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セミナー報告

GRIPS-ODI 合同フィードバック・セミナー
「グッド・ドナーシップと援助モダリティの選択」

日時:2005年3月15日 14:00-17:00
場所:JICA国総研

2005年3月22日
GRIPS開発フォーラム
文責 二井矢由美子

本報告は、標記セミナーについて、発表および質疑応答の概要、開発フォーラム所感の3点を紹介するもの。 本セミナーは、GRIPS開発フォーラムにて取り組んできた「グッド・ドナーシップと援助モダリティの選択」調査の報告書の刊行を受けて(英文・和文)、モダリティ議論をリードしてきた英国の援助政策のブレーン的存在であるODI (Overseas Development Institute)との意見交換を通じ、モダリティ選択プロセスにおける双方の考えの類似・相違点を明らかにすること、更に本調査プロセスで助言を頂いた関係者に対し成果をフィードバックすることを目的に開催された。

プログラムはこちら (pdfファイル、45KB)
バックグラウンドペーパーはこちら (pdfファイル、45KB)

セミナーではODI1名(Poverty and Public Policy Group/Center for Aid and Public Expenditure所属*)、GRIPS開発フォーラム3名による発表の後、日本の援助政策・実務担当者や研究者を中心とした30名弱の参加のもと、3時間以上にわたり活発な議論が展開された。

発表では、まず総論として、ODIのChristiansen氏がモダリティを含む昨今の援助をめぐるアジェンダについて大局的見地より説明するとともに、モダリティの実践をめぐる困難な点を提示した。それを受けて、GRIPSの大野(泉)は、かかるアジェンダをモダリティ選択のプロセスに反映させるための枠組みと具体的方法について示した。ケースではGRIPSの山田、二井矢が、それぞれ初等教育(タンザニア)、保健(ベトナム、ウガンダ)分野をとりあげ、総論で示されたいくつかの論点を具体的に展開した。

参加者を交えた議論では、モダリティ選択のプロセスをどのように捉えるべきか(選択の裁量余地があるのか、政治的プロセスか)、日本としてどれほど真剣に取り組むべき課題であるか、といった根本的な論点に加え、発表者側より示された国の類型化やアラインメントの具体的方法について更に分析的に掘り下げていく可能性等をめぐって活発な意見交換が行われた。

GRIPS開発フォーラムとしては、本調査を進める過程で頂いたコメント及び今次セミナーでの議論を踏まえ、今後、モダリティ議論を更に深めていくにあたり、@セクター・国毎の事例研究、Aモダリティ選択プロセスそのものの事例研究、B日本のODA改革アジェンダとしてのモダリティ論、という3つの方向性を示唆した。

*当初予定されていたDebbie Warrener氏(Research and Policy in Development、日英研究連携担当)は健康上の理由により不参加。

 発表概要

  1. Karin Christiansen (ODI) "Chakugan Taikyoku(着眼大局): Challenges and Dilemmas in the 'New Aid Agenda'"(ppt資料、pdfファイル、44KB)
    冒頭で昨今の援助をめぐる5つの代表的アジェンダを紹介した後(@オーナーシップ、A成果主義、B政府の政策及びシステムへのアラインメント、Cドナー間の調和化、D政治的・経済的分析への着目)、個々のアジェンダ実践をめぐる困難な点が示された。例えば(ドナー間の)調和化とアラインメント、結果とプロセス、あるいは政策的の質とオーナーシップ尊重の間に生じうる緊張関係(”tensions”)等。更に検討すべき課題として特定モダリティの画一的適用、不適切な方向に対するドナー間の調和化や政府能力が低い場合のアラインメントの対象などが列挙された。モダリティ選択自身よりもドナーの行動が重要となる場合があること、(リスクはあっても)途上国政府のより良いパフォーマンスを引き出すことで得られる潜在的な便益の大きさについても言及された。最後に、こういった現実に生じうる問題を直視した上で、ドナー側のとるべき姿勢の原則が5点示された。@目的とトレードオフについての明確性、A手段の目的化の回避(モダリティは手段であることへの明確な意識)、B現状との乖離を回避するためのシャドーアラインメント(”shadow alignment”)の検討、C現実性、誠実さ、現実的な時間軸の設定、D(リスクと費用に対する)潜在的な便益の考慮。
     

