コモン・バスケット型支援
〜資金投入、枠組みづくり支援の可能性〜
(2003年2月)

PRSPの枠組みの下では、一般財政支援やセクター・プログラムにおけるコモン・バスケット型の援助が奨励されている。そこでは、効果的な援助やアカウンタビリティの確保のためには、資金投入と共に政策枠組み/プログラムの内容やその評価・モニタリング制度、透明性ある資金使途を可能とする仕組みづくりへの支援が一対となって考えられている。仕組みづくりの支援においては、プロジェクトを対象とした従来型の日本の援助方式では想定されなかった課題も多く、日本の取組みについての早急な検討が必要とされている。

  1. 資金投入の可能性
    現行の日本の援助スキームの中でコモン・バスケット型への資金投入可能なスキームは、ノン・プロジェクト無償である。具体的には、セクター毎のコモン・バスケットに対しては、ノン・プロジェクト無償の見返り資金を用いる。特に1998年に「構造調整改善努力支援無償」の枠内に創設された「セクター・ノンプロジェクト無償」(導入当初の名称は「環境・社会開発セクター・プログラム無償」)は交換公文において見返り資金の使途セクターを特定することが可能である。また、一般財政支援に対しては、2002年12月に廃止決定されたが(後述)、「債務救済無償」の本体資金により対応したタンザニアの例がある。

コモン・バスケット型の支援が可能なスキームと実績
(PRSPおよびセクター・プログラムに関連するものを中心に)

スキーム名 投入の実績【国名/セクター】 方法
見返り資金を伴うノンプロジェクト無償すべて【構造調整改善努力支援無償(セクター・ノンプロジェクト無償*1含む)、食糧援助/食糧増産援助】 ザンビア/教育*2 見返り資金
債務救済無償 タンザニア/「貧困削減財政支援(PRBS)」*3 本体資金
注:*1 セクター・ノンプロジェクト無償については、既に本体資金をコモン・バスケットに投入することが可能となっており、2002年度の実績としてはモザンビークの農薬処理のためにコモン・バスケットに投入した例がある。
 *2 2002年度中にさらに2,3実績がある見込み。
 *3 2001年11月より開始、2002年12月(債務救済無償の廃止決定)までに交換公文が締結された債務救済無償5件の合計14.05億円のうち半分の約7億円が、PRSPの優先分野に使途を特定した特別口座である貧困削減財政支援基金(PRBS)に投入された。 (ODAホームページ、E/N締結状況より)。
出所:外務省からの聞き取りによる。
  1. 枠組みづくり支援の可能性
    コモン・バスケット型への資金投入を行う際には、政策枠組み/プログラムの内容やその評価・モニタリング制度、透明性ある資金使途を可能とする仕組みづくりへの参画が不可欠である(下記の表を参照)。日本は、ドナーと政府の協議の場である開発パートナーシップへの参画(解説4-1、4-2、5-2)やセクター・プログラム開発調査(解説5-1)を通じてこれら枠組みづくりの支援に取り組んできた。

コモン・バスケット型支援と枠組みづくりの支援対象

政策枠組み/プログラムの内容 評価・モニタリング制度 透明性ある資金使途
一般財政支援 PRSP 貧困モニタリング 公共支出管理
セクターのコモン・バスケット セクター毎の戦略(セクター・プログラム) セクター毎の指標 セクター毎の資金移転の仕組み

評価・モニタリング制度や公共支出管理の制度構築の試みは、PRSPに先立って途上国に導入されていたが、PRSPの進捗の早い国では、それらを貧困削減効果という観点から一つのサイクルとして動かす取組みが始まっている。具体的には、@PRSPによる重点セクターの設定(重点セクターではセクター・プログラムの策定が奨励される)、Aセクター・プログラムの予算化と執行、B成果に応じたPRSPにおける重点セクターの見直し、という一連の流れの中で、貧困モニタリングやセクター・プログラムで設定された指標を活用していこうとの動きである。以下に、このサイクルの概念図を示す。

概念図:PRSP体制下での評価・モニタリングと公共支出管理のリンク

実際には、セクター・プログラムはすべての重点分野をカバーしておらず、活動ベースでの予算策定も難しい。また優先化のための情報となるような具体的な指標の設定や測定結果のタイムリーなインプットも困難である。このような現状に鑑み、PRSPの進捗の早い国では移行措置として仮想的な貧困削減基金が創設されている。例としては、タンザニアの貧困削減財政支援(PRBS)基金やウガンダの貧困行動基金(Poverty Action Fund: PAF)がある。これらの基金は、一般予算の会計・監査システムの下で執行されるが、PRSPにおける優先度の高い分野に使途を特定しており、債務削減や一般財政支援による資金の受け皿となっている。また、基金の当初目的は資金使途のトラッキングであったが、最近では、貧困モニタリングの結果を用いて投入した資金の貧困削減効果を審査するしくみも重視されつつある。

前述のとおり、日本はかかるしくみを前提に債務救済無償をタンザニアのPRBSに投入した経緯があるが、債務救済無償の廃止に伴い、今後は、債務救済で「浮いた」資金が100%このような基金を経て利用される保証はない。

このような状況のもとで、現場で活発化するPRSP、公共支出管理、貧困モニタリングが一体となった全体のしくみづくりは、@一般財政支援とどうつきあっていくかにとどまらず、A債務救済で「浮いた」資金のアカウンタビリティをどのように確保していくかという観点からも、非常に重要である。日本として、政策・制度枠組み全体にどう関与していくのかを検討する必要がある。

[タンザニアのページ]