GLOBAL DEVELOPMENT NETWORK

第4回年次会合(カイロ、2003年1月18〜21日)

GDNは開発問題を研究する諸機関の世界的ネットワークである。世銀によって1999年に設立され、2001年より独立した組織となった。学際的研究の実施・サポート、グローバルな知識のローカル化、リサーチキャパシティーの強化、開発知識の普及などをめざしている。各地域に事務局があり、アジア地域は日本のJBICが担当する。GDNの年次会合は今年で4回目になり、会合は全体会議、パラレルセッション、ワークショップ、政策ラウンドテーブル、コンペティションの表彰式で構成され、4日間にわたり開催された。今回のテーマは「Globalization and Equity」で、世界97カ国から約500名が参加した。日本からはJBICとともにアジア経済研究所が企画セッションを設けた。他の参加者は、河合正弘氏、浦田秀次郎氏、山澤逸平氏、佐藤寛氏、平野克己氏、湊直信氏等であった。GRIPSからは大野健一・泉が参加した。広範な会議であったためすべてを網羅はできないが、以下のようなハイライトがあった。

1.Global Research Projectの紹介(Explaining the Growth: An Overview of Phase 1 of Global Research Project)、Nicholas Stern世銀副総裁がチェア

クロス・カントリー回帰分析には、一般論や全体的傾向を導けるが個別国にそのまま適用できない、また全てのパラメーターが重要という結論になりがちという限界がある。本プロジェクトは、各国の事情を理解したうえで成長メカニズムを解明しようという試み。家計や企業行動の調査、政治経済的な側面、制度的な側面などを各国別に調査する。現在ストックテーキングのフェーズ1が終了したところ。[各国の個性尊重を前面に打ち出す点は大いに歓迎したい。どれだけそれに成功するかはこれからの作業による]
なお、WDR2005はInvestment Climate, Growth and Povertyとのこと。

2.ゲスト政治家の発言(政策ラウンドテーブル)

タンザニア・Mkapa大統領より、途上国の立場に立つグローバリゼーションの必要が強調された。またドナーの援助調和化やアンタイド化を希望する旨の発言あり。メキシコ・Zedillo前大統領は、ポピュリズムや市場化反対勢力に抗して改革を断行し続ける必要を述べた。エジプト・Abeid首相は、自国が改革に邁進していること、しかしながら社会的安定・弱者保護には留意が必要なことを述べた。

3.JBICのパラレルセッション"Globalization and Pro-poor Growth in Asia"(議長:林薫)

発表者(1) 栗原充代(JBIC開発金融研究所)"Pro-poor Growth in Asia and Its Implications for Africa: Which Sector Increases More the Employment of the Poor?"(山形辰史氏との共著)

Pro-poor growthの中身として工業化を通じる雇用創出を重視した。農業・工業・サービス3部門間の労働移動を、とくに農工間移動に注目し、またPoorをUneducated workerと作業定義した上で、アジア・非アジアの複数国のデータを用いて検証するもの。

発表者(2) Medhi Krongkaew (National Institute of Development Administration, Thailand) and Nanak Kakwani (Univ. of New South Wales) "Growth and Equity Trade-off in Modern Economic Development: The Case of Thailand"

タイを高成長にもかかわらず所得不平等を解消し得なかった国と位置づけ、その実体と理由を探った。その際に、成長を所得分配(ローレンツカーブ)に中立な成長とローレンツカーブ自身の変化に分解し、各期ごとに成長がどの所得階層にいかなるインパクトを与えたかを詳細にグラフ化できる統計手法を提示した。

コメンテーター(1) August Fosu (African Economic Research Consortium)

