世銀・IMF PRSP実施プログレス・レポートの概要

September 15, 2003
"Poverty Reduction Strategy Papers (PRSP)
 -Detailed Analysis of Progress in Implementation"
prepared by the staff of the World Bank and IMF

1.背景

本ペーパーは、世銀・IMFのチームによって作成されたPRSPの策定・実施についてのプログレス・レポートである(前回は20029月)。今次レポートは、新たに策定されたPRSPに加え実施プロセスに入った各国によるPRSPプログレス・レポートも対象とし、PRSP諸原則にかかる現状分析と世銀・IMFの今後の対応における課題について考察している。(次回プログレス・レポートは20049月に策定される予定。)

2.構成

本ペーパーはPRSP諸原則にかかる現状分析と世銀・IMFの今後の対応における留意点について述べる2部から構成される。分析の対象となる諸原則は以下のとおり。

  1. Ownership

  2. Participatory Process

  3. PRSP Targets and the Millennium Development Goals

  4. Poverty and Social Impact Analysis

  5. Priority Public Actions

  6. Indicators and Monitoring

  7. Donor Alignment and Harmonization

  8. Country Reporting on Implementation

*前回プログレス・レポートに比べ独立した項目として追加されたのはA及びC

3.概要

(1) PRSP進捗状況
前回プログレスレポート(2003年9月)以降、PRSPプロセスは軌道に乗っている[PRSP提出32カ国(うち14がこの1年間に作成)、プログレス・レポート作成国は7カ国(計11本)]。(テーブル:PRSP Countries by Region and Progress 本ページ末尾)

(2) 今後の主要課題
PRSPアプローチの有効性を認識しつつも、その諸原則の間には以下のような緊張関係があることを容認。@貧困の諸側面をとらえる包括性と優先順位付け、A広範な参加による要望の取り込みと戦略性および実施能力、B公共支出マネージメントのペースとPRSP実施、C国際社会からの期待とPRSP策定国のオーナーシップ。

よってPRSPプロセスは選択と妥協を必要としていることを認識した上で、かかるプロセスを的確に進めるためのドナーからの支援及び策定国のキャパシティ・ビルディングが重要である点を指摘している。

(3) PRSP諸原則の実施状況

  1. Government Ownership
    総じてPRSPプロセスにおけるオーナーシップは、SALの「政策枠組み文書」時代よりも強化されていると論じつつ、以下の3つの形態において「問題」が残っていると指摘。@既存の国家開発計画と並存する場合、A財政省の関与が薄く、既存の財政サイクルと乖離している場合、BPRSPへの関与が一部の政府関係者に限定されている場合。(注:但し@については、並存の状態の説明にとどまりそこから生じる具体的な問題が論じられているわけではない。)

  2. Participatory Process
    PRSP策定プロセスにおける参加は「深さ」よりも「広さ」において進展しているとし、様々な切り口における参加の広がりを紹介している(例:PRSPプログレス・レポート策定過程、PRSPに含まれる政策の実施主体、PRSPモニタリング、予算策定過程)。

  3. PRSP Targets and the Millennium Development Goals
    MDGs達成のための目標値と現実的な目標値の設定には緊張関係があるが、これまでのPRSPが前者に引っ張られ野心的な内容となる傾向にあったことを指摘した上で、中期的なプランであるPRSPでは長期的な目的であるMDGsを踏まえつつも現実的な目標を設定し、その達成のために予算を動員すべきと指摘。

  4. Poverty and Social Impact Analysis
    PSIAの必要性と実行の意図が広く共有されるようになってきている事例の紹介。実際、PRSP Trust Fund応募の40%の案件がPSIA関連。

  5. Priority Public Actions

    • Macroeconomic Policy Frameworks, Projections and Outturns, Shocks and Flexibility
      最近のPRSPではマクロ経済の枠組みについての記述は強化されたが、それに必要な政策手段、予算とのリンクが希薄である。また外的なショックによるマクロ経済の落ち込みと予算の縮小に対する予備的プランについてもいくつかの例外を除いて不十分である。

    • Source of Growth and Policy Choices
      いくつかのPRSPでは例外的にセクター毎の成長とそのマクロ経済への寄与率やセクターにおける雇用と収入創出のポテンシャルを定量的に勘案、しかしSource of Growthが特定されたとしてもそれを促進するための政策を伴っていないケースが多い。

    • The Design and Implementation of Pro-Poor Growth Policies
      PRSPプログレスレポートを対象にPro-Poor Growth Policiesの実施状況をレビュー。その際、以下の3つの領域を特定:@投資環境の向上、A貧困層のassetsにおける生産性と収入向上のポテンシャルの向上、B貧困層のassets(教育、保健、土地)の向上。@についてはいくつかの国で効果があがっており、Aについては農村開発の一環としての諸政策が含まれ、BについてはPRSPにおいて最も成功している領域。