  2. 大野泉(GRIPS) “A Conceptual Framework for the Choice of Aid Modalities: Matching Aid with Country Needs and Ownership” (ppt資料、pdfファイル、52KB)
    -Handout (pdfファイル、34KB)
    同発表は、ドナー主導に陥りがちなモダリティ選択のプロセスに対し、途上国の現状に沿ったプロセスを経る重要性を主張した。その上でモダリティ選択に関連する途上国の現状理解に必要な視点を提案した。具体的には、途上国の現状を分析する枠組みを@優先的に取り組むべき開発課題、A援助授受をめぐる関係性の向上という2つの論点から整理した上で、それぞれにおける現状分析のためのツール(@に関してはDevelopment Priority Matrix、AはTypologies of Ownership)を試論的に示した。また、ベトナム、タンザニア、カンボジアについて援助依存度に加えて、政府中核システムの機能度、民間活力のポテンシャル(これらは@に関連)、及び援助マネージメント能力、取引費用、対外的な開放度等(これらはAに関連)の観点から概観しモダリティ選択プロセスを比較した。更にかかるプロセスを経て選択されるモダリティの実践にあたり、ドナー側で心がけるべき点(Good Donorship)を例示した。
     

  3. 山田肖子(GRIPS) "Priorities and Equity of Resource Distribution: the Case of Primary Education Development Program (PEDP) in Tanzania" (ppt資料、pdfファイル、31KB)
    -Handout 1 (pdfファイル、13KB)
    -Handout 2 (pdfファイル、22KB)
    タンザニアにおける初等教育分野をケースとし、セクタープログラム導入が及ぼした影響について、@教育セクター及びそのサブセクター間の予算配分、A最終受益者である生徒に届くまでの資金フロー、B教育指標の向上や貧困削減へのインパクトの3つのレベルで検討した。その結果として、セクタープログラムや、PRSPを枠組みとする新しい援助モダリティは、適切に行われれば、援助の効率性、効果を高めるのに有効と思われるが、そうしたマクロの手続きの調和化だけでは、ミクロレベルでの状況やニーズの多様性に対応しきれず、状況に柔軟に、スピーディに対応するフィールドベースの支援や技術支援のニーズが存在することが具体的に明らかにされた。よってモダリティは財政支援とプロジェクトの二律背反ではなく、最終的な成果を上げるためにいかにそれらの長所を生かして組み合わせるかが重要であり、また、そのような現状における需要に合った補完のための課題として、@マクロの枠組み作りと末端の受益者の緊急かつ多様なニーズへの対応をどのようにバランスよく行うか、A政府のキャパシティが育っているか、Bドナー間で異なる援助モダリティを採用することへの理解、受容をどのように育てるか、という点を指摘した。
     

  4. 二井矢由美子(GRIPS) "Sector and Country Context for the Choice of Aid Modalities: Case of Health Sector, Uganda and Vietnam"(ppt資料、pdfファイル、42KB)
    -Handout (pdfファイル、25KB)
    ウガンダ、ベトナムの保健セクターにおけるモダリティの検討を通じ、モダリティ選択における「優先的な開発課題」及び「援助授受の関係性向上」という2つの論点をめぐるセクター及び国毎の相違を具体的に論じた。公共支出の役割に基づくセクターの分類法を提示した後に、保健セクターについては、公的な保健サービスの発展度合いに応じ、公共支出強化が主要課題となる国(ウガンダ)、あるいは民間サービス振興が課題となってくる国(ベトナム)において適切なモダリティが異なる可能性を指摘した。さらに両国の援助授受をめぐる関係性の相違についてもセクターの援助依存度、援助マネージメントのあり方、対外的な開放度の観点より比較を行った。その結果、援助依存が高く、経常予算も含む公共支出強化が喫急の課題とされるウガンダではセクタープログラムの枠組みの下で、財政支援などドナーの資金を途上国政府に一体化するモダリティが有効であるのに対し、援助依存が低く、既存の公共支出のシステムが既に確立されているベトナムでは、新たなモダリティの導入により改善できる点は多くなく、むしろ既存のモダリティの中で援助の質を向上させていくことが必要である点を指摘した。
     

