特別報告 

国際開発学会「第13回全国大会」に先だち、2002年11月27日に「ODA改革を考える」と題するプレシンポジウムが開催されました(於:JICA国総研)。学者から実務関係者まで多くの方が参加し、様々な視点から活発な議論が繰り広げられました。このページでは議論の要旨をGRIPS開発フォーラムの文責にてまとめたものをご紹介します。

シンポジウムの概要

司会

山下 彰一

パネリスト

絵所 秀紀 (法政大学経済学部教授)
草野 厚  (慶応大学総合政策学部教授)
山谷 清志 (外務省経済協力評価室長)
弓削 昭子 (UNDP駐日代表)

パネリストによるプレゼンテーション

弓削氏

 

  • ODA改革を議論する切り口として4つの視点が挙げられる。 @ 国際社会から見た日本のODA。国際開発分野において日本は何を期待されているのか。 A 地域レベルから見た日本のODAの役割。アジア・アフリカ地域において、日本はどう活躍するべきか。 B 途上国からみた日本のODA。Demand sideからの要求は何か。そして C Supply side、日本からみたODAの役割。

  •  OECDの「DAC新開発戦略(IDGs)」をもとに、国際社会の合意を得て8つの目標がMDGsとして設定されたが、日本のODA政策にはMDGsが反映されていないのではないか。国際社会の援助枠組をつくるMDGs、モニタリング、キャンペーン支援、国民の参画をどのように促進するのか、具体策を国別援助計画に盛り込んで欲しい。

  • 地域レベルにおいて、対アジア協力を明確にするとともに、国別援助計画に加えて地域別援助計画を作成してはどうだろうか。

  • 途上国の視点に立ち、HIV、IT、紛争後支援等で日本はどの分野で必要とされているのか考えたい。また、支援を効果的に行うためには専門家の人材育成も重要課題である。

  • 国別援助計画は重点分野を絞り、効果を上げることに専念したらどうか。

  • どの分野であれば、日本が比較優位を持てるのか考察が必要。開発経験、知識、人材を途上国と分かち合えるのが日本の強みだ。

絵所氏

  • 今日まで、日本のODAは目標が欠けていたので、その明確化が最優先事項。「ODA大綱」にしても主体性が見えない。国際潮流の紹介に留まっていた1992年の「ODA大綱」に比べ、1999年のODA中期政策はだいぶ踏み込んだ内容となっているが、改善の余地はある。基本理念や重点事項は取り上げられているものの、明確な目標が提示されていない。

  • 日本が唱えている途上国の「自助努力」促進は、ODAの目標ではなく手段である。 

  • 援助協調(ドナー・コーディネーション、パートナーシップ)に対応するならば、現場主義にするべき。日本の応対が右往左往するのは、問題設定がされていないからだろう。

  • 資金援助が多額であっても、(資金面の)限界を知らずに進めると、多くの事が援助項目に盛り込まれてしまい方向性を見失う。日本のODAがその姿である。ODAは外交手段の一つではあるが、開発を目的とする点において根本的に異なる。外交手段とODAは違う。

草野氏

  • 日本の厳しい財政に対する認識が甘い。ODAは「善を行っている」という前提で議論がされていないか。ODA政策だけでなく、公共政策全体に言えることだが、まだ無駄が含まれている。納税者への説明責任が肝要。

  • 自民党の調査によれば、無償資金協力の事業単価は国内の公共事業の単価基準に基づいているが、国内基準は2〜3割高く、途上国に適用するのは納税者の視点から疑問である(JBICは国際競争入札方式なので、適正な価格に修正されているとみる)。

  • 平時の援助活動だけでなく、緊急時の援助活動についても考えるべきではないか。JICAによる紛争直後の支援も可能となれば、ODAは平和構築・紛争予防策とも関連してくる。時間軸を入れて、ODA活動を考える必要がある。

  • 今までは予算に余裕があったため、目標なくして小切手をきることが可能だった。しかし、日本の経済状況が悪化した今、日本経済は回復しないという前提で援助議論を行う必要がある。ODAの必要性を納税者に納得してもらえるよう理論武装が必要。

  • 貧困撲滅という目的も重要だが、自助努力の視点に立てば援助額が当該国の財政の半分を占めるというのは不正常。現行の援助は150カ国以上に供与されているが、外交の観点から重点化してはどうか。

  • 重点化の方法として、@分野毎(人材育成、教育等)、A地域・国(アジアを重視していく等)、そしてB時間的概念(JBICによる支援のように平時重視にするのか。緊急時援助もあって良いと思うが、既存の緊急時援助体制はお粗末)の3つが挙げられる。

山谷氏

  • 現職に就くまで大学で行政改革・評価を中心に研究し、現在は政策レベルから行政を考察しているが、一口にアカウンタビリティと言っても、実現したい価値によって確保されるアカウンタビリティは異なってくる。

  • ODAの一番の難点は、問題が伝わりにくいということである。身近に起きる出来事ではないので、国会でも「生々しい議論」にならない。それ故、改革が難しいのではないか。

