GRIPS開発フォーラム

Africa Policy Brief


Africa Policy Brief # 1

Missing links in the politics of development: Learning from the PRSP Experiment
by David Booth
October 2005
ODI, Working Paper 256

レビュアー: 山内 珠比
日付: December 9, 2005

<要旨>

これはPRSPの導入以来、アフリカを中心にそのプロセスを追ってきているDavid Booth(Coordinator of the Poverty and Public Policy Group, Overseas Development Institute/ODI、CVはこちら)が、PRSP導入後5年間の評価を、政策プロセスに着目して試みたワーキングペーパーである。BoothはPRSPを、その目標である貧困削減へ向けて途上国自身に「コミットさせる」ための方法として「国のオーナーシップ」と「参加型」「援助協調」を掲げた「実験」として、PRSPは成果を出したか、そして援助国は何をすべきかについて述べている。

まず、BoothはPRSPに沿って途上国がその政策を実施するための、予算配分やインセンティブの付与が次のような条件の国で行われているとする。

  • セクターワーキンググループや、それに類似する実証に基づいた政策優先付けの仕組みが存在する

  • 予算プロセスが信頼でき、政策目的に基づいて、確固たる基準や手続きに基づいてPRSPと連携している

  • 公共サービスや地方政府において公共政策をポジティブに行っていくインセンティブが働いている

しかし、多くの国で政治家がPRSPやそれに必要な改革の推進に関心が無く、新家産制国家(家父長制度がそのまま国家になったような、国家が権力者の近親者や支持者に利権を分配するメカニズムとして機能してしまっているケース)の下で行われていることが、PRSPの失敗の原因である。

これは何を意味するか?PRSPの掲げるドナードリブンの政策が機能しないということは明白であるが、参加型改革がアカウンタビリティーを上げ、より効果的であるという、この「実験」の政治理論は証明されていない。後者について、現在国会議員や民間セクター、市民社会などより幅広い参加の仕組みを作ることが必要だと唱えられているが、農村社会で開発程度の低い途上国ではその効果は限られている。そのため予算プロセスなどの‘公式な’政治決定プロセスは実質的な政治運営を伴わず、それを批判する市民社会も育っていない。ドナーが援助のアカウンタビリティーを国民のアカウンタビリティーに任せるべきであるといった主張は非現実的であるとする。

こうしたPRSPの評価をした上で、Boothは援助国に、政策における国のオーナーシップや一貫した援助を保証するために、まず開発援助の調和化や途上国政策プロセスへの整合や、望ましい援助様式として一般財政支援(セクター財政支援が続く)を行うことが望ましいとしている。しかし、一般財政支援は途上国がコミットしている政策活動を条件にすることには有効だが、それ以外には機能せず、PRSP全体を成功裏に運営するための万能薬ではない。それには他に国内で予算プロセスの改善を迫る圧力が必要である。

そのためにはドナーは何をすべきか。Boothは次の3つをあげている。

  • 途上国の政治経済コンテクストのより深い理解をドナーの実質的な運営に活用すること。

  • その政治経済状況を途上国や国際レベルで議論すること。

  • 開発志向の国家(Developmental States)に向かうような社会的・政治的環境の変化を支持する国際世論を構築する方向へ向かうこと。

第1点の途上国のより良い理解は言うまでも無く重要なことであるが、その理解を基にドナーはその国のステークホールダーのコミットメントを形作ることに貢献する議論を行うべきである。その議論は国際レベルでも行うことが効果的であり、それは米国のMCA(Millenium Challenging Account)などのガバナンスなどの条件で援助の多寡を決めたり、開発志向の国家になろうとする途上国に対する長期の援助を約束するプロジェクトを行ったりすることが挙げられる。しかし援助が既に豊富に入っている国ではそれらはあまり機能しないため、国際金融システムや武器貿易が、天然資源の採掘権を搾取したり、民兵を組織するような権力者に有利にならないようにするなど、援助以外の方法からも国家建設を支援することが考えられる。またNEPAD(New Partnership for African Development)が行っているメンバー国間のガバナンス評価制度(ピアレビューシステム)などの方法を採ることも考えられるが、このような地域連合は、EUのようにメンバー国にとって利益が感じられないような場合にはあまり効果的ではない。

