ODA Salon

National Graduate Institute for Policy Studies
 (GRIPS)

「新しい日本のODA」を語る会


 

Last updated 4 December 2006

 コメント紹介コーナー


第4回ODAサロン:幹事による第4回会合の概要
(2006/11/30付け「devforum」にて紹介)

日本国際ボランティアセンターの高橋清貴氏、「ほっとけない 世界の貧困」の中島正明氏からのキックオフご発言
  • 「何故ODAを行うのか」
    • 狭い意味の国益ではなく、「国際益」のため。具体的にはMDGsの解決を図ることが ODAの目的(中島)。国連ミレニアム宣言に謳われた「自由、平等、自然の尊重等」 の社会を作り上げること。憲法前文の精神を具現化すること。理想主義かもしれないが、社会には無限に遠いものであろうとそれに近づこうとする「統整的理念」が必要 (高橋)
       
  • 国民の理解と参加を得るために
    • 5つのアカウンタビリティー〔@法的、Aプロセス、Bパフォーマンス、Cプログ ラム、D政策〕を明確にしていくことが、国民の理解と参加を得る近道。(高橋)
    • 貧困問題を日本社会で主流化することが重要。NGO、研究機関、UN、著名人、政 府、労組、企業等との「パートナーシップ」の構築や変化を確実に生み出すような 「クリティカルマス」の獲得を目指す。MDGsは市民を巻き込んでいくアドボカ シーのツールと捉えて活動していきたい。(中島)
       
  • ODAへの期待と注文
    • 地球社会の「病気」(格差、絶対的貧困、環境問題、紛争等)を直すための「薬」 がODA。 現場の「医者」はJICAやJBICの実施機関。ODAは自ら直ろうとするプロセ ス〔開発〕を促進するだけであり、その作用と副作用をよく認識すべき。(高橋)
    • 地球市民の一員という観点から援助の目的を捉えなおす必要があり、三つの「ホ ショウ」(@将来の地球社会の「保証」、A行き過ぎた経済活動に対する「補償」、 B国境を越えた社会「保障」)の視点が重要。(高橋)
    • ODAの現実的な課題としては、@戦略性、Aパフォーマンス〔援助効果の向上・効 率化〕、B情報公開、C法令順守の4点。(高橋)
    • ODAで取り組むべきものはグローバルイシュー等の「公的領域」であって、国家や 企業、NGO組織といった「私的領域」ではない。(高橋)
       
  • 2008年に向けて〔追い風と潜在力〕
    • MDGs、G8サミット、ODA実施体制改革等、現在は「追い風」の状況。ホワイトバンド の経験(450万本)、さらにはユニセフの例(民間からの寄付が日本政府のユニセフ への拠出金の2〜3倍ある)からも日本国内には潜在的支持者は多い。(中島)

意見交換、質疑応答

  • NGOを取り巻く環境〔NGOへの期待〕
    • 国際開発金融機関〔世銀、IMF等〕では、その関心がNGOからCSO〔市民社会組織〕 にシフトしてきている。この動きは、まさに「自助努力」の尊重そのものであり、統 合後の新JICAにとってもこれらをどのように巻き込んでいくのかは重要なアジェン ダ。
    • 日本のNGOは国内的には、労働団体や経済団体との競争に、また国際的には世界の NGOとの競争にさらされている。
    • NGOの能力強化〔キャパビル〕に関しては、政府も取り組んできているが、まさに グローバルスタンダードな発信能力が求められている。
    • 政策提言できる能力も重要だが、草の根レベル〔少数〕の声を拾い上げることも重 要。カナダ等でも政策形成できるNGOと小さなNGOとが並存しており、政府は両者と連 携を図っている。(高橋)
       
  • 国民へのアプローチとメッセージ
    • 「国民の政治参加」が求められている。ODAが大切で一定の予算配分が必要である と考えるような市民を増やしていくことが大切。日本の価値観を国際的にも通じる普 遍的価値観に繋げていく技〔アート〕が必要。
    • 日本の市民社会がどうなっているのかわからないというのが実感。経済動向や景気 に左右されがちで、国際協力やODAの担い手が誰なのかということはきちんと調査す る必要がある。「ほっとけない」が計画している「社会意識調査」に期待。
       
