2002年9月13日
GRIPS開発フォーラム
WSSD・タンザニア・ロンドン出張報告
1.調査の概要
(1)
今般の海外調査は、@PRSPや東アジアの開発経験に関する現時点での当方の調査結果をWSSDのサイドイベント(セミナー)で紹介しフィードバックや関連情報を収集するとともに、AベトナムPRSP経験を国際比較の視点も含めて検討するためにタンザニア(アフリカのPRSP先行国かつ日本の援助協調重点国)のPRSPをめぐる状況に関する情報資料を収集し、B英国にて関係機関との意見交換を行うことを目的として、実施した。
2.現地調査内容
(1) 現地調査期間: 2002年8月28日(水)〜9月11日(水)
(2) 調査団構成: 大野泉・大野健一(政策研究大学院大学・教授)。
(3) 訪問先:
@ 南アフリカ共和国(ヨハネスブルグ/プレトリア): ヨハネスブルグサミット(WSSD)でのサイドイベント・セミナー参加(発表)、及び情報資料収集。
Aタンザニア(ダルエスサラーム): タンザニア政府(大蔵省、農業省、大統領府計画委員会等)、地方視察(キバハ地区農業プロジェクト)、主要ドナー(世銀、UNDP、DFID、デンマーク、スウェーデン、蘭、USAID)、研究機関(ESRF、REOPA)、NGO (TGNP)、及び日本大使館、JICA事務所。
B英国(ロンドン): DFID、研究機関(ODI)、及びJICA事務所、JBIC事務所。
(4) 主な活動・ヒアリング事項:
@南アフリカ共和国: WSSDでのサイドイベント・セミナー参加(発表)、当方の研究に関連する分野の情報資料収集。
A タンザニア: タンザニアのPRSP策定・実施プロセスについて評価すべき点、課題、今後の重点取り組み事項など(特に、次ラウンドのPRSPにおいて成長戦略をより強化する可能性、パートナーシップ活動における援助モダリティ偏重傾向の是非)。JICA支援による農業事業のサイト視察。
B英国: アジアとアフリカの相違をふまえたPRSP対応、PRSPにおいて成長戦略を拡充する可能性、援助モダリティと戦略面の議論とのバランス。
3.調査結果(主なポイント)
【全般事項】
(1) 成長戦略をメインストリーム化し、PRSPに象徴される現行の(貧困削減至上の)開発アプローチを改善する意義につき広範な理解がある点を、WSSDサイドイベント・セミナー、タンザニア、ロンドンでの関係者との意見交換を通じて確認した。世銀も "sources of growth" や "scaling up growth and spreading benefits"といった新標語のもとに、成長戦略に足を踏み入れつつある。
(2) また、PRSPという用語にこだわらず、PRSあるいは「成長・貧困削減中期計画」と呼ぶ動きも見られる。
(3) こういった環境変化の中で、今後、日本が成長戦略の具体化に向けた取組みを強化していくことはタイムリーと思われる。ただし、@バイで独自に行動するのではなく、途上国やドナー等とのマルチのパートナーシップの中に位置づけた戦略論議が必要なほか、A成長戦略の中身の議論になると、政府の役割や個別産業への支援の是非・方法などについて、従来から議論のあった欧米と日本(アジア)との見解の違いが顕在化すると思われる。
【WSSD】
(4) ヨハネスブルグでの一連の東アジア型発展に関するセミナーの主張は、コートジボワールのインフラ大臣の発言を含め、アフリカ諸国から強い関心が示された。
(5) また、ジェフリー・サックス教授(コロンビア大学)は、アフリカ開発に対しては@工業化(Urban-led/Coast-led Development Model)による成長戦略、A人間開発の2つを柱として取組む必要があり、現在のIMF・世銀アプローチは@を軽視しているとの発言。特に@に関しては、港湾都市に焦点をあてた製造業のFDI誘致を発展の牽引力にすべきと主張(*農業・農村開発をベースとした発展に悲観的すぎる点を当方より指摘)。
【タンザニア】
(6) ベトナム政府が既存の計画システム・開発ビジョンに基づき、強いオーナーシップをもって成長志向のPRSPを策定した経験に対し、タンザニア政府関係者から強い関心が示された。また、タンザニア政府も独自に大統領府/Planning Commissionを中心に”Medium-Term Plan for Growth and Poverty alleviation (2002-05)”の作成の動きがあり、次ラウンドのPRSP(現行版は2000年3月作成)の関係からも注目される。今後、同国におけるPRSPプロセスへの日本の関与の内容・方向性を検討するうえで、フォローが必要と考える。
(7) タンザニア側はPRSPを「PRS」 (“Poverty Reduction Strategy” としPaperを割愛)と呼び始めており、必要に応じて改善していく文書(”living document”)として位置づけている。同国では現行PRSPが拡大HIPCの条件を満たすために性急に作られたので、今後は成長戦略を含め内容の充実を図っていくべきだという意見が大半を占めている。(但し、同国への主要ドナーであるデンマークは現行のPRSプライオリティを維持したい意向で、ドナー間で微妙なニュアンスの違いあり。)
(8) 世銀タンザニア事務所も、次ラウンドのPRSと平行して準備するPRSCにおいて成長戦略を前面に押し出す意向。具体的にはPRSCを通じて、投資環境・インフラ・スキル開発などに焦点をあて、政策枠組の整備を支援予定。
(9) 援助協調については、タンザニア政府の公式見解やドナーの趨勢は共同行動の方向(budget support、common basket fundなど)にあるが、各ドナーの制約・状況によりプロジェクト型援助も可能、あるいはもっと積極的に前者と後者の適切なバランスが必要というのが大部分の政府関係者、世銀、UNDP、(DFIDを含む)バイの援助供与国のコンセンサスであった。この状況では、日本がプロジェクトを実施しながらも援助協調にも参加していくことに大きな異論は出ないと思われる。ただし、プロジェクトも共通枠組の中に関連づけ、説明責任を果たしながら実施することは最低限必要である。(この点はタンザニア現地のドナーやロンドンのDFID本部において共通の要請。)
(10) タンザニアにおける日本の援助活動は、近年のJICAにおける人的強化・政策的工夫を通じて、農業分野でリードドナーとなり農業開発戦略作成の支援、あるいは債務救済無償(本体)の一部を一般財政支援に繰入れているほか、保健・教育分野の新たなモダリティーへの対応フォローなどの成果がでている。これら実績をふまえ、更なる貢献を図るためには、日本のcore competenceを発揮できる分野・やり方で、少数の分野で主導権をとり、現行の援助協調に合わせながら、しかも完全に追随するのではなく必要に応じて柔軟に実施し、その理由を政府・他のドナーに明確に説明し正当化していくことである。
【ロンドン】
(11) WSSDやタンザニアで聴取した、@成長戦略の拡充、APRSPからPRSへ、B援助協調のボトムラインとしての(モダリティそのものより)戦略のマルチ化を重視する動きは、ロンドンのDFIDやODIとの協議においても確認された。
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