-
本会議は、ここ数年アフリカ支援への国際的熱狂が続く中で、MDGs達成にはアジアの貧困問題の解決が不可欠であることを喚起し、
国際社会がアジアに対する支援を継続・拡充していく重要性を確認した点に意義がある。
-
本会議開催のイニシャティブをとった英国は、ブレア首相とパキスタン首相の演説を始めとして、英連邦の一員で貧困人口が集中する南アジア諸国
(パキスタン、バングラデシュ、インド)に対する国際的支援の拡充を入念に演出した。また、ADB総裁、世銀の副総裁とチーフエコノミスト(南・東アジア地域とも)、
日本政府幹部といったアジア支援において中心的な役割を果たすドナーの参加・協力が得られたことは、DFID(特にアジア担当)にとって大きな「成功」であり、今後のアジア支援を語る核となる会議に仕上げたと言えよう。
-
他方、議論の中身について言えば、全体セッション・分科会ともに、今回会議を通じて深まったテーマや新しい論点はなかった。また、南アジアと東アジアという「2つのアジア」、アジアの多様性についても議論されたが、
政府高官・国際機関・NGOs・研究者ともに南アジア関係者が多かったこと、タイ副首相のやむを得ない欠席(国内事情)という要因もあってか、会議の焦点は南アジアの貧困問題に集まった印象をうけた*3。
-
アジア支援策については、DFIDがアジア支援増額(ただし織り込み済)、AsPIFF拠出を通じて民活インフラに取組む方向や最貧国に対する債務削減の可能性を打ち出したことは注目される。とは言え、
昨年のG8サミット時のアフリカ支援策のような大幅な援助増額や新規イニシャティブを華々しく打ち出すというよりも、援助効果向上への取組み、計画中のイニシャティブ・事業の着実な実施、既存の枠組みを通じた拠出など、
各ドナーとも質的拡充を中心に取組んでいくことが基調となっている。
-
若干の違和感を覚えたのは、持続的成長と貧困削減に成功し新興ドナーとなっている東アジアの先行国――例えば、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ、中国――からの参加が少なかったことである。
これらの国々の開発経験(正・負の側面ともに)を東アジアの後発国や南アジア諸国と共有していくことは貴重であり、今後、日本がこういった東アジア先行国をアジア支援のパートナーシップ枠組みに取り込んでいくことに主導的な役割を果たすことを期待したい。
その意味で、2006年に開催予定のアジア地域の援助効果向上ワークショップ(日本・ADB・DFID共催)の中身について早い段階から日本が方向づけをしていくことは重要であろう。また、本会議ではMDGs達成に向けた取組みが主なテーマだったため、
アジア中所得国との協力関係について十分な議論はなされなかった。これはむしろ、日本が世銀やADBと共に検討していく課題であると思われる。
-
会議を通じて、英国のアジア支援に対する考え方やアジア諸国との関係について理解を深めることができた。同時に個人的には、日本が特に東アジアへの開発援助や経済協力を通じて蓄積してきた知見の深さを再確認する機会になった。
これは他ドナーがもたない日本の比較優位であるし、さらに上述のとおり、日本は東アジア先行国と他の途上国との間のパートナーシップ促進の触媒役になりえる。
本会議の共同議長サマリーにおいても、アジア地域内および同地域を越えた「南々協力」の重要性が確認されており、
この点における日本の役割は重要である。
-
最後に、本会議が焦点をあてた南アジア支援に対して日本がどのような観点から取組んでいくかについては今後、十分な検討が必要になろう。南アジアは日本との経済協力関係や地域協力の枠組み、ガバナンスの課題などの点で、東アジア支援とは異なる配慮事項もある。
最近策定されたインド、パキスタン、バングラデシュの国別援助計画を土台に、世銀、ADB、DFIDとの連携のあり方を検討していくことは有用と思われる。
*1 日本政府ミッションは、@外務省からは遠山政務官、経済協力局の岡庭開発計画課長と樋口事務官、A財務省から国際局の草賀審議官と石井参事官、BJBICから荒川専任審議役、CJICAから山本アフリカ部調査役で構成。
現地からは、英国大使館の高岡公使、酒井二等書記官、JICA英国事務所の岩間次長、JBICロンドン事務所(坂本駐在員)他が参加した。大野はDFIDからの招待で参加。
*2 昨年3月は、ブレア首相が提案したアフリカ委員会(Commission for
Africa)が包括的な報告書を発表し(Action for a Strong and Prosperous
Africa)が援助増額を含めたアフリカ支援の必要性を国際的にアピールした時期である。
*3 そういった中で、2日目の全体セッションでのインドネシア財務大臣の基調講演は、今後の課題について@成長を貧困層に行き届かせる必要性、Aサービスを貧困層に届かせる必要性、B社会保護を貧困層に行き届かせる必要性、
の3本柱を強調すると同時に、同国で進展中の都市化や地方分権化のもたらす複雑さについて具体例を交えて紹介するなど、説得力ある内容だった。