  • 政治的リーダーシップの必要性
    • 市民社会は国会議員等を動かす力を持っており時間をかけて働きかけていくことは 重要だが、一方、政治のリーダーシップの重要性を忘れてはならない。
    • 英国でも市民がODAのことを十分理解しているわけではない。政治のリーダーシッ プが牽引しており、政治が積極的に市民に示していくというアプローチが効果的。
    • その意味でも「援助基本法」は必要で、立法府できちんと議論する必要がある。
       
  • 国民と政治家をつなぐ新しいアプローチ
    • 「ほっとけない」のアプローチ、すなわちODAを知らない人、貧困問題を知らな い人を巻き込むというアプローチは新鮮。
    • 「あなたの中の政治力、あなたの中の経済力を使おう」というコピーで、商品開発 やメディアとのタイアップ、さらには選挙にあわせたキャンペーンも計画中。
       
  • 政府との関係
    • 「ODA総額の削減傾向を反転させること」ということが目下の課題であり、NGO側からも右に向けた目標設定、具体的活動が望まれる。
    • 政府とのタイアップ、コラボレーションも可能。日本人の思いを反映するような メッセージができれば政府としてもタイアップしやすい。
    • ODAとしても予算の一定の割合をCSOに割り当てていく必要があるのではないか。

雑感

以上、幹事からの速報です。雑感ながら、国民や政治家の理解と支持を得るためには、ODAという枠を超えた発想が必要ではないか。 ODAは国際協力を行うチャネルの1つに過ぎず、ODAという言葉自体がよく知られていない現実の中で、 幅広い理解と支援を醸成するためにどのようなメッセージを訴えていくのか、どういったアプローチが効果的なのか、考えるよい機会になりました。 また、メッセージの中身についても、普遍的理念、国際益を掲げつつも、日本の価値観、「日本らしさ」をどう加味していくか、という点は課題として昨日の会合でも共有されました。

 


コメント
会合出席者からのコメント

2006/12/4
15:21

 

ODAの量

  1. 日本のODAコミュニティにおいてODAのボリュームについての議論が忌避される現状を憂慮する。 「なぜODAか」という議論は百花斉放の感があるが、この問題はいくら議論してもきりがなく、中身も10年前と本質的に変わっていない。 今日の日本のODAの危機の核心は、ODA予算が8年間削減され、今後さらに5年間毎年2%から4%削減されることが与党合意されていることではなかろうか。 日本が2008年に向けて国際的に求められているのは、端的に、ODA予算の削減を止めることではないか。

  2. ボリュームの急激な縮小が、国際場裡(援助コミュニティであると否とを問わず)での日本の立場を急速に弱めている。 グロスで勝てない国はGNI比で勝負している。いずれにせよ、ボリュームの敷居がクリアできないと議論の資格なしというのがこの世界の掟だ。 ODA予算を減らすことは黙認しつつ、日本サミットでの成果を云々するのは、国際的には全く理解されないだろう。

  3. この関連で思い出すのは、数年前に世界を席巻した<ジュビリー2000>だ。 彼らの運動の成功要因は、債務問題という技術的な問題を「債務帳消し」というわかりやすいカネの問題に置き換え、それを戦術目標に据えたこと。 その結果債務問題は納税者の胸にストンと落ち、実際帳消しも実現してしまった。

  4. 「ODAが増えるのは役所が潤うだけ」との反応もあろうが、MDGsのゴール8は先進国に対しODAをGNI比0.7%に引き上げることを求めている。 これは民間資金や国民の寄付ではなく、税金を原資とするODAのことである。 貧困問題を真剣に考えるのであれば、税金と予算の規模を決める国会議員(日本の場合は与党たる自民党・公明党)に対し、 ODA予算をこれ以上減らさないことを訴え、実現すること以外に、行動の選択肢はありえない。

   

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