ODA Salon

National Graduate Institute for Policy Studies
 (GRIPS)

「新しい日本のODA」を語る会


 

Last updated 2 April 2007

 コメント紹介コーナー


第7回ODAサロン:幹事による第7回会合の概要
(2007/3/29付け「devforum」にて紹介)

【草野厚氏による冒頭発言のポイント】
 「日本のODAに対するいくつかの提言」と題し、国際社会の動向、日本の国際公約や国内の動向を概観したうえで、以下、問題提起。

  • 今後のODAを考える際のポイント:

    1. 日本の置かれた立場(世界第二位の経済大国、資源小国・貿易立国、途上国との相 互依存、軍事力による協力は困難)

    2. 行政改革の視点

    3. ODAは良好な対日感情醸成に貢献しており、日本外交の「基盤」である(手段以上のもの)

    4. 直接的には見えにくいODA全体の効果も考えることは重要
       

  • 考察と提言:

    1. 政府による国民への説明が必要、特に日本の「安全と繁栄」確保の視点から(短期的のみならず長期的な国益)

    2. 中身重視で無償、技術協力、円借款を増やすべき

    3. 同時に、予算増に対する理解を得るためには透明性や効率性改善のための課題にも取組む必要あり(例えば、海外経済協力会議、各省技協、国際機関経由の資金使途、人材育成の課題、現地体制)

    4. 予算制約のもと、「選択と集中」による援助配分を。試論として、@地球環境を重視、A後発途上国や低所得国に一定比率を基礎的支援として配分(地球環境に加え、 保健医療、初等教育等)、B自助努力による経済成長が期待できる国には、かかる分野で支援を積み増しする。

【大野健一氏による冒頭発言のポイント】「開発のための援助」と題し、日本が国際社会や途上国に発信するメッセージ、援助目標に焦点をあてて、以下、提示。

  • ツートラックが前提。

    1. 日本は貧困救済と成長支援の両方を援助目標とし、対象国によって柔軟な組み合わせを。
       

  • 「救済」と「開発」は基本的に別問題。これらを区別・分業すべき。(紛争国で「復興から成長へとシームレスにつなげる」ことは不可能ではないか)

  • 日本が基本とすべき開発支援は、

    1. 「成長支援」と(成長に伴う)「新たなひずみの解消」の2本立てを中心にすえ、

    2. 現場に密着した具体的支援を続けよ
       

  • 開発にとって、援助は部分的でオプショナルな手段にすぎない(指導者、民間企 業、政治安定等、多くの要素が必要)。DACの定義・基準やODA(政府ベース)にこだわる必要なし。
     

  • 比較優位をふまえて、日本が援助の基本方針として確立し、国民と世界に宣言すべき方向は、

    1. 卒業のための支援(成長支援、及び成長が生み出す新問題の解決)

    2. 天災の予防・救援・復興(人災・紛争でなく)

【意見交換・質疑応答】

  • 日本としてのODAの位置づけ

    1. ODAをツール、手段を超えて外交の「基盤」と位置づけることに賛同。

    2. 外交を前面にだすと、かえって国民のODAに対する理解が得られない懸念あり。

    3. ODAの意義・効果を考える際に、個別事業の効果とODA全体の効果は区別して評価すべき、との考えに賛同(南米向けODAは減少しているが、進出日本企業はODAで儲けるというより、相手国との関係・良好なビジネス環境維持という観点でODAの継続を重視)。

    4. ODAの位置づけ・戦略性は内輪で議論すべきもので、対外発信メッセージ(国民、及び途上国・国際社会)は別に練って考えるべき。対外メッセージにおいて外交と結び付ける必要なし。(大野)
       

  • 国民、国際社会に訴えかけるメッセージとは何か

    1. 地球規模問題(草野)、卒業への支援(成長支援と社会問題への対応)(大野)

    2. 開発のための援助に共感(ボリビア大統領が訪日時に表明した日本への期待)

    3. 普遍的な価値(例えば、「自由と繁栄の弧」、民主化支援)をODA実務を通じて具体化することは可能か。また、国民国家(nation states)が外交関係の単位である以上、どうしようもない国とどう付き合うか(政府指導者や高官が腐敗等)という視点も必要。脆弱国家への支援においては現行の要請主義は限界があり、例えば、国を支える中間層(middle class)を重視して支援、といったメッセージを打ち出せないか。

    4. 中間層が不在の国もあるので、対外発信メッセージとしては如何なものか。国際潮流である貧困削減と対立的に理解される可能性もあり。(大野)

    5. 対外発信メッセージは、コマーシャル的な発想で考案すべし。総花的にするよりも、単純化して分かりやすく。(大野)
       

  • 日本の比較優位、「選択と集中」を考える視点とは

    1. 「援助の百貨店」を脱却し、日本の比較優位に基づいた支援をすべし。

    2. 省エネルギーは、民間との連携も含めて日本が強みを活かせる分野。

    3. 援助を通じて、現場で長年歴史を重ねてきた財産を大切にすべし。(草野)

    4. 中東ではnation statesが崩壊しつつある。こういった現実の中で国家をベースとしたODA、「選択と集中」のあり方は如何に。国民国家だけを対象としてよいのか。

    5. 国民国家は細分化しても強化されている。冷戦後、より複雑になっている感あり。国家単位での付き合い方を考える意義は依然としてある。(草野)
       