【栗原・山形ペーパー】製造業への労働移動のチャネルとして、@low-skilled labor deepening(ネガティブな効果)と Alow-skilled labor widening(ポジティブな効果)の2通りが考えられる。Aは、製造業で広範な成長が起れば、low-skilled laborを含む全ての種類の労働力が動員されるのでポジティブな雇用波及効果が期待できよう。しかし、@とAのどちらのパターンになるかは、製造業の成長がどれほどintensiveで広範囲か、製造業の成長率がどの程度速いか、等の諸状況に左右されるのではないか。サブサハラ・アフリカのコンテクストで、どのようにすれば、このような製造業への労働移動を起こせるのか。どうすれば製造業を生み出せるのか?ガバナンス、インフラ整備など様々な条件がよく指摘されるが、仮にこれら全ての条件を満たせば可能なのだろうか。これらの条件と製造業を起こすことの関係は、ゼロ・サム・ゲームとしてとらえられるのだろうか。

【Krongkaew-Kakwaniペーパー】タイの過去の成長インパクトと貧困削減効果についての緻密な分析方法を評価。課題は、どのようにすればpro-poor政策を実施できるのかという点。不平等を是正する政策を偏重すると競争が欠如して成長が停滞する可能性あり。Growth-enhancingなpro-poor施策とはどういうものか。また、成長率をスローダウンさせれば不平等が深刻化しない、といえるのか。アフリカのデータを見る限りでは、成長を通じた貧困削減効果は不平等のレベルと(負の)相関関係がある。

コメンテーター(2)大野健一(GRIPS)

【Krongkaew-Kakwaniペーパー】タイの過去の成長をneutral growthとredistribution effectとにdecomposeした統計手法を評価。 問題は政策的含意。タイはなぜ東アジアのスタンダードよりも不平等が大きいのかがこの論文だけでは見えてこない。

【栗原・山形ペーパー】貧困層への雇用創出がすなわちpro-poor growthといえるかについてチェックする必要あり。賃金についていかなる仮定をしているのか。理論的には、ルイスモデル(農村の余剰労働)、ハリス・トダロモデル(都市の失業、スラム)、unskilled worker(ペーパーではuneducated=poorと定義)が労働市場から排除される可能性なども検討する必要あり。東アジアの経験は、この論文が示唆する静学的枠組よりもっとダイナミックではないか。

さらに両論文を含む大きな問題として、pro-poor growthが含意する平等化は常に望ましいのか?(equity-incentive trade-off)。仮に望ましいとしても、それを達成するチャネルの多様性に留意する必要性あり(直接的ターゲット、市場を通じたチャネル、政策を通じたチャネル)。栗原・山形ペーパーは労働移動に着目しており、市場を通じたチャネル。またPRSPが重視するのは直接的ターゲット。しかし全てのメニューを検討する必要があるのではないか。東アジアの成功は、成長インパクトのイニシエートと(成長に伴って生じる)社会問題への対応という2段階対応がとられた点に起因するのではないか。最初の成長インパクトは必ずしもpro-poorである必要はなく、supplementary policiesで成長インパクトのネガティブな側面を緩和することが重要なのではないか。

参加者からの質問

4.Research Competition

Research Competitionは途上国の7つの地域ネットワークが主体になって行っている。具体的には、各地域のネットワークが研究テーマを募集し、優秀な提案を行った研究者・研究チームに研究助成金を提供する方法で行われている。

優秀な研究には「国際開発賞」が授与される。今回は3回目の国際開発賞になる。年次会合の全体会合においてプロジェクト部門、調査研究部門それぞれ3つの最終候補によるプレゼンテーションが行われたあと、審査が行われた。優勝した研究は次のとおり。

プロジェクト部門
Renascer(貧困層にターゲットを絞った保健衛生、家族計画、福祉向上プロジェクト。包括的Holisticアプローチが特徴。毎月1000人以上の貧困層の生活を向上。家計所得の向上にも貢献。)

調査研究部門
ペルーにおける「社会的排除」(アクセス機会の平等を阻む要因はなにか?複合社会におけるエスニシティーの問題。調査方法は家計調査。言語、宗教、人種などの説明変数が重要。今後、社会的排除のメカニズムの説明を行う。)

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