質疑応答の概要

モダリティ選択のプロセスをめぐる解釈

  • 発表者側がモダリティ選択のプロセスを援助の効率性をめぐる主要な一要素として位置づけ、途上国を主体としたプロセスを促していくことが重要である点を議論の出発点としたのに対し、参加者からは、@モダリティ選択の実態はドナー主導の政治的プロセスであり、実際には「選択」の余地は限られているとの指摘、A援助の効率性の論点自体が(日本の援助経験に照らし合わせて)妥当でない点もあり、そういった観点から日本としての対応を検討すべきという問題意識が提示された。

  • 発表者からは、@のモダリティ選択プロセスの恣意性、政治性の指摘については現状をそれに近いものと認識しつつも、より途上国側の主体性を重んじたプロセスに近づけていく努力が重要であるとの見解が再度示された。その努力の一環として、参加者から指摘のあったモダリティ選択をめぐるより多面的な要素を明らかにしていくためのケース分析、国毎の具体的な研究が必要であること、それらの要素は今次発表で示された優先的な開発課題、援助授受の関係性の向上といった論点にとどまらず、例えば政治的なプロセスにおいて多様な立場を尊重する雰囲気の醸成といった論点も含まれる点が示された。併せて、発表者から、1つのモダリティを「選択」することは他を排除するものではないこと、タンザニアやベトナムでの一般財政支援への参画は日本としてモダリティを選択し、かつプロジェクトに軸をおきつつ複数モダリティを使い分けている事例である点が補足された。

  • Aの日本の援助経験に基づく援助効率化及びモダリティ選択における論点については、ODI発表者は、そういった独自の立場がありうる点への認識を初めて持つに至り、今後東アジアの開発プロセスについて理解を深める必要がある旨述べた。但し、東アジアの経験のアフリカへの直接的な適用可能性については慎重な検討を要すること、及びアジアの中のアフリカ的問題(アジアにもアフリカ諸国と類似した課題に直面する国が存在)への取組みについて十分留意する必要がある点をあわせて指摘した。GRIPS側は、こういった論点を共有できる形で整理するためには日本の東アジアに対する援助の経験の整理が必要であると指摘した。

多様なモダリティの使い分け

  • 途上国へのアラインメントという観点から途上国の政府機能を1つのシステムとして捉え、過去の援助が如何にそれを歪めてきたかという反省に基づき、その強化のためにあるべき方法という観点からモダリティ論を展開すべきという主張、更には開発を考えれば財政支援など新しいモダリティを含む様々な方法が必要なのは自明のことであり、それぞれの存在意義をめぐっての議論は不必要との指摘があった。

  • GRIPS発表者は、モダリティ選択にあたっては、「何を」支援するかと同時に「どのように」支援するかという点で適切なエントリーポイントの設定に対する配慮も重要な要素である旨指摘した。

GRIPSモダリティ・ペーパーにおける分析枠組みの妥当性

  • 開発課題、オーナーシップの類型化はいずれも極端なケース(特にベトナム、タンザニア)であるため、現状理解の助けとするためには、より多くの事例をふまえた多角的な分析が必要との指摘があった。例えば、セクター別の分析を深めること、制度能力という観点から経営や財務面なども援用したきめ細かな分類の必要性などの指摘があった。GRIPS発表側も、きめ細かに事例研究を重ねていく必要性について同意した。

