バグダッド通信No2. 「複雑なイラク援助コミュティー」

写真:下水処理施設の故障により道路に汚水が流出しているバグダッドのサウラ地区

一般に紛争終結国では、援助調整が重要な課題だ。国連、国際機関、二国間援助機関が殺到し、調査をはじめ、それぞれの方針で援助を開始すると、援助の重複があったり、援助対象地域が偏ったりするため、それを予め調整したり、情報を共有することが必要になってくる。イラクは湾岸戦争以後、経済制裁の下、国連が「Oil for Food Programme」により、食糧の配給、学校教育、保健などの分野で人道的観点から援助してきた。これは、イラクの石油収入を資金として、国連がイラク政府を通さず直接援助活動を行う方式で、ユニセフ、WFP(世界食糧機関)、UNDP(国連開発計画)などが活躍してきた。二国間の援助がない中で、言わばイラクは国連援助機関の独壇場だったのである。

ところが、今回のイラク戦争の後、国連にとって馴染みのない「競争相手」が現れたのである。それは、米軍と米べクテル社である。アメリカは、戦後復興支援の一環として米軍工兵部隊を使ってインフラ設備の応急修理を始めている。これは、多分に住民対策もあるのだが、援助であることにはかわりない。また、アメリカの大手エンジニアリング会社であるべクテル社などが、USAID(米国国際開発庁)のイラク援助の大部分を受託し、USAIDに代わってイラクのインフラ、教育、保健分野の復興計画を作成、下請け会社を使って工事を実施することになっている。

したがって戦後イラクにおける援助調整は、国連、二国間援助機関に加え、これらアメリカ勢を取り込まなければならないのだが、国連関係者からは早くも「ユニセフが下水施設の復旧計画を作っているところへ、米軍が来て勝手に応急工事をしてしまう。」、「国連の調整会議にべクテル社の代表は一度も顔を出さない。たまたま会って聞いてみても、USAIDに言われたとおりにやっているというだけだ。」、「CPA(同盟軍暫定行政当局)の人に会おうとしても、連絡がとれないし、警備が厳しくて簡単に中に入れない。」などの不満の声が聞こえる。

もっともアメリカ側も少しずつ国連側に歩み寄りはじめた。上下水道の分野では、CPAやべクテル社の代表も一緒に会議に参加しはじめた。これにJICAやDFID(英国国際開発省)のメンバーも加わってきたので、ドナー調整が少しずつ機能することを期待したい。

イラク戦争におけるアメリカと国連のこじれた関係を援助コミュティーに持ち込んではイラク国民のためにならない。日本や英国などが間に入って協調的な関係を作るべきだと思う。

(2003622日 バグダッドにて)

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