ワークショップ報告
Regional Workshop on Aid Effectiveness in Asia

(2003年10月20日開催 於:ハノイ)

2003年11月20日
GRIPS開発フォーラム
二井矢 由美子

去る10月20日、ハノイにて標記ワークショップが日本外務省、DfID、ベトナム計画投資省(以下、MPI)の共催にて開催された。以下、同ワークショップの概要及び所感を記す。ワークショップ出席に際しご協力頂いた関係者各位に心より感謝致したい。なお、ワークショップにおける配布資料はMPIウェブサイトでダウンロード可。

概要

  • 本ワークショップはローマ調和化宣言(表1)の東アジア地域における各国での具体的進捗にかかる意見交換を目的とし、日・英・越の共催にてアジア10カ国、マルチ・バイのドナー関係者等約100名の参加を得て、開催された(日本側ミッションの団長は古田外務省経済協力局長)。

  • ワークショップは以下の5つのセッションから構成された(2から4については表2)。

    1. 国際ドナー社会における取組み

    2. 東アジア7カ国における取組み

    3. 援助受入れ側の開発戦略へのアラインメント

    4. 効率的な援助に向けたキャパシティ・ビルディング

    5. 結論

  • 主な結論は以下のとおり。

    1. ローマ調和化宣言の有効性の再確認。

    2. 同宣言中でも調和化アプローチの多様性が強調されたが、本セミナーでも各国の事例を踏まえた多様なアプローチの存在が確認された。すなわち、適切かつ可能性のある領域を選択し(MPIは"cost effective"と表現)、具体的な成果をあげることを原則に調和化が進められるべきであり、「多様な側面を持つが、よくコーディネートされている」状態を目指すべき。

    3. 国の開発戦略へのアライメント、特に本ワークショップでは"Policy Matrices"という形で日本大使館から政策の優先事項へのアラインメントの重要性が提案された。

    4. ODAマネージメントのためのキャパシティ・ビルディングの重要性について合意を得た。特にベトナム政府はそのための具体的なプランを提示し、ドナーに対し協力を要請した。

所感

  • 従来、援助協調の議論において対極に位置すると評価されてきた日本と英国がこのようなワークショップを共同開催した意義は大変に大きいと思われる注1。これは日本のスタンスを国際ドナー・コミュニティに示すという政治的な意味にとどまらず、各途上国において両国が実態に即した歩み寄り(実質的な資金投入面の協調という観点から、互いに異なるアプローチに対する容認というレベルまで)を可能とする環境づくりに貢献したと言えるのではないか。このような成果をふまえ、(現場でのニーズがある場合は)DfIDとの歩み寄りに関する現場でのグッド・プラクティスが本ワークショップに引き続き生まれることを期待したい。

  • アラインメントの議論は、受益国の「政策の優先順位」及び「援助システムと手続き」の部分を含み(ローマ調和化宣言5.の8点目)、財政支援に通じうるアジェンダである。調和化のこれまでの議論においては、後者へのアライメントが強調される傾向にあったのに対し、日本大使館より提案のあった"Policy Matrices"はベトナムの文脈において前者へのアラインメントの重要性を主張した。これは同国においては、「援助システムと手続き」における「調和化アプローチの多様性」はベトナム政府やドナー間の共通認識となっており既に実施段階にあること注2、従って、むしろ「政策の優先順位」が(特にドナー側にとって)論点と考えられていることの反映であろう注3

  • 各国の条件の違いによって上流(政策へのアラインメント)から下流(実施システムへのアラインメント)までトータルでコントロールせずとも各援助の投入のコーディネーションが可能で、全体として成果を上げうる組み合わせがある点については、上述のベトナムの例も含め、実績を踏まえた議論を行っていくことが重要である。あるいはシークエンスやドナー側の制約といった観点から実際に可能である範囲を考慮して、カンボジア政府からのプレゼンテーションにおいても、「政策の部分での協調、実施の部分での多様性」というアプローチを提示された点は注目に値する。いずれの場合も、確実な実施を通じた開発効果への到達までを視野においた実績づくりが望まれる。

