GRIPS開発フォーラム

2006年3月14日

「アジア2015」会議  参加報告
Asia 2015: Promoting Growth, Ending Poverty
2006年3月6〜7日  於:ロンドン(ランカスターハウス)

GRIPS開発フォーラム
文責:大野泉

1. 「アジア2015」会議の概要

  • 英国国際開発省(DFID)のイニシャティブにより、世界銀行(世銀)とアジア開発銀行(ADB)が共催。

  • 参加者はアジア途上国15カ国の閣僚レベル(財務・計画担当大臣が中心)を含む政府高官、国際機関や援助機関の幹部、 民間セクター、NGOs、研究者など約200名。日本からは遠山政務官(外務省)を団長として、外務省経済協力局、財務省国際局、JBIC、JICAの幹部が参加した*1

  • 本会議の主目的は、@アジア地域が経済成長と貧困削減で著しい成果を収めていることを認識したうえで、 A同地域には未だに世界の貧困人口の3分の2が集中している事実をふまえて、ミレニアム開発目標(MDGs)の着実な達成と貧困撲滅にむけて今後アジア途上国と国際社会が取組むべき課題、 開発パートナーシップのあり方について議論し、B国際社会によるアジア途上国に対する継続的でスケールアップした支援の重要性を再確認すること、であった。

>>アジア2015の公式ウェブサイト
>>外務省 による報告:国際会議「Asia2015」の概要と評価

2. 背景

  • DFID関係者からのヒアリングによれば、本会議はDFIDアジア政策局を中心に約1年前から構想されていたとのこと*2。 昨年は、英国がアフリカ開発を主要テーマにG8サミットを主催(於グレンイーグルズ、7月)など、アフリカ支援への国際的関心が高まったが、 これは一方で、DFIDアジア関係者内にアジアが軽視されることへの危機感を醸成した模様。

  • さらに、G8サミット後にバングラデシュ首相から(G8議長およびEU議長としての)ブレア首相宛てに、 「アジアの貧困問題を解決せずしてMDGsは達成できないところ、アジアへの支援拡充を要請したい」との趣旨の書簡が接到した。 こういった内外の要因が絡み合って、昨年夏以降、DFID内でAsia 2015会議の準備が本格化していった。

3. 会議プログラム

  • 2日間にわたる会議は合同セッションと分科会(計6つ)から構成され、ブレア首相とパキスタンのアジズ首相が初日に演説を行った。 初日の合同セッションはDFIDのベン大臣、ADBの黒田総裁、世銀のPatel南アジア担当副総裁が共同議長を、2日目の合同セッションはDFIDのチャクラバルディ次官が議長を務めた。

  • 会議のプログラムは以下のとおり。

>>オフィシャルサイトのプログラムページ


3月6日(月)

第1セッション(合同) What Asia has achieved; What Asia can achieve?

  • DFIDのベン大臣とバングラデシュ財務大臣による講演をキックオフとして、アジア途上国政府代表が経済成長と貧困削減に向けた今までの取組みと成果、 将来の課題について各国の立場から発表(中国(在英大使)、ベトナム投資計画大臣、カンボジア経済財務大臣、インド計画委員会副委員長、インドネシア財務大臣)。 続いて、先進国側から日本の遠山政務官とUNESCAP代表がアジアの成功と課題、および今後の協力ビジョンを提示。
  • ブレア首相とパキスタン首相による基調講演。

第2セッション(分科会) Challenges and risks to development in Asia

  • タイ副首相の基調講演(代読)に続いて、Ravi Kanburコーネル大学教授が@アジアの成長パターンの多様性、A不平等がもたらす脅威に配慮して成長パターンを考える必要性を問題提起。
  • 3つの分科会でテーマ別議論を行い、合同セッションで報告。
    1. 資源・エネルギーの有効活用、成長のもたらす環境インパクト
    2. 民間セクター開発
    3. インフラストラクチャーのギャップ

(参考)日本からは[2]に石井参事官(財務省)、[3]に荒川専任審議役(JBIC)がパネリスト参加。

3月7日(火)

第3セッション(分科会) Realising the potential for poverty reduction

  • インドネシア財務大臣による基調講演に続いて、Bina Agarwalデリー大学教授が社会的排除を克服する必要性を問題提起。
  • 3つの分科会でテーマ別議論を行い、合同セッションで報告。
    1. 地域格差、貧困と排除
    2. 人間開発のための効果的なサービスデリバリー
    3. ガバナンスと国家の有効性の強化

