ODA総合戦略会議(第13回)
以下は、2003年10月28日開催の第13回ODA総合戦略会議に委員として出席した大野健一(GRIPS)の個人的なまとめと感想である。公式議事録の発表前に関係者に報告をすることは、日本の外交に差し支えのある内容を除いて、各委員の判断で実施して構わないという合意(第2回会合)に基づき報告するものである。川口外相(議長)は欠席。
主要議題:スリランカとベトナムの国別援助計画
スリランカ(絵所教授主査)とベトナム(大野委員主査)の国別援助計画の最終ドラフトが完成し、これらを本会議の最初の国別援助計画ドラフトとして討議し承認した。ただし、本日のコメントを反映しての修文の必要性については各主査に任された[ベトナムについては部分的修正の可能性を検討中]。その作業後、外務省、政府の手続きを経て正式のものとなる。会合は大半をスリランカの議論に使い、残りの時間をベトナムの議論にあてた。事務局からの報告事項(新ODA大綱、イラク、TICAD3、新JICA)は時間不足のため割愛された。
スリランカのドラフトでは、意義としてシーレーン、民主主義、南・東南アジアの結節点が提示された。援助の重点分野としては「平和定着、復興」「輸出・観光・環境立国(外貨獲得能力)」「貧困対策支援」が提示された(ドラフト参照)。さらに絵所教授から、東京復興会議に反政府側が参加しなかったため不確実性が残ること、個人的な感想としてなるべく早く目に見える支援を始動させることの重要性が述べられた。
委員からは明晰性、分析などを高く評価する意見が複数寄せられた。その他に、以下のようなコメントが寄せられた。
--最も多くのコメントは、いくつかの課題が並列されているが、その重点化・シークエンシングが明確でないというものであった。「目に見える」緊急援助と、長期課題の開発・輸出・産業とは別に考えなければならないこと、後者にはいくつかの条件(政府の安定性、政策体系の現実性・具体性、長期ビジョンの合意等)が必要、過去の失敗の原因究明も重要、民間投資誘致にはインフラ整備が前提ではないのか、といった意見が寄せられた。ある委員は課題が総花的であると述べた。→(絵所)スリランカ側の実施体制はしっかりしている、また短長期のシークエンスの考察は必要ないと思う。[シークエンス問題は、先に同国を議論したときにも大野が指摘したところである。絵所教授の見解には同意しがたい]
--他ドナーが撤退した今、日本の援助シェアが直接で5割、間接も入れると大半を占めるが多すぎないか。25%くらいで十分ではないか。リーダーシップを発揮しドナーコミュニティーをもっと動員すべきではないか。→(絵所)多すぎるとは思わない、モデルケースと考えればよい。(吉川審議官)支援会議で日本は45%だったが3割に向けてシェアを下げていきたい。
--目的としてのスリランカ自身の開発、環境、貧困などをもっと強く書くべき。→(絵所)要約はともかく本文ではそうなっている。
--同国の開発戦略「Regaining Sri
Lanka」をどう評価するか?→(絵所)個人的見解だが、アメリカ人顧問が作成した月並みで自由化一辺倒の文書である。スリランカにオーナーシップが見られない。
ベトナムについては大野が報告。3月のショートドラフトと大筋は同じだが、絞り込み方は教育・医療・インフラといった大分野ではなく各分野のサブセクター・支援項目ごとに3段階(重点、検討、しない)で詳細に絞り込んだ(ドラフト参照)。理念・目的、政策対話等はODA大綱に準じている。将来の援助規模を制度・政策改善に条件付けたこと(ただし硬直的ではない)、貿易投資環境改善が現時点の重要事項として意図的にハイライトされている。また改定過程では予想以上に現地の主導性が発揮されたこと、関係者間の情報交換が進んだことが評価される。問題は、現地主導性をどう制度化するか(サステナビリティ)、ベトナム開発に関わるアカデミックな根本的議論をどう追加していくかであると述べた。
これに対しては次のような意見が出された。最初のものを除き、大野が再コメントする時間はなかった。
--社会セクターにがっかりした。分析がなく、結論が導かれた理由がわからない。たとえば先に就学率がかなり高いと述べながら、就学率のさらなる上昇を重点化するというのは矛盾である。少なくとも保健は書き直して欲しい。→(大野)現地では毎週分野ごとに文書を作り議論したが膨大でとても盛り込めない。結論だけを書いた本文からは個別項目の採択理由が読み取れないことは理解して欲しい。農業、企業改革、マクロなども含め分析はたしかに不十分だが、これまでにない深く広範な分析を1年間でこのチームに期待するのは無理ではないか。
--「我が国にとって」という言葉を削るべし。国際的に注目されるベトナムで我が国の援助戦略を打ち出すというようなことはいわなくてよい。税制に言及がない。
--東京・現地で実施したNGOとの会合の結果がどう反映されているか教えて欲しい[環境、評価、NGOとの連携で大幅にとりいれた、これについては別途回答する予定]
--「民間企業との連携」に加えて「NGOとの連携」の文言を追加して欲しい。環境記述はよいが、なぜフォン川を重点にするのか。
--これまでインフラ・成長を支援してきたが、これからは成長の歪みの是正が重要と理解する。後者に力点を置くべし。
--「安全保障および経済的繁栄」という言葉はよくないので大綱と同じ「安全と繁栄」にすべし。「対中外交との脈絡」の一節が曖昧なので削るべし。
--スリランカと同様、わかりやすさと評価の容易のために目標体系図を1ページ加えることを推奨する。
--ベトナムが成長の踊り場にあるという分析は明快だが、一方で援助を全分野にわたって行うという方針に矛盾はないか。