会場を含めたディスカッションでは以下のようなコメントがなされました。

ODA目標の明確化・ODA大綱について

  • 「ODA大綱」ではなく「国際協力大綱」としてはどうか。ODAに特化する必要はないのではないか。

  • 「『ODA大綱』ありき」で見直し議論を繰り広げているが、「ODA大綱」や「中期政策」をそのまま保持する事の是非についての議論はないのか。

  • 援助の目標が明確でないというが、貧困削減がゴールと誰もが認識しているのではないか。そしてMDGsこそスーパーゴールとして掲げられているのではないか。目標よりも戦略の明確化が求められているのだと思う。

日本の外交とODA

  • ODAを議論する前に、国益の定義は何かとの議論が欠如している。

  • 外交とODAは重なりあう部分はあるが、根本的な性格は異なる。

  • 外交的にODAを使用するには、「@限られた予算をどう使うか→A優先順位はどうするか→B納税者に説明し納得してもらう」のステップを踏むべき。財政に余裕がある時は普遍的な価値(eg.民主主義)の推進で良かったが、今はもう違う。

  • よく 「ODA(は)→アジア経済の安定(に役立ち)→日本の安定(に繋がる)」と聞くが、ODAとアジア経済の安定を機械的に結び付けてはいけない。

  • 中国への開発援助について、必要・不要と両方の意見があるが、この点は外交課題として議論する必要がある。

ODA改革議論について

  • 「ODA総合戦略会議」でODA大綱の見直しが行われているが、同会議が外務省の下に設立されている時点で、改革案論議に限界があるのではないか。

  • ODA議論にあたり次の3点に留意してもらいたい。 @同じ顔ぶれで議論せずに、新メンバーを加え、 Aお役所的議論に留まらないよう、外部者は建設的批判を持ち込み、 B議論だけでなく、実行に移すこと。

  • 援助の議論はODAだけに収斂しているが、ODA以外の援助も含めた総合的な観点から議論をしてはどうか。

  •  途上国への民間資金フローは増加しているが、ODAの枠組でしか出来ないこと、ODAの枠組外で行う活動、NGO・民間セクター・ボランティア等による活動等、棲み分けの可能性についての議論も必要ではないか。それぞれの活動において、比較優位を生かすことが求められている。

  • ODAを効果的・効率的に行えと言うが、アウトカム(outcome)をどう定義するのか。アウトカムを出すには明確なターゲット(target)が必要だが、どのような変化をターゲットと見るのか。

  • トップドナーとして君臨してきた日本が今さら国別援助計画を見直している場合ではなく、議論を実行に移してはどうか。

日本の体制について

  • 現地事務所への権限委任が大事である。現地事務所を強化しなければ取り残され、今後の戦略的議論に組み込んでいけず、致命的になるだろう。意見を述べるだけでなく、リーダーシップを率先して発揮しなければならず、そのための制度・体制強化・人材育成が重要。

  • かつて途上国でJPOとして開発に携わったが、現地事務所の権限の幅が狭いと実感した。日本の方針決定のスピードが他国から遅れをとっている事について、政府関係者の認識度はどれぐらいか。

  • 日本はMDGsに遅れをとっている。MDGsは国際的に合意を得た枠組なので、MDGsに取り残されることによる影響は大きいことを認識すべき。

  • 平和構築に見られるように、ODAは常に新たなニーズに対応する必要があるため、人材育成が必要。実務・学会のリンクが不可欠になる他、大学関係者が現場に出ていかれるような環境整備が急がれる。大学自らコンサル業務を運営できるよう、法制度整備も必要と思われる。

  • 英国はDFIDに、ドイツはBMZ、GTZ、KfWへと体制を変えた。旧態依然なのは、先進国の中では日本だけである。

  • 難しい問題に対処できる人材が不足している。(以前のように気前よく)お金が出せないからこそ、付加価値を補強すべき。

  • 日本はODA事業の規模に比べ、人員が少なく、圧倒的にマンパワーが不足している。現在のODA議論では人材確保について触れられていないが、「プロフェッショナルの育成」という観点から、ODA担当の「定員」を増やすべきではないか。

  • 日本は援助を得意分野に特化すべしとのことで平和構築に言及があったが、自衛隊派遣は日本の得意分野でないのではないか。

  • 円借款を必要とする時代は終わっているのではないか。円借款として融資しても、(債務救済のために)無償補填しているのでは意味がない。無理に実施しているのではないか。現行の人員にあわせるぐらいの規模で行ってはどうか。評価はどうなのか。

ODA予算について

  • ODA資金が各省庁に分散されているが、調整できるのか(中央省庁の再編で却って助長)。

  • 有償資金が過度に批判されている感があるが、全て無償資金で援助を行えるものでもない。有償・無償資金・民間資金の適材適所を考えてほしい。 

  • 技術協力のうち、JICAを通じるのは5割。残り5割の使途の更なる透明化も求められると思う。

  • 国連・国際機関といった多国間援助はODA全体の2割を占めるが、その透明性が低い。

評価について

  • 評価は「誰が」「何を目的として」「欲している」のかを見極めて行わなければ、意味がない。

  • JICAを独立行政法人化しても、運営(経営)方針の変化と経済的効果がなければ、意味がないのではないか。

  • 外務省がしっかりしていなければ、行政評価ができないのではないか。政策批評の力量は如何ほどか。

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