初来日中のPeter Allan Kallaghe氏(Director of Communications, President's Office, Tanzania)が2003年4月30日GRIPSを訪問し、当方大野健一と意見交換した。関心は、東アジア型発展とアフリカ開発。カラゲ氏は前週に神戸大学の高橋基樹教授とも面会した。GRIPS発行の関連英文資料を提供。両者の主なポイントは次の通り。
<大野健一>
GRIPSの大野健一・泉は昨年9月ヨハネスブルグWSSDの帰路にタンザニアに1週間滞在し、JICAを通じて経済閣僚、関係各省、研究機関、他ドナー・国際機関と面会した。タンザニアは日本の対アフリカ支援の筆頭国であり、また援助協調の激戦区でもある。我々は貴国に強い関心をもっており、今年度も再訪問する可能性がある。我々は日本政府に属しないが、政府やその援助機関と協力している者である。
日本の対アフリカODAが減少する可能性がある現在、我々は国とセクターを今よりもさらに絞り込むことを提言している。日本独自のselectivity criteria(透明性・汚職対策といった一般的・枠組的なものでなく、現実的具体的な成長戦略を立案実施できる意欲・体制の有無)をもとに、@政府・他ドナーを巻き込んだ長期・包括的な成長戦略の議論の主導、Aそのために必要な援助協調に向けての東京側の制度改革、をいま有志グループで日本政府に訴えようとしている。
候補国・セクターの絞込みの予備的作業を今月行なうが、タンザニアの農業セクターは、これまでの日本の支援経緯からして当確であろう。ただし農業だけでなく、水、マーケティング、運輸、訓練、地域開発など周辺ハード・ソフトを組み合わせた包括的支援パッケージとなるべき。また日本がリードするだけではなく、当然タンザニア政府がオーナーシップをもたねばならないし、世銀・UNDPなど関心を共有する他ドナーとも連携しなければならない。課題が困難なことはわかっている。結論を急ぐよりも、そうした中身の議論が制度化されることが大切。私は日本がそれを主導してほしい。
現在エルサルバドルでは細野大使が中心となり、JBICの港湾整備を核に周辺支援も含めて包括的具体的な産業支援・国つくり支援が進められているが、タンザニアの農業セクターについても同様の発想から行なうべきである。私はベトナムの産業戦略を8年研究しているがまだ十分ではない。個別産業の具体的な問題点・可能性についてセミナーや出版を行なっている。世銀のように外部コンサルを短期雇用して行なう調査研究ではだめであり、成長支援には長いコミットメントが要求される。
PRSPや援助協調が進み、枠組については整ってきた。これから重要なのは中身であり、タンザニア政府は具体的成長ポイントに関心をシフトすべきである。この支援では日本は(きちんとリソースを投下すれば)他ドナーより優れていると考える。貧困削減は目的として抽象的すぎる。それは成長の結果として社会変容、中間層形成、環境・犯罪問題などとともに発生する事態であり、それだけを取り上げるのは狭すぎる。
我が国の援助界ではアフリカをめぐり、@援助協調のための制度変更、A選択・集中による具体的成長イニシアティブの提示、の是非について議論がある。援助協調やアフリカ援助に対する否定的見方もまだ根強い。貴国政府が我が国の大使館・JICA等を通じて、貧困枠組から成長の中身へと関心を移したいこと、それに際しては特に農業セクターについて日本にリーダーシップを期待すること、を明言していただければ、我々の動きを後押しする上で非常にありがたい。
ムカパ大統領は多くの国際会議で「我が国はさらなる援助協調を求める、budget support、SWAP等を通じて援助してほしい」と発言されているが、これは我が国ではプロジェクト援助を否定するものとして厳しくうけとめられている。我々も1月のカイロGDNで大統領演説を聞いてそう思った。我が国はベストミックス論であり、援助協調に積極参加する一方で、プロジェクト援助も必要という立場である。これを受入国の大統領に正面から否定されては援助が進めにくいことも理解していただきたい。
<P・A カラゲ>
タンザニアにとって日本の援助は有益である。キリマンジャロの農業案件など効果が高い。日本の援助方式は安定しており、一部のドナーは政権や大臣が変わるごとにやり方が変わるが日本はそういうことはない。いったん決定されればその通り進む。一方で、日本が援助協調にあまり溶け込めないタイプのドナーであることも理解する。援助協調には多分に政治的駆け引きの側面があり、我々自身も閉口している。
大統領がcommon approachのみを要求しているというのは誤解である。彼のスピーチには同時にプロジェクトも歓迎すると書いているはずだ。発言をもう一度チェックしたいが、我が国は日本を含む各援助国への配慮を常にもっており、プロジェクトを否定するつもりはない。一方で、複数ドナーに対応せねばならないわが政府のトランザクションコストも実際大きなものであり、それを減らしてほしいというのが大統領発言の真意だ。日本のやり方を無視するといった意図は全くない。
現在タンザニアではsources of growthの中身を考えねばならないという気持ちが強く、これは大統領を含む政府全体の関心といってよい。いま言われたような農業への包括アプローチ、エルサルバドルの港湾などに強い興味を覚える。ドナーの努力を悪く言うつもりはないが、今までは貧困削減枠組をめぐる政治的バーゲニングが目立っていたのは事実だ。
日本が援助協調のための制度変更を考慮しつつある点、アフリカで選択的に成長アプローチをとる可能性がある点は興味深い。これらはどれくらいコンセンサスのあるものなのか(当方:まだ合意といえるほどではないが動きはある。我々はこれを加速したい)。とりわけ後者のポイントは重要で、上層部に報告する価値がある。我々もメール等を通じて大統領の発言や重要文書を世界の関心ある人々と分かちあう予定であり、当方より日本の方々にもメール発信することを了解していただきたい。
一部ながら、日本ではアフリカとりわけタンザニアに対する研究関心が高いことに気づいた。タンザニアに来られる際には、是非事前に連絡をとっていただきたい。
大野健一(GRIPS)