結論としてBoothは、この5年間PRSPが貧困削減政策に対する被援助国のオーナーシップ向上のための枠組みとして活用されてきたが、その「実験」は試みの1つである「参加型」がアカウンタビリティーや結果志向の政策を生まず、被援助国の政治変化を生んでいない点で、その期待された成果を上げていないとする。その目指された政治プロセス変革の達成のためには、援助国は5年間に学んできた援助協調を更に進め、被援助国の開発政策のために必要な、上に挙げたような国際的な行動をとっていくべきであると結んでいる。

<所感>

BoothのPRSPの評価は客観的で的確であり、国内政治プロセスがPRSPの実施にポジティブに機能していないという理解は他者の分析でも共通しており、そのためにまずは援助協調により被援助国の政策プロセスを支えるということも援助の効果の面で間違っていないだろう。それらを踏まえた彼の提言は、事態の改善のためには効果的で、ドナーにも影響力を持つであろうと思われる。途上国の政治経済コンテクストのより深い理解に基づいた援助を行うことは、援助国にとって耳の痛い指摘である。ましてや「国家」の政策運営能力が低い途上国に対し、一般財政支援を行い、援助国が予算全体に影響を与える政策議論を行う上で、当該国に対する理解は必須である。またアフリカ各国に共通して見られる「新家産制国家」を批判し、開発志向の国家の建設を支持する国際世論の形成も、アフリカの発展のための大きな力となるだろう。

しかしその提言にあるように、ドナーが被援助国内の議論に積極的に参加し、国内、またそれを支える国際世論を形成することは効果的ではあろうが、「国のオーナーシップ」という観点からは慎重に行うべきであろう。彼は一般財政支援を望ましい援助様式とし、それによりドナーが国の予算を政策活動で条件付け、その上に世論の形成へも関与することが必要であるとする。おそらく今まで各途上国でそれらを行ってきているドナーもいたのであろうが、それをドナーが合同で行うことは「国家主権」を侵す強い外的圧力とならないか。

Boothはアフリカのような農村社会で識字率の低い途上国における「参加型」プロセスの世論形成の効果に対して否定的だが、参加型の貧困削減政策プロセスへの効用は、彼も指摘しているように各種分析で認められており、その効果はすぐに出るものではない。そうした点でBoothの結論や提言は若干性急に過ぎる感がある。この参加の取り組みへの努力は、国家組織の建設と平行して、長い目で継続して促進すべきであろう。ドナーも、彼の提言も認識しながら、ドナードリブンになるような世論形成は慎重に行うべきで、途上国の国内政治状況を意識しながら、PRSが掲げる「国のオーナーシップ」を尊重し、途上国政府や市民社会を育てるといった息の長いプロセスが必要なのではないか。

まずは途上国のステークホールダーのPRSPプロセスへの啓蒙や巻き込みを図ることが先決で、Boothも指摘しているように既にいくつかの国では(例えばタンザニア、ウガンダ)、途上国政治家(国会議員など)のPRSPへの理解と実施の協力が鍵であるとして、その政策メッセージの啓蒙が行われている。もしそのほかに政治的権力者が存在するのであれば、各国で進行中の地方自治改革の中で、政策実施のモニタリング活動などにより、各地方レベルで何が起こっているのか把握し、彼ら権力者への啓蒙や巻き込みへの取り組みが可能なのではないか。

また国際世論の形成も、まずNEPADなど地域連合会合などにおいて、PRSPを推進しこのような国際議論に接している技術官僚のネットワークの中から、アフリカ各国自身が提示していき、それを援助国が支えるという構図が望ましいと思われる。


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No.1 2005/12/8

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