  • 前述の点はかなり長期的な話であるため、短期的に着実に目に見える効果をあげることも重要である。この点に関しては各国の発表においても強調され、ドナー側に一層の取組みを求めるよう要請がなされた。この取組みは、ベトナム政府側が指摘するように「適切かつ可能性のある領域を選択し(MPIは"cost effective"と表現)、具体的な成果をあげることを原則に」進められるべきであろう。この第一歩は自ずと似通った援助の投入や手続きを有するドナー・グループ間での手続き調和化(含む簡素化)となろう。その意味では日本にあっては、ベトナムにおいて実質的な実行段階にある5 Banksの取組み、ニーズ・アセスメント及び改善点の洗い出しがなされた注4技術協力や無償における取組みの確実な実行が望まれる。

  • キャパシティ・ビルディングの概念は非常に広範に渡る。ベトナム政府は、「調和化におけるキャパシティ・ビルディング」の範囲として「ODAマネージメント」にかかる能力強化を打ち出した。これは調和化の取組みのモメンタムを利用して実質的な実を得ようとするアプローチとして評価できるものと思料する。

  • 日本としては、@ベトナムにおいては上述の実績を今後も着実につみあげていくと共に、Aベトナム以外の援助の氾濫が深刻な状態にある国においては、現地のニーズにあった形での支援を進めていくことが重要と思われる。

注1:Barholomew, Ann and Stephan Lister (2002) は、ベトナムでの援助協調において「伝統主義者」対「急進主義者」の論争があるとし、日本、UN Systemsなどを前者にDfIDを筆頭とするLMDGを後者に位置づけている。但し、同稿は、双方共に両者の違いを強調しすぎている感があるとも述べている。Barholomew, Ann and Stephan Lister (2002) "Managing Aid in Vietnam: A Country Study prepared for the OECD DAC Task Force on Donor Practices" (OECD).

注2:Banks、小額グラントを中心とする欧州ドナー(Like-Minded Group of Donors: LMDGs)、EUやUNシステムのドナーといった、類似した援助の投入や手続きを有する複数のドナー・グループ間で調和化の努力が進んでいる。また、ベトナム政府はセクター・ワイド・アプローチ(SWAp)は政策面の共有であり、「調和化アプローチの多様性」とは矛盾しないとの立場をとっている(e.g., "diverse modes of ODA delivery under a common framework")。

注3:アライメントの対象はセクター戦略であり、パイロットとして教育、保健、道路及び農業・農村開発が選定されている。これらのセクター戦略を巡っては、CPRGSとの位置づけの明確化も(ドナー側は)課題と認識している。

注4:JICA-CIEM [2003] "Study on Donor Practices in Vietnam -Grant Aid and Transaction Costs− Listen to the Voice of the Recipient" (pdfファイル、365KB) は、ベトナムにおいてODA額トップ4のセクター(運輸、教育、保健、農業・農村開発)で合計80のODA事業を選択し、ベトナム側事業実施者が認識するODA事業実施に際して生じる「取引費用」をヒアリングした。さらにそれらの原因がプロジェクト・サイクル毎、ODAの資金デリバリーの形態毎(in-kind/in-cash)に分析され、個々の原因を取り除くための具体的な解決策が提案されている。

(以上)


表1:Rome Declaration on Harmonization

原則:国ごとのアプローチ(受入国のオーナーシップとリーダーシップ)、キャパシティ・ビルディング、援助モダリティの多様性、市民社会の参画
コミットされた具体的な活動:
【受入国の政策へのアラインメント】
・ 受入国の優先順位に基づいた援助資金の投入。
・ 受入国の適切な政策、fiduciary arrangementが確保された場合(例えば予算システム、貧困削減戦略へのアラインメントを通じて)、budget, sector, or BOP supportを実施。
・ 受入国の分析的作業への支援。
【ドナー側の改革】
・ 援助機関(国)の政策、手続き等の見直し。
・ 援助機関(国)の現地への権限委譲。
・ 援助機関(国)内部での調和化に対する理解の推進。
【今後の活動】
・ Good practiceの普及。
・ 国レベルの努力への結集(パイロット国は16カ国)。
・ グローバル/地域レベルでのプログラムにおける調和化の推進。
・ 調和化の進展指標の精緻化。
【今後の具体的な取組み】
・ 国ごとの調和化アクションプランの作成。
・ ドナー間での進捗に対する相互モニタリングの強化。
・ 2004年におけるDAC/OECDでのレビューと2005年stocktaking meetingを予定。