第4セッション(合同) Where next? Setting the agenda for partnerships to 2015

  • バングラデシュ首相府とインド計画委員会の代表による基調講演
  • パネルディスカッション(進行役はマクスウェルODI所長)で@地域レベルのパートナーシップ、地域主義、A援助の役割、 B国際援助システムの新たな方向性、C将来の開発パートナーシップのあり方について議論。パネリストとして、インドネシア、ベトナム、パキスタン、 カンボジアの援助担当官庁の幹部、援助機関の幹部(世銀、ADB、UNDP、UNCTAD、WTO、EU、DFIDおよび日本)、民間セクターが参加。
    (参考)日本からは草賀審議官(財務省)がパネリストとして参加。
  • 黒田ADB総裁、世銀Patel南アジア担当副総裁、DFIDベン大臣(共同議長)による閉会。

4. 議論のポイント

  • 中国とインドの台頭、ベトナムの高成長と貧困削減など、近年のアジア諸国の躍進はめざましいが、 その一方で同地域には世界の貧困人口の3分の2が集中し、現在も6億2000万人が1日1ドル未満の生活を送っている。2015年までにMDGsを達成するためには、 来る10年に貧困撲滅に向けて着実に取組んでいくことが不可欠である。

  • アジアの貧困問題を解決するためには、経済グローバル化の中で貿易・投資環境整備、 インフラ整備などに努め、民間セクター主導による成長を促進することが重要である。また、成長プロセスで生じる環境悪化、資源エネルギーの需給逼迫、 都市化、格差拡大などの問題に対処する必要がある。同時に、貧困削減のためには社会的弱者が成長プロセスから取り残されないような配慮、 基礎的サービスのデリバリー拡充を含む支援が不可欠である。またガバナンス強化においては、貧困層も裨益するような政策の立案・実施能力の強化、 中央と地方の行政能力向上、貧困層の参加を可能とする仕組みづくり、などにも留意する必要がある。

    • 筆者が参加した分科会2C(インフラストラクチャー)と3C(ガバナンス)の議論のポイントについては、 【別紙】を参照 

  • アジア諸国が経済成長を持続しMDGsを達成するためには、様々なアクター間のパートナーシップが鍵となる。 アジア諸国相互による経験共有、地域レベルの経済連携、アジア途上国政府と民間セクター・NGOsとの連携強化、さらには有効な援助に向けたドナー側の努力などに、引続き取組むことが重要である。

    • なお、遠山政務官は初日の全体セッションでアジアの成功と貧困問題を認識したうえで、@アジアが直面する3つの課題として、 「経済成長を通じた貧困削減」を実現するために貿易促進やインフラ支援が必要であること、(都市化や人口増加が進む中で)長期的な持続性の観点から環境保全と環境配慮により一層努める必要があること、 「人間の安全保障」の視点から社会的弱者が直面する様々な脅威に対応していく必要があること指摘し、Aこれらの課題に取組むために多様なレベルでパートナーシップを強化する必要があり、 日本として「南々協力」を含めてパートナーシップを積極的に推進していく意向であることを強調し、日本の協力ビジョンを示した。

  • 会議後に、DFID、世銀、ADB、日本、UNDPそれぞれが今後のアジア支援の拡充策を発表した。

  • 特に英国は南アジアを中心とした援助の25%増額(2005〜08年)、二国間で10ヵ年開発パートナーシップ協定の締結(アフガニスタン、ベトナム、パキスタンなど)、 中規模の民活インフラ支援(Asian Private Infrastructure Financing Facility−AsPIFFへの拠出)、森林保全・違法伐採に対する資金支援などを打ち出した。 ADBは、現在取組んでいる中期業務戦略の改定や中所得支援策の策定に加えて、エネルギーと気候変動、水分野、援助効果向上への取組みを紹介した。 日本は、DFIDとADBと共同で援助効果向上にむけたアジア地域ワークショップの開催(2006年)、アジア森林パートナーシップを通じた日英連携、開発途上国の貿易促進のための包括的な支援(技術協力とインフラ分野の資金協力を含む)、 南々協力への取組みを打ち出した。また、世銀・ADB・日本の間で、南アジアの電力・運輸セクターにおける政策協調を強化していくことも確認した。

  • DFID、世銀、ADBの共同議長サマリーは、Asia 2015の関連websiteを参照 (Joint Chairs’ Conclusions of the Conference: Asia 2015: Promoting Growth, Ending Poverty PDFファイル、公式サイト)。

5. 所感、今後の日本の取組みへの示唆

  • 本会議は、ここ数年アフリカ支援への国際的熱狂が続く中で、MDGs達成にはアジアの貧困問題の解決が不可欠であることを喚起し、 国際社会がアジアに対する支援を継続・拡充していく重要性を確認した点に意義がある。

