バグダッド通信No.1 「イラクは安全なのか」

写真:バグダッドの国連本部前で警戒にあたる米軍兵士

「国連の基準では、今のイラクには人道援助関係者とセキュリティーの人間以外はいないことになっているのだが」とアドルフ国連イラク首席安全管理官が停電のため薄暗い事務所の中でチャイをすすりながら皮肉っぽく言った。確かに国連の安全基準では、イラクはフェーズX(退避)かフェーズW(限定的な活動)のどちらかだ。しかし、今イラクには復興や長期的な開発をにらんだ調査団や援助関係者が入り始めている。日本も例外ではない。6月はじめJICAの川上総裁もイラクの現状視察と開発ニーズの把握のため二国間援助機関のトップとしては一番乗りでイラクを訪れた。

「イラクは安全なのか。」という質問に対する答えは、米軍とそれ以外の民間外国人では違ってくる。米軍は、イラクを依然戦闘状態とみなしている。戦争終結宣言後も連日のように米兵がイラク兵の残党やサダム政権の支持者と見られる勢力に殺害されている状態なので、米兵や軍関係者にとっては、イラクは危険な国なのである。週4回CPA(同盟軍暫定行政当局)で行われる安全ブリーフィングに行ってみるとこれがよくわかる。彼らがパワーポイントを使って説明する内容は、米兵がどこでどうやって襲われたかというものばかりで、一般犯罪や外国人の被害についてはほとんど触れない。質問しても情報がないと言う。米軍にとっては、やはり米兵の安全が気がかりなのであろう。

では、我々外国人に必要な治安情報は一体誰が教えてくれるのだろう。それは、冒頭の国連完全管理官室である。国連が事務所として借り上げたバグダッドのホテルの一室にある。この部屋では毎日イラク全土の犯罪や外国人や援助関係者に対する被害の詳細を把握し、関係者にメール配信している。WFP(国連食糧機関)のトラックが襲われたとか、ユニセフの関係者が脅迫を受けたとかいう情報で、われわれ援助関係者にとっては、より身近な情報だ。

最後に「民間外国人にとってイラクは安全なのか。」という問いへの答えだが、今のところは米兵がターゲットであって、一般の外国人が狙われたという事件は聞かない。しかし、米兵が町中をパトロールしており、また非番の米兵が軍服のままレストランで食事をしている状態では、いつ民間人が襲撃に巻き込まれるかもしれない。また、サダムフセインが戦争が始まるやいなや全国の刑務所から1000人の刑事犯を解放したという恐ろしい話もあり、現在のようにイラクの警察が十分に機能していない状況では、一般の外国人も決して安全とは言い切れない。

とは言っても現実には国連、NGOその他多くの援助関係者がすでに活動を開始している中で、十分な注意をした上で、限定的な範囲でイラク復興のための支援活動をせざるを得ない。危険な国、危険な場所ほど援助ニーズがあるのは常だ。

かくして危険は承知で仕事に取り組む国連関係者は、現在のイラクの治安状況を指して「It is dangerous but acceptable.」という。

2003621日 バグダッドにて)

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