2005年6月28日 英国援助事情 No.37(最終号) 「英国式紛争対処法」
1989年のベルリンの壁の崩壊に伴う冷戦構造の終焉は、米ソの核による第三次世界大戦の恐怖から世界を救ったが、それとは裏腹に、1990年以降それまで抑制されていた民族や宗教の違いによる対立が顕著化し、世界で120回以上の戦争が勃発した。
「予防にまさる薬なし。」とは何も人間の体に限ったことではないのだ。そこで英国政府は2001年4月、冷戦後世界各地で勃発している紛争を予防するための「薬」を開発した。それは「紛争予防プール」と呼ばれるメニューで、英国国際開発省、外務省、国防省がそれぞれの関連予算をプールし、三省が協議のうえ、共同のアセスメントに基づくプライオリティー付けを行い、具体的な予算執行を行うという画期的なシステムである。 このプールに国防省が入っているのは、軍や警察の治安部門を担当する組織の民主化、情報公開や軍人の意識改革を行うために制服組の参加が不可欠だからだ。これはSecurity Sector Reform(治安部門改革)とも呼ばれるが、開発途上国の多くは軍の力が強く、軍は国防だけでなく国内の治安対策を行っており、これが行き過ぎると人権弾圧や武力による鎮圧行為となり、国内紛争の引き金になることが多い。したがって軍の情報公開や組織の民主化、軍人への人権教育などを行うことにより軍の暴走を押さえ、紛争を未然に防ぐことができるというのである。
市民団体の紛争予防活動も活発だ。今年の5月初旬、北アイルランドのベルファストで、Belfast Local Strategy
Partnership(LSP)という地元の団体が米国のアイルランド系アメリカ人の市民団体と共同でギニア・ビサウで紛争予防を行うための会議を開催した。 ギニア・ビサウはアフリカ西海岸の人口120万人、九州くらいの小さな国だ。会議に参加した筆者は、元ポルトガルの植民地なのになぜ英米人が関心を持つのか、素朴な疑問を持ったので質問してみた。答えは、小さな国なので紛争予防もやり易い、ここで成果をあげることによって、資金が集まりにくい紛争予防に国際社会の関心を向けたいというのである。 確かに、紛争の結果多くの血が流れ、国土が破壊された後に国際社会が反応するのは、東チモール、アフガニスタン、イラクの例を見ても明らかだ。形の見えにくい紛争予防に「先行投資」する英国流紛争対処法が効果をあげるのは難しいかもしれないが、世界の関心が紛争予防に向かえば、無駄な流血と破壊がなくなるだろう。 英国式紛争対処法は、この理想を追求しているのである。 (英国援助事情は当号を持って終了いたします。長い間お読み下さり誠にありがとうございました。) JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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