済発展を支援し、将来の食糧や資源供給を含めて協力してもらえる拠点を作るべき。

  • ODAを動員した民間プロジェクト支援スキームを創設せよ

    • アフリカと日本は地理的、歴史的な距離があり、アジアと同じやり方では「奇跡」 は起こらない。(自然発生的にODAと民間投資がリンクし、日本企業がアフリカに投資することは期待できない。)対アフリカ投資を促進するために、官学民が一体となったODAスキームをつくってほしい。

    • 自分がモザンビークで手がけたモザール事業は当初、本社の強い反対にあったが事業は成功し、1000人の直接雇用、1万人の間接雇用を生み出した。また、利益の2%をコミュニティ開発に投入し、コミュニティが3倍に広がった。本事業はモザンビークの輸出総額の半分、成長の3分の1に寄与していると言われている。同国の経済発展に貢献することで、日本に対するモザンビーク政府の評価は高まった。

    • 民間投資とODAをリンクさせ、無償、円借款、OOF、投融資などを活用した、民間プロジェクト支援スキームの創設を提案。本スキームの対象を日本企業に限定する必要はない。

【質疑応答】

  • ODAの戦略性

    • ODAの役割は外交の「道具」というより「基盤」。

    • 資源確保そのものを目的にするより、地元の経済発展に貢献する協力が重要ではないか。モザール事業は日本の官民協力を通じて地元が裨益し、モザンビーク政府から支持され、ひいては外交基盤の強化につながった。なりふり構わずの「国益」追求ではなく、開発を目的とした援助を通じて、最終的にめざすべきものが達成できるはず。

    • →(宮司氏)賛同。地元の経済発展に貢献し、相手国に評価されることは重要。それによって日本国内の支持も得られる。

  • 官民連携によるアフリカ支援のメニュー

    • 一村一品運動、資源外交の強化については、日本政府として既に取り組んでいる。

    • アフリカでインフラPPPを推進する可能性は如何に。民間ベースで採算が合わない部分にODAを補助金的に投入する。

    • →(宮司氏)進めてほしい。

    • 産官学で複合体を作るべきとの提案は理解するが、知見の吸い上げ方をどうするかは要検討。また、資源分野におけるODAを通じた協力の範囲、どの程度幅をもったメ ニューを提供できるかは検討課題。

    • 個別プロジェクトで官民連携を追求すると、天下りなど、コンプライアンス問題がおこる可能性を危惧。

    • →(宮司氏)地元の経済発展に貢献すれば内外で評価される。よい成果をだすことが重要。モザール事業で天下りはない。

    • 官民連携を唱えるのであれば、ODAによる個別企業支援の是非を論じるのは時代遅れ。

  • アジアとの比較、アフリカ支援アプローチ

    • 自分はベトナムで産業育成支援に取り組んでいるが、お話を聞いて、アフリカでも日本は同じような支援アプローチが可能ではないか、と感じた。道路、電力、港湾など、面的広がりのあるインフラを整備し生産振興する。そして、人材育成、政策支援とあわせて投資促進を環境し成長を起こす。同時に所得ギャップが開かないように社会的側面にも配慮する。

    • 資源開発のような拠点プロジェクト以外の産業振興の可能性は如何に。例えば、東アジアの製造業企業が南部アフリカに投資し、部品組み立てを始める動きはないか。

    • →(宮司氏)アフリカから欧州市場への切花輸出、南アのスーパーマーケットのアフリカ大陸進出の動きはあるが、日本企業の関与はない。アジアが日本の物流ルートに組み込まれているように、アフリカは欧州、南アの物流ルートの一部。日本企業の進出を助けるには、直行便運行など航空ルートを含めた対策が必要。

    • アフリカにおいても、日本がベトナムで行ったような大規模インフラ、工業団地周辺インフラ整備を継続的に支援したい思いはある。ご提案のあったODAを動員した民間プロジェクト支援スキームも魅力的で、円借款の年次供与が難しい現状で、インフラ整備を地道にやるのか、このような拠点プロジェク トに取り組むのか、悩ましいところ。

  • アフリカからみた日本と欧米の違い

    • 日本人は意思決定は遅いが粘り強く、相手国と長期的で安定的な関係を築く。経営者と従業員が一緒に働くこと。こういった日本と欧米の違いを南部アフリカの人達は理解している。例えば、タンザニアは大統領の経済顧 問に日本人を要望している。

  • アフリカの経済・政治的な地域統合、日本の役割

    • 規模の経済を考えると(1カ国、平均1500万人)とアフリカは経済・政治面で地域統合をめざすべきと考えるが、日本は如何なる貢献ができるか。

    • →(宮司氏)南部地域のSADCが最も可能性があるが(ジンバブエの現体制後)。他地域は現時点では判断難しく、AU、NEPADでさえも弱いので、日本ができることは限られている。地域の核となる国を官民あげて支援していく ことは可能。

    • 地域統合は時間がかかっても、広域インフラ整備を通じて面的な支援をする意義はあるのではないか。

  • アフリカの成長可能性

    • アフリカに資源以外に魅力はあるのか。政治的安定の問題もあり、成長のためのハードルは高いのではないか。

    • →(宮司氏)アフリカが成長しようと思ったら、自分で魅力を見つけなければならない。経済発展において、政治的安定と指導者のコミットメントは重要。自分は投資先 を判断する際に大統領に会う。現在のアフリカ諸国の3 分の1は政治的コミットメントをもっていると思う。

宮司顧問からは、企業人として、そして世界の中の日本を考える視点から、官民連携による国際協力のあり方、日本のアフリカとの関わり方について根幹にふれる問題提起を頂きました。特に@「危機感」をもって世界経済における日本の立ち位置をとらえ、長期の戦略性をもってアフリカとの関係を考えていく必要性、A国際益と国民益は不可分で経済成長を通じてアフリカの現場での開発に貢献することが日本への評価になり国民にも裨益すること、B「アフリカ・リスク」を緩和して民間企業の投資を促進するために、官民 連携による特別ファシリティの創設する提案、C政治的安定性・コミットメントや当 面の経済ポテンシャルを重視して重点国を選択すること等、非常に明確なメッセージがあったと思います。皆様からのご意見を歓迎いたします。



コメント
   
   
   

ODAサロン・コメントページに戻る

政策研究大学院大学(GRIPS)
03-6439-6337
forum@grips.ac.jp