15. 海外生活とプチストレス

その昔、以前勤めていた電機メーカーで、勤め始めホヤホヤの新人だった私は海外営業本部に配属されたのだが、そこで関連会社の海外駐在員から雷の洗礼を受けた覚えがある。もう毎日のように電話で怒られるのである。その時は、なんで皆こんなに怒りっぽいのだろう、と思ったものだが・・・。20代後半からほとんど海外に出っ放しの今であればなんとなくわかる。というか、自分も海外駐在員であった頃は毎日のようにいろいろなところへ文句の電話をかけていたものである。何度受話器をたたきつけたことか・・・。 

もちろん仕事はストレスが溜まるものであるが、海外にいるとそれプラス様々なプチストレスが日々蓄積されることが、大体の皆さんが短気になる理由ではないかと思う。先日休暇で日本に帰ったときは、ベトナムに戻ってきて普段何気なく過ごしているプチストレスをつくづく感じた。空港のタクシー(一応評判の良い会社)に乗ろうとしたら、バンに誘導され、挙句の果てにいつもより高い値段を言われる。1人なんだからバンに乗せるなよ!もちろんいつもの値段しか払わなかったけど。バイクや車が余裕で反対車線を暴走する、信号無視をする。町のタクシーはお釣りをもっていない。時に運転手が酒臭い。職場にねずみが走り、出張から帰ってきたら机の中にいれていたチョコレートの粒が綺麗に包装紙だけになっていた。しかも、帰ってきたら机の下にネズミ捕りがセットされていた。俺が踏んだらどうすんだ、こんなところにセットするな!などなど。 

マレーシアで勤務していた時は、到着したときに税関で荷物をほじくるように調べられた。要は違法なものを見つけて賄賂をせびろうという魂胆なのだが、これがあると「ああ、マレーシアに帰ってきたな」と思ったものである。警察官が交通違反に対して「見逃してやるから賄賂よこせ」と迫ってくることも日常茶飯事。従業員は見張っていないと仕事が終わっていなくても帰る。ガードマンは車が来ると見境なく自動的にバーを上げる(私は『自動ドア』と呼んでいた)。アパートのエレベーターがよく故障する、などなど・・。 

このように、プチストレスの積み重ねで許容量が限界に達しているとき、何かあると爆発してしまう、という訳です。海外駐在員から激怒されて涙した皆さん、怒るのはよくないことなんですけど、相手側の事情も少しわかってくださいねー。その昔、私の尊敬する本社の部門長にいろいろ電話で文句を言ったときのことであるが、その方は、うんうん、と聞いてくれて最後に、「まあ、たまにはガス抜きが必要なんだろ」と冷静に言われ、思わず素に戻った覚えがあります。彼は偉大だった。 

ここでの疑問は、「ならばなぜ海外で働くの?嫌なら日本に帰ってくれば?」であろう。理由はいくつかあるが、主なものを2つ。まずひとつは、日本はとっても良い国であるが、それでもやはりある程度のストレスはあること。通勤時間が長く、しかも満員電車(これまで住んだベトナム・マレーシア・アメリカともに通勤時間は20分くらい)。横断歩道で車がまず止まらない(ボストンではまず間違えなく車は止まった)。若者の柄が悪い(ベトナムの若者の方がまだかわいいかな)。蚊とゴキブリが東南アジアに比べて素早い(関係ないか・・)、など。 

2つ目は、思いもよらぬ状況に直面して、「なんじゃこりゃ?」という刺激。昔からかなりの鈍感だと言われている私、日本ではあまり驚きません。しかもかなりの低血圧。たまに頭に血が上らなければすぐ眠くなってしまうのです。 

3つ目は、やはりいろいろな国でいろいろな人たちと接する面白さでしょうか。自分の常識が、場所が違えば常識ではない面白さ。そして、国籍や民族は違えども、根本にある共通の価値観を見出し、意気投合する瞬間はやはりよいものです。 

異国で生活することにより得るのは、プチストレスと、それに見合うプチ・・・楽しさ。でも高血圧の人にはおススメしないかな?

20082月)

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