    • Poverty Reducing Spending
      貧困削減支出は14カ国のPRSP策定済み国において対GDP比1.4%から3.9%に増加。地域的にみるとアフリカで最も高く、政府の全体支出費8.5%を占める。

    • Public Expenditure Management, Costing of Measures and the Budgetary Framework and Progress in Improving PEM Systems コスティングに裏付けされたMTEFの導入の進捗は捗捗しくない。 PEMはHIPCs適用国における貧困削減支出のトラッキングを目的とするもので、2002年2月実施の世銀・IMFによるアセスメントを基に各国のPEM強化のためのアクション・プランが策定され、現在14カ国にて実施中。PRSP策定国に関してはその1/3がPEM強化策を盛り込んでいる。

  6. Results Indicators
    目標の指標としてMDGs指標の採用が頻繁となり、それによりドナーと受入側で統一した レポーティングが可能となる方向にある。MDGs以外でもガバナンス指標、民間セクター 活動指標、ジェンダー等特定のグループに配慮した指標づくりなどのケースも見られる。

  7. Monitoring
    データの入手可能性や質については改善が見られるものの、モニタリング実施の制度的な体制作りが課題である。

  8. Donor Alignment and Harmonization
    PRSPへのアライメントがドナーの間で広く受け入れられる一方で、実施面は課題。経験的にはセクターの優先順位に裏づけされ、広く共有された戦略が、ドナーのコーディネーションを誘発できる。同時に公共支出マネージメント及び援助資金マネージメント能力の向上が必要である。

  9. Country Reporting on Implementation
    現状を分析し、アクションの軌道修正につながる内容であるプログレス・レポート作成が課題。当該国のレポーティングの負担軽減の観点から類似のものについてはPRSPのプログレス・レポートに一本化させることも一案。現状としては同レポートの作成の進捗は捗々しくない。

(4) 世銀・IMFオペレーションへの示唆

  1. Common issues
    総花的な内容を脱し優先順位付けのある戦略とすべく支援すること及びPSIAの実施を支援すること。

  2. B. Macroeconomic Dialogue and Fund Engagement in the Participatory Process
    マクロ経済の枠組みも参加型協議の対象とする必要あり。
    World Bank Alignment

    • 現状診断と分析的な作業への技術支援(例:セクター・プログラム策定、Source of Growth, 投資環境アセスメント、サービス・デリバリー、PRSPにおける優先順位付けなど)。

    • CASPRSPへのアライメントが進捗。

  3. PRSC融資は顕著な増加傾向(FY01/02 3% FY03 9%)。今後もPRSC促進のための分析調査、キャパシティ・ビルディング支援を強化。

4.開発フォーラムコメント

  • 今次ペーパーでは、以前のプログレス・レポートよりもより明示的にPRSPの諸原則間の「緊張関係」について指摘があった。しかしそういった緊張関係を各国の文脈でどのようなシークエンスで取り組んでいるのか、あるいはそのシークエンスを前進させるためにとられた具体的なアクションはどんなものであったのか、という点でのgood practiceについての具体的な記述が見られない。

  • 更に前回プログレス・レポートで強調されていたsource of pro poor growthについては、今次レポートでは、@投資環境の向上、A貧困層のassetsにおける生産性と収入向上のポテンシャルの向上、B貧困層のassets(教育、保健、土地)の向上という観点からのレビューとなっている。これらに関する詳しい内容は本文でも不明であるが、投資環境整備により促進された投資がどのような経路を経て貧困層に裨益するのか、あるいはそれを促進する政策はなにか、といったリンケージの視点が薄い印象を得た。

  • 本プログレス・レポートのシリーズは基本的に理事会に提出されたPRSP及びそのプログレス・レポートをドキュメントとしてレビューするものであるから、よりダイナミックな内容を期待するのは妥当ではないかもしれないが、2005年春に予定されている包括的なレビューではたとえば前述の「緊張関係」について実態に即した、各国のPRSP関係者によりinformativeな内容となることを期待したい。


PRSP Countries by Region and Progress
(as of mud-July 2003)

  PRSP Progress Report Full PRSP
Africa Region (AFR) 5 18
East Asia & South Pacific Region (EAP) 0 3
Europe & Central Asia Regional Office (ECA) 1 4
Middle East & North Africa (MENA) 0 1
South Asia (SAR) 0 2
Latin America & Caribbean (LAC) 1 4
Total 7 32

Source: IMF and World Bank [2003], Poverty Reduction Strategy Papers-Detailed Analysis of Progress in Implementation, Annex Table 1, p.58, available at http://poverty.worldbank.org/files/091503.pdf

以上

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