ODA総合戦略会議(第19回)
以下は、2004年12月3日開催の第19回ODA総合戦略会議に委員として出席した大野健一(GRIPS)の個人的なまとめと感想である。公式議事録の発表前に関係者に報告をすることは、日本の外交に差し支えのある内容を除いて、各委員の判断で実施して構わないという合意(第2回会合)に基づき報告するものである。
議題: ODA中期政策、パキスタン(最終案)、フィリピン、ラオス、ウズベキスタン・カザフスタン
児玉審議官より前回(大野は欠席)の当会議での意見を踏まえ、ODA中期政策案の部分的修正点が説明された。これに対して数名の委員から更なるコメント・意見が提示された。「人間の安全保障」を生かした案件例として末尾に添付されている2例が適切かどうかについての議論があった。大野は、人間の安全保障の概念がよくわからない、この2例では貧困削減・住民参加のプロジェクトと等値されているがその理解でいいのか、狭すぎるのではないかと質問した。[人間の安全保障は現在日本政府が重点的に打ち出している概念であるが、人によって理解が異なること、オペレーショナルな付加価値があまりないこと、他ドナーに浸透していないことなどの問題があるように思われる。定義にしても、@貧困削減・住民参加、A医療・教育、Bポストコンフリクト国支援、あるいはCすべての援助に通底すべき留意事項、などが混在しているようである]
パキスタン国別援助計画の最終案が平島成望主査から説明された。大きな目的を持続的社会の構築・発展に置き、@人間の安全保障の確保と人間開発、A健全な市場経済の発達、Bバランスの取れた地域社会・経済の発達を援助戦略の3大方向性とし、それぞれについての重点課題が述べられた。これに対しては、複数の委員から絞り込み・プライオリティーの提示が不足しているという指摘があった。さらに、中間目標が必要、他ドナーと比べて日本はどこをやるのか、重点課題の列挙に精粗がある、東アジア型成長は無理だから社会安定・人間開発というより控えめな目的にするという理解でよいのかといった質問があった。人間の安全保障を人間開発と並べるのはおかしいという指摘もあり。また核を持つ同国に対しては、援助を継続・停止する条件も明確に示すべきという意見もあった。大野は、パキスタンの開発課題を記述した文章としてはよく書けているが、国別援助計画の性格にかんがみ、重点の絞込みをしていないのは不足であるとした。あるいは、同国は非常に困難なケースであるから、まずビジョン共有の材料としてこの計画を位置づけるとすれば、現場レベルでの援助の絞込みが残された作業として存在することになる。
フィリピンの国別援助計画の作業方針が主査の吉田恒昭氏から主として方法論を中心に説明された。これに対しては、不要案件をリストラすることは重要だが本当にできるのか、吉田氏自身のフィリピン開発のビジョンは何か、フィリピンは文書を作るのはうまいが政治介入があって実施されない国である、これまで開発に失敗してきたという事実から出発すべき、といった指摘があった。
ラオスの国別援助計画の主査である原洋之介氏から、ラオス経済の特徴、たとえばランドロックであるが貿易・人的移動は活発に行われていること、日本企業の投資がないこと、国家公務員試験がなく人材育成してもキャパビルにつながらないことなどが説明された。ベトナムと同様、次期5カ年計画にインプットする予定であることも述べられた。
ウズベキスタン・カザフスタンの国別援助計画の主査である石井明氏から、作業方針が述べられた。中央アジアはテロ・米軍駐留・域内対立などで不安定要因を抱えていること、カザフのエネルギーが重要な要素となること、総花式援助ではなく日本にできること、できないことの区別を明確にしたいことなどが説明された。
事務局から国際協力50周年に関する報告があった。次回会合は1月中旬を予定。