PRSP枠組み構築への取組み事例
〜評価・モニタリング制度づくり支援〜
(2003年2月)

貧困の評価・モニタリング制度は、PRSPにおける「結果重視、成果主義」を具体化するツールとしてPRSP枠組みにおける柱の一つである。

タンザニアでは、PRSP導入に先立つ97年の「国家貧困撲滅戦略」(National Poverty Eradication Strategy: NPES)策定以降、貧困の推移をモニタリング、評価する必要が認識され始め、99 年には同戦略を策定した副大統領府が中心となって「貧困・福祉指標」(14セクター、76指標)が選定された。しかし、計測・集計方法や政策へのフィードバック体制等、それらの指標を実際に活用するための具体的措置は定まっていなかった。他方、同時期に、ドナー共通のタンザニア支援戦略(TAS)を準備する作業部会の分野別小部会の一つとして「データ・情報・コミュニケーション」部会が設置され、貧困モニタリングのあり方をめぐって活発な議論がなされた。

これらの動きを踏まえ、Full-PRSP(2000年10月完成)には貧困の評価・モニタリングのための指標が盛り込まれたが、それらを実施に移すための具体的な体制が欠けていたため、世銀・IMFジョイント・スタッフ・アセスメントでは、家計調査(2000/2001)の実施や実効性あるモニタリング体制の構築が勧告された。これにより、具体的な実施枠組みづくりに向けた取組みがタンザニア政府及びドナーの間で本格化した。

具体的には「行政データ(Routine Data)」、「調査・センサス(Survey & Census)」、「研究・分析(Research & Analysis)」及び「普及・喚起(Dissemination & Sensitization)」の4作業部会、そしてこれらを統括する貧困モニタリング運営委員会が設置された。ドナー支援のもと、各作業部会において、貧困モニタリング・マスタープラン(以下M/P)のドラフティング作業が始まった。特に「調査・センサス」部会では、(既に進行中であった)家計調査を含む諸活動が実施されていった。その結果、2001年12月には4部会の機能を核とした、貧困モニタリングにかかる3年間の具体的な活動計画を示すM/Pが完成した。

タンザニア貧困モニタリング体制と日本の貢献

このようにダイナミックに進むプロセスに対し、日本は、モニタリング体制がPRSPプロセスにおいて決定的に重要な要素であると認識し、2000年4月より企画調査員を配置、関連会合に参加し始めた。まずは貧困モニタリングのドナー会合において、(いわば中途参加者として)如何にメンバーシップを確立するかが大きな課題であったが、家計調査などの主要調査への支援をきっかけに次第にプレゼンスを築いていった。M/P策定においては、貧困モニタリングを監督する運営委員会にドナー代表メンバーとして参画するとともに、担当企画調査員と長期専門家(村落キャパシティ・ビルディングを担当)が分担して4作業部会すべてに参加し、M/Pドラフトの内容に対して助言を行った。また、4部会のうち特に「調査・センサス」、「研究・分析」に重点をおき、それらの部会が主催する主な調査(前述の家計調査や参加型貧困アセスメント等)を支援した(前頁の図を参照)。

資金面では、設置されたバスケットファンドにイヤーマークという形で、現地JICA事務所が所管する経費を投入した。その際、使途明細などは日本側ルールで提出を求めるなど、必ずしもLMDGが提唱する「資金の共通管理→現地ルールに基づくディスバース」ルールに従うものではなかったが、JICA事務所は、具体的な貢献(=知的・資金面でのサポート)なくしてドナー会合でのプレゼンスは確立できないとの危機感を強くもち、認められた資金ニーズに対し、活用可能な予算を機動的に充当していった。

M/Pは、7分野から合計39の指標を設定し、それらの具体的なトラッキングの方法、フィードバックのシステムを備えるもので、包括的なモニタリング制度と呼ぶにふさわしい内容である。今後はその実施段階における予算の確保、政府・関係機関の能力向上、予算サイクルとの関連付けや市民社会とのリンクの強化などが課題とされている。日本は、枠組みづくりに対する支援実績をふまえ、「調査・センサス」部会を担当する統計局の能力向上のための技術協力プロジェクトを検討中である。
 

参考文献:
  • United Republic of Tanzania [2001] Poverty Monitoring Master Plan
  • 前タンザニア派遣企画調査員(PRSPモニタリング担当)とのインタビューによる(2002年11月15日)。

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