  • 本会議開催のイニシャティブをとった英国は、ブレア首相とパキスタン首相の演説を始めとして、英連邦の一員で貧困人口が集中する南アジア諸国 (パキスタン、バングラデシュ、インド)に対する国際的支援の拡充を入念に演出した。また、ADB総裁、世銀の副総裁とチーフエコノミスト(南・東アジア地域とも)、 日本政府幹部といったアジア支援において中心的な役割を果たすドナーの参加・協力が得られたことは、DFID(特にアジア担当)にとって大きな「成功」であり、今後のアジア支援を語る核となる会議に仕上げたと言えよう。

  • 他方、議論の中身について言えば、全体セッション・分科会ともに、今回会議を通じて深まったテーマや新しい論点はなかった。また、南アジアと東アジアという「2つのアジア」、アジアの多様性についても議論されたが、 政府高官・国際機関・NGOs・研究者ともに南アジア関係者が多かったこと、タイ副首相のやむを得ない欠席(国内事情)という要因もあってか、会議の焦点は南アジアの貧困問題に集まった印象をうけた*3

  • アジア支援策については、DFIDがアジア支援増額(ただし織り込み済)、AsPIFF拠出を通じて民活インフラに取組む方向や最貧国に対する債務削減の可能性を打ち出したことは注目される。とは言え、 昨年のG8サミット時のアフリカ支援策のような大幅な援助増額や新規イニシャティブを華々しく打ち出すというよりも、援助効果向上への取組み、計画中のイニシャティブ・事業の着実な実施、既存の枠組みを通じた拠出など、 各ドナーとも質的拡充を中心に取組んでいくことが基調となっている。

  • 若干の違和感を覚えたのは、持続的成長と貧困削減に成功し新興ドナーとなっている東アジアの先行国――例えば、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ、中国――からの参加が少なかったことである。 これらの国々の開発経験(正・負の側面ともに)を東アジアの後発国や南アジア諸国と共有していくことは貴重であり、今後、日本がこういった東アジア先行国をアジア支援のパートナーシップ枠組みに取り込んでいくことに主導的な役割を果たすことを期待したい。 その意味で、2006年に開催予定のアジア地域の援助効果向上ワークショップ(日本・ADB・DFID共催)の中身について早い段階から日本が方向づけをしていくことは重要であろう。また、本会議ではMDGs達成に向けた取組みが主なテーマだったため、 アジア中所得国との協力関係について十分な議論はなされなかった。これはむしろ、日本が世銀やADBと共に検討していく課題であると思われる。

  • 会議を通じて、英国のアジア支援に対する考え方やアジア諸国との関係について理解を深めることができた。同時に個人的には、日本が特に東アジアへの開発援助や経済協力を通じて蓄積してきた知見の深さを再確認する機会になった。 これは他ドナーがもたない日本の比較優位であるし、さらに上述のとおり、日本は東アジア先行国と他の途上国との間のパートナーシップ促進の触媒役になりえる。 本会議の共同議長サマリーにおいても、アジア地域内および同地域を越えた「南々協力」の重要性が確認されており、 この点における日本の役割は重要である。

  • 最後に、本会議が焦点をあてた南アジア支援に対して日本がどのような観点から取組んでいくかについては今後、十分な検討が必要になろう。南アジアは日本との経済協力関係や地域協力の枠組み、ガバナンスの課題などの点で、東アジア支援とは異なる配慮事項もある。 最近策定されたインド、パキスタン、バングラデシュの国別援助計画を土台に、世銀、ADB、DFIDとの連携のあり方を検討していくことは有用と思われる。

【別紙】 分科会(2C - インフラストラクチャー、3C - ガバナンス)の議論のポイント ( 136KB)

*1 日本政府ミッションは、@外務省からは遠山政務官、経済協力局の岡庭開発計画課長と樋口事務官、A財務省から国際局の草賀審議官と石井参事官、BJBICから荒川専任審議役、CJICAから山本アフリカ部調査役で構成。 現地からは、英国大使館の高岡公使、酒井二等書記官、JICA英国事務所の岩間次長、JBICロンドン事務所(坂本駐在員)他が参加した。大野はDFIDからの招待で参加。

*2  昨年3月は、ブレア首相が提案したアフリカ委員会(Commission for Africa)が包括的な報告書を発表し(Action for a Strong and Prosperous Africa)が援助増額を含めたアフリカ支援の必要性を国際的にアピールした時期である。

*3 そういった中で、2日目の全体セッションでのインドネシア財務大臣の基調講演は、今後の課題について@成長を貧困層に行き届かせる必要性、Aサービスを貧困層に届かせる必要性、B社会保護を貧困層に行き届かせる必要性、 の3本柱を強調すると同時に、同国で進展中の都市化や地方分権化のもたらす複雑さについて具体例を交えて紹介するなど、説得力ある内容だった。

トップへ

Copyright (c) 2006 GRIPS Development Forum.  All rights reserved.
GRIPS開発フォーラム