IDCJ主催シンポジウム(2003年7月11日)
援助協調を超えて
−わが国援助体制と人材に必要な構造改革の本質−

作成日付:2003年7月14日作成
文責:GRIPS開発フォーラム 二井矢

基調講演:石川滋 一橋大学名誉教授

  1. 問題意識

    • 日本の対外援助は90年代以後の国際的な見直し―特に「PRSP体制」と「援助手続き及びモダリティの共通化の要請の動き」―に対して概して無関心であり、対応の遅れが目立っている。これらの動きは既に大勢となっていて日本の援助活動は従わざるを得ないが、その際、これらの動きの背後にあるディメリットを排除し、メリットを助長する具体的な改善策を引っさげていくことが望ましい(レジメp.1)

  2. 「PRSP体制」に対する具体的な改善策

    • 受入側に自主的に改革を促す援助の方法: PRSP体制では、SAL体制におけるex-ante conditionalityの失敗の反省からよりオーナーシップを引き出すシステムとしてex-post conditionality(*注)への移行が見られる。しかし独占力を持つ世銀・IMF、先進国ドナーが「援助ゲームのルール」を決定する点は変わっていない。Conditionalityが存在せず、援助供与が援助受入国のPolicy Intent Paperに基づく協議によって行われた1980年代半ば以前の状態に戻るべき。この点において、日本は相手国と対等の目線に立って協議を進めるというよい経験を有している(レジメp.2)。

    • PRSP体制の開発モデルとしての有効性−PPAの発見をマクロ政策につなぐ: 政策処方箋としてのPRSP体制は、@SALの元来の処方箋、A「機会へのアクセス」支援のために貧困層を対象とした社会的サービス強化策、BParticipatory Poverty Assessment (PPA)の実施の3つの構成要素を含む。Bはaction planとしての具体化が乏しいため、これまでPRSPの実効的な政策基盤は@及びAに留まっていた。しかし、BのPPAは、貧困家計の経済循環の特徴とそれをもたらした要因を明らかにすることが可能であり、今後、PPA調査の個別報告をできるだけ多くの国から集めて比較研究をし、貧困の要因について一般化された知見をもち、次段階としてその知見をかなり巾のある成長・貧困削減の政策に転換し、さらに予算化されて公共支出管理或いはマクロ経済管理の新戦略の誕生となることが期待されている(レジメpp.4-5)。

    (*注)Ex-ante conditionalityとは、SALにおけるdisburseのtriggerとなる諸条件群で、ex-post conditionalityとは、例えばCASにおけるCPIA: Country Policy and Institutional Assessmentに相当する。


質疑応答

  • 質問: 開発援助の役割は、貯蓄・投資ギャップを埋めることにマクロの安定、ガバナンス、エンパワーメント、 といった主要テーマが追加されるプロセスと認識。とすれば、PPAも全部を塗り替えるものでなく、あくまでも付加的なものであり、従来の貯蓄率、 マクロの安定性のための政策も重要なのではないか。

  • 回答: 基本的にはご指摘のとおりだが、PPAの手法を学び、また既存の良い研究(ベトナムに関しては東大農学部など) を活用する必要あり。ウガンダでは予算配分で貧困削減費を重視しすぎたために、農業のR/Dばかりか公務員給与までクラウド・アウトされる状態となっている。 マクロの部分も大切であるが、問題は両者の延長線上にあると考える。

  • 質問: PPAによる分析から導き出される戦略が有効な範囲についてお聞きしたい。それは公共支出計画全般の形成、あるいはpro-poor targeted expenditureのみ形成する上でのみ有効なのか?もし前者であるとすれば、例えば大規模とコミュニティベースの小規模インフラの配分といった問題に示唆があるのか? またある国で完全に貧困でなく、貧困と貧困でない層の際にいるような人々の生活水準を着実にあげるようなことが課題とされている場合、貧困層のみを対象とするPPAは示唆を持ちうるのか。

  • 回答: 個別PPAが語るところを見てから判断する必要があり、一般的な回答はできない。例えばコミュニティ灌漑が有効か、中央・地方政府レベルの大規模灌漑が有効か、 という問いについては、ガーナPPAにて答えが出ている。PPAでは、「貧困というのをどう考えているか?Well beingをどう考えるか?」と質問するが、北部のサバンナ、南部の森林地帯を比較すると貧困の解決の仕方が異なる。北部サバンナの方がより深刻なまずい状況にあり、そこでの貧困は個人、 家計レベルではなく、コミュニティ全体の問題である。ここでは、コミュニティレベルでの灌漑を整備していく必要性あり(1920年代の日本の耕地整備法の経験は有用とのこと)。 他方、森林地帯(南部)は国や地方政府レベルでの灌漑や土壌保全のプログラムが有効であるとの示唆が得られている。このように貧困の状態を個別に分析した上で、日本やアジアの経験の適用可能性を考えていく必要あり。 また、PPAは階層別の分析も含んでおり、この面についても具体的に判断していく必要あり。

  • 質問: Ex-postコンディショナリティはオーナーシップを尊重する形になっていないのではないか。
  • 回答:Ex-postはCPIAの方式で導入されており、パフォーマンスの良し悪しを3段階にわけて評価し、次年度の融資額を決定するというもの。 ベトナムの場合は、その評価の良し悪しに応じて融資額に2億ドル程度の違いが出てくる。他方、PRSPに伴って供与されるPRSC/ PRGFは従来と同様のコンディショナリティをつけており、Collier等が主張する「オーナーシップのもとで、改革それ自身が援助供与の方程式の解として内生的に出てくる」 状況にはなっていない。SALのもとでの改革のnon-complianceについては、以前Agent理論を用いた分析がある。

以上

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