特定モダリティをめぐるイシュー

  • 財政支援はアフリカのように政府システム構築が優先課題である国については有効な方法たりえ、日本としても取組み可能性を検討する意義はあるとの指摘があった。同時に、財政支援は援助依存を益々強めることにつながる可能性もあり、「援助からの卒業」戦略という観点も検討されるべきとの指摘もあった。これに関しては、重要な論点ではあるが対アフリカ援助が過去50年にわたり失敗してきたことを踏まえれば、その卒業戦略も長期的に考えられるべきものという意見もあった。

  • 財政支援をめぐり、政府機能が脆弱な国においてはその機能強化に有効との解釈に対し、逆に脆弱な国ほどやりにくいのではないか、という問題提起があった。この点については発表者より、制度能力が極端に脆弱な国(fragile states)においては、途上国の予算システムへの完全な資金投入が目的というよりはアラインメントの観点が重要であること、その場合にはshadow alignmentという方法も可能である点を示唆した。


GRIPS開発フォーラムによる所感

  • 今次セミナーの主目的は、英国の援助政策のブレーン的存在であるODIとの意見交換を通じて、モダリティ選択のプロセスにおける考えの類似・相違点を明らかにすることであった。この点については既に国際援助コミュニティにおける議論が、新しいモダリティの有効性のみを主張する段階から、多様な援助モダリティを使い分けていくことの重要性へと移行していることも受け、発表者の間で顕著な対立点は見られなかった。むしろ、モダリティ選択のプロセスにおいて途上国の主体性を重視する姿勢が共通の出発点として再確認された。

  • しかし、こういった発表者側の立場は、参加者から以下の2点において挑戦を受けた。第1に開発の現場でのプロセスが実際には恣意性、政治性に満ちたものであり、途上国側に優先的な開発課題や援助授受の関係性の向上といった点から途上国側にモダリティ選択の裁量権があるという前提自体が現実から遊離しているのではないか、との指摘。第2に日本の援助の経験(特に対東アジア)は援助効率化、モダリティ選択をめぐる現行議論に必ずしも十分に反映されておらず、従って、国際援助コミュニティで活発なモダリティ論議が日本の援助の改革アジェンダとしてどの程度の重みを持つのか不明である、との指摘である。他方、途上国における整合性ある政府システムの構築が最も重要でモダリティの議論もその観点に収斂すべきとの主張もあり、参加者の間での立場の相違の大きさが浮き彫りになった。こういった多様な見方の存在自体、モダリティのプロセスの複雑な側面を顕著に示すものとして真摯に受け止めたい。

  • 更に分析枠組みにかかるコメントとして、国の類型化に関する分析をより多角的な観点から深めることや、国の能力に応じたアラインメントの方法のあり方について具体的な検討を行っていくこと等に対する要望が示された。

  • 以上を踏まえ、今後、モダリティ議論において取り組むべき課題として以下の3点を指摘したい。

    1. 今次発表で示された途上国を主体としたモダリティ選択の重要性を前提としつつ、現状理解のためのツールを洗練し提供していく観点から、より具体的かつ多くのセクターや国ごとの事例の集積、及びかかる情報の実務従事者との共有化。「何に対してどのように支援するか」が援助の効果を左右するのに対し、モダリティは「どのように」の部分を中心とした議論であるが、個別のセクター、国ごとの事例では「何を」の開発戦略の中身にあたる部分に焦点がおかれる場合もある。

    2. モダリティ選択が恣意的、政治的プロセスであることにも配慮した上で、事例を通じてプロセスそのものに対する理解を深め、同プロセスにおける相互理解の促進に必要な要素等を解明する。

    3. 日本の援助政策に関しては、既に和文のモダリティ・ペーパーの最終章で明示した短期的な課題への取組みに対し、実務者によるグッド・プラクティスの発信等を通じて、その進展を側面支援する。また、それらの積み重ねの中で明らかにされる長期的な制度改革のアジェンダについても議論の喚起、問題提起を行っていく。但し、日本のODA改革アジェンダとしてモダリティ議論がどの程度有効であるか、という指摘については真摯に受け止めたい。これは、日本の過去の援助の地域別の評価等を通じて慎重に特定されるべき課題である。

    (以上)

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