表2:Regional Workshop on Aid Effectiveness in Asiaにおける各国ステートメント

受入国の政策へのアラインメント(ドナー側のみのアクションは赤字) プロジェクト・サイクルにおける改革(ドナー側のみのアクションは赤字) その他
ベトナム ・ 国家/セクターの開発戦略と政策の実施プロセスにおいて調和化可能な分野を考慮。
・ (日本)セクター戦略へのアラインメント、具体的援助投入のマッピングを行う”Policy Matrices”を提案。
合同ミッションの実施、自国のリソース活用を目的とした技術協力のアンタイド化、地域事務所への権限委譲。
・ プロジェクト・サイクルの各局面におけるwith/withoutの調和化。 
・ ODA受入れ制度の改革(国内で進む行革ともリンク)。
・ プロジェクト・マネージメント能力の強化。
・ Non project型援助についての知識獲得とパイロットの実施。
(JICA-CIEM)取引費用に関する調査。負担とされた取引費用軽減のためのドナー側、ベトナム側で進めるべきアクションを例示。
カンボジア ・ NPRSへのアラインメントの要請及びそのエントリー・ポイントとしての質の良いセクター戦略等の重要性を強調(地方分権、教育、保健といった好例あり)。 
・ 戦略のデザイン・フェーズでの協調、実施モダリティの多様性はドナーに委ねるとのアプローチ。
・ UNシステムの調和化を要請。
・ CGのWG改革(政府のオーナーシップ強化の観点から)を要請。
・ ローマ会合で提唱されたドナー側の取組みの遅れを指摘。できる分野から確実な実績をあげることを求む。
DAC調和化パイロット国としてCGの下で政府-ドナーパートナーシップWGを設置
バングラデシュ ・ Financial management強化(1993年より予算/支出管理改革として開始。 ・ 2003年、イッシュー毎の調和化WG設置(調達、資金使途報告、監査、トレーニンク)。
・ 調達手続きの改革(援助事業についても国内、及び(将来的には)国際入札に対しても適用を要請)。
・ プロジェクト・タイプの援助におけるトレーニング・コースについてのガイドライン策定。
インドネシア ・ ドナー側からの供給とインドネシア側からの需要のマッチングが重要との指摘。 ・ 援助事業のディスバースメントの大幅な遅れとその要因及びその解決策としてのCapacity Developmentの重要性の指摘。
ラオス(ODAの対GDP比20%) ・ ラオスのNational Poverty Eradication Programがドナー及び国内のステークホールダーと「調和」しつつ策定されたプロセスの描写。
ネパール(ODAの対GDP比5-6%) ・ アラインすべき対象としての開発計画(国家開発計画、PRSP及びMTEF)の紹介。
・ 援助受入の原則を示すForeign Aid Policy 2002の紹介。
・ 効率性に向けた課題:@明確な政策、Aセクター毎の現状分析、Bカウンターパートとして適切な人材の配置、C行政・マネージメント能力、Dドナー側の調和化に対する誠意ある努力。
フィリピン ・ 調和化議論以前より国家経済開発庁において、フィリピン政府へのアラインメント審査手続きあり。
・ 「中期開発政策(99-04)」がドナー・アラインメント対象の文書として策定される。
・ 行革について世銀・ADBと共同レビュー開始。
UNシステム下の諸機関合同によるCountry Assessment開始。
ODAポートフォーリオ・レビュー(1992〜)において、2000年より結果重視の指標を導入。

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