  • 現場でのインパクトも重視せよ

    1. 対外的に訴えるメッセージ、日本の比較優位を論じる際に、現場で成果を出していくことと如何に両立させていくかが鍵。その意味でも、国際機関との連携も重要で、目をそらすべきではない。
       

  • 国際機関、国際ルールとどう付き合うか

    1. DAC基準にこだわる必要なしと言っても、実務や現場では他ドナーとの連携は不可避。現実の諸制約を中で努力すべき方向を議論すべし(例えば、DACのGuiding Principlesへの日本の主張反映、国際潮流におけるインフラ主流化にむけた努力)。

    2. 自分を捨てず、DACや国際機関は利用していく姿勢で臨むべし。受動的であってはならない。これは、イギリスから学ぶ点多し。(大野)

    3. 自分を捨てず、追従せず相手を利用せよと言っても、現実は、国際社会に対して日本のよさを十分に発信できていない。
       

  • その他

    1. 「復興から成長へとシームレスにつなげる」ことは不可能との意見に関し、国によって事情は異なり、可能性がある国も存在するのではないか(例えば、スリランカ)。

    2. 納税者、国民への説明においてメディアの役割・責任は重要。メディア報道に対し、時として批判的にみる目も必要(例えば、インドネシアのコタパンジャン・ダム)。(草野)

【雑感】

今回は、日本にとってのODAの位置づけ・戦略性、対外発信メッセージの中身を中心としつつも、国際機関との付き合い方、 外交上は国家が協力単位である現実の中で「選択と集中」をどのように具体化していくのか、等、参加者から多様な意見がだされました。 なお、今回は、第6回ODAサロンでも提起され、また本MLでも交換された戦略性をめぐる議論(何のためのODAか)に加え、 対外発信メッセージのあり方についても論じられました。前者については、(前のMLで述べたように)ひとつに特化する必要なく、 複数の要素・理由を求めてよいという方向に収束したと思いますが、対外発信メッセージに関しては、戦略性に関する(主に国内向けの)議論とは「使い分けて」、 中身を考えていく発想が求められているのではないでしょうか。分りやすさ、しかも日本ならではの比較優位を考え、 実際に現場で成果をだせるものを念頭にメッセージの中身を考えよ、という提案もありました。これらは今まで本MLで議論されてきた内容とも重なると思いますし、 4月以降のODAサロンで個別に議論をを深めていきたいと考えています。

 


コメント
会合出席者からのコメント

2007/3/29
13:40

一部抜粋しています。

 

 

スピーカーのお話には触発されました。 ご参加の方々も多士済々で刺激になりました。

「ODAマニフェスト」は新鮮だと思います。いくつかの切り口があるでしょうが、最重要はいうまでもなく「日本人・日本政府がなぜ途上国を援助するのか。」という理由を納税者・有権者が共感できるよう説明することです。

「貧困削減」は、国際世論では定着したキーワードです。けれども、このキーワードだけで国内世論を説得しきれているかどうか・・・。消化不足な直訳がシラケを生んでいる可能性もあります。国際世論を理解し、共感することは重要です。が、国際世論というのは、それぞれの国々の世論の積み重ねでできあがったものです。有力国の世論が強く反映されのも自然です。そういう中で日本の国内世論を国際世論とまったく一緒にする必要はなく、むしろ日本人に訴えられるプラスαが不可欠ではないかと感じているところです。

「国家の品格」という本が何百万部というベストセラーになってしまった背景には、国際基準・国際世論に対する国民の潜在的なもやもやがあると思います。エモーショナルな表現が目立ちますが共感できるところもあります。

例えば、以下のような概念を貧困削減のプラスαとして頭に浮かべてみました。

「途上国は、国力が小さくて生活が楽でなくとも、それぞれの社会や個性を大切にすることを願っている。それはこれからの日本の地域社会や日本人にとっても共通する目標なのだ。グローバリゼーションに振り回されず、それぞれの社会や個性を尊重する世界を作っていこう。日本は固有の歴史の中で、西洋とは少し違った社会の仕組みや個性を形成した。このアセットを生かして、それぞれの社会と個性を尊重する世界を創っていくことは日本自身にとっても不可欠だ。」

米国経済主導のグローバリゼーションから自国の社会・個性を守る方法として、ある国は一国工業化を重視し、それが無理な国は資源の自立的活用に重点を置く。両方とも難しくて、自然環境との調和に活路を見いだす国々もあるかもしれません。色々、応援すべきでしょう。

日本人の強い共感を得られる援助の狙いや進め方として、プロジェクトX的な発想があるのかもしれません。「ものづくり」「黙々と手を動かす」等々。けれどもこれからの若者達に受けるかどうかは、疑問だと思っています。

日本人の共感という時にとくに重要なのは、若者の共感でしょう。ODA予算の継続的減少が長期的に一番響くのは若者離れです。将来の自分の生活をかける就職先としての魅力が失われつつある。これはODAの量だけでなく質の低下に直結することを危惧しています。せめて若者達に夢と生き甲斐を提供できる業界であって欲しいものです。

グローバリゼーションに対する反感に訴えるという意味では靖国参拝も例外ではないかもしれません。しかしこれが国際的誤解を増すばかりなのは言うまでもありません。国際的共感を得られる日本発メッセージを出すようなODAを期待したいものです。余談となりますが、ODAと国際文化交流との協調も将来、重要ではないかと感じます。歌舞伎や能も貴重ですが、いつもそれではなく、例えば経済振興と文化交流と環境保全とが一緒になったような援助があると、国内的にも国際的にもショーウィンドウ効果が大きいのではないでしょうか。

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