11. あだ名は変わるよどこまでも・・・

現在の私の仕事の3分の1くらいは、ウィーンにある本部や他の国の事務所との交信に費やされている。なにせまだまだ中央集権的な組織なので、現場で決められない上に、今の事務所は代表が空席で正規職員は新人の私1人だけだから、いろいろな人にアドバイスを請うのは仕方ないのである。そんなわけで、会ったこともない人たちとメールで交信することが多いのだが、どうも名前をちゃんと書いてくれる人が少ない。

私の名前は“Junichi”である。何がそんなに難しいのか、まず某トルコ人のマネージャーとフィリピン人の専門家は、突然私を“Junmori”と呼ぶようになった。タイ事務所にいる某ベトナム人工業官からのメールは、なぜかこれまでずっと、“Dear Junishi”ではじまる。なぜ誰も「それちがうんじゃない」と言わないんだろう。本人が言うのも変だしなぁ。本部の某IT担当官は、なぜか最初から“Jury”である。沢田研二か、まったく。

こんなことを考えていると、これまでのあだ名の変遷を思い出してしまう。

小学生くらいのときはまずは名前を呼ぶ習慣がない。ので、覚えている限り私の最初のあだ名は「ガイジン」である。そう、外人。小さい頃から鼻が高くどうも日本人離れしていたので、目立ったのである。年を重ねるにつれて子供はわんぱくになる。そうすると、次のあだ名になるのは、「鼻高」。今考えると笑っちゃうが、結構当時は気にしたときもある。鼻に軟骨が入っているなんて知識は小学生に無いから、押せば低くなるのでは、とおもって一生懸命押したときもある。なぜか小学一年生からずっと同じクラスで、しかも苗字の五十音が近いからいつも一緒にいた悪友の文字通り悪ガキは、しまいには、私をこう呼んだ。「おい、鼻!」。・・・・まったく子供ってのは、無邪気で残酷な生き物である。

そんなわんぱく盛りがおさまりつつある小学校高学年くらいになると、あだ名も少し落ち着いてきて、苗字もしくは名前で呼ぶことが多くなる。私の苗字は、いうまでもなく「もり」である。しかし、どうも2文字というのは、普通に呼ぶにはすわりが悪いようである(逆に怒鳴るときには呼びやすいようだ)。ので、もり+XXというか感じで、2文字くらいつけて呼ばれるパターンが多い。そこでつけられたのが、なぜか「もりさん」。一時期名前を「さん」づけてよぶことがクラスではやったのだが、ブームが過ぎた後もなぜか私だけには残った。おそらく、これも2文字の苗字のせいであろう。「さん」と呼ばれていたのは、尊敬されていたからでは残念ながらない。

しかも、このあだ名がなんと中学時代まで続く。この頃になると運動部に所属していた私は先輩後輩の規律の世界に入ったのだが、なぜか先輩も、「おい、もりさん」。方や、先輩で「ボケ」というあだ名の人がいた。容姿は結構まともで、体力もあったので、理由は不明である。ここで、「おい、もりさん!」「はい、ボケ先輩!」というよくわからない先輩後輩の会話が成立する。が、当時は疑問をあまり感じない。

中学時代の後半から高校時代は、いろいろである。まず、「ワム」。当時人気の2人組の歌手である。ジョージ・マイケルでないのほうの、アンドリュー・リッジリーに似ていたそうだ。更に、「ロッキー」。シルベスタ・スタローンに似ていたからである。次に「ホシノ」。当時スローカーブでプロ野球界を席巻した阪急(のちオリックス)の星野投手にそっくりだったそうな。そして、大学時代になると、「もりじゅん」。これで大体落ち着いたかな、と思うと、会社に入った後は、「バート」。セサミストリートのキャラに瓜二つだとのこと。さらに、「シューマッハー」。言わずと知れた、F1の皇帝である。外人顔が復活である。

20代なかば以降はほとんどの時間を外国で過ごしてきたので、そうなるといまさらガイジンと呼ばれることもない。ので、大体の人は“Junichi”、“Jun”、もしくは“Mori”である。が、国によってはどっちが苗字でどっちが名前なのか混乱が生じる。例えばマレーシアでは基本的にファースト・ネームで呼び合う習慣がある。が、日系の会社なので、まずは日本人が私を「森さん」と呼び、現地職員は“Mori-san”と呼び始める。しかし、多くの人は“Mori”が私のファースト・ネームだと勘違いする。ので、親しくなったと感じ始めると、“Mori!!”と呼び始める。出張できている日本人にはこれがウケる。私の部下としてとても優秀な女性のSupervisorがいたが、彼女もときどき私を、“Mori!!”と呼んでいた。まあいいか、と思っていたが、あるとき同僚の日本人職員が、「知っている?Moriって苗字なんだよ。」と親切なのか余計なお世話なのか教えてくれた。かわいそうに、彼女が青ざめたのは言うまでもない。

さて、ベトナムにもどると、プロフィールにあるとおり、あだ名はモリガトーである。大体これは、VDFにいたときに前の席にいたベトナム人研究者のLさんが、「ありがとー」から「もりがとー」と言い出したのがきっかけである。さらに、どうやらベトナム語では、“ちょっと間抜けで愛嬌のあるニワトリ”を「ガリガトー」と呼ぶそうな(本当かなー)。それを一字変えて、「モリガトー」、これで完全に定着してしまった。

またいつか違う国に行けば、また違うあだ名が生まれるのだろうか。ちなみに、私の大学院時代の親友であったナオヒコさんは、モザンビークで働いたときには、「ナピコ」と呼ばれていたらしい。

(2007年2月)

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