バグダッド通信No.3 「イラク人は尊敬すべき人々だ」
写真:信号機が機能せず大混雑するバグダッドの交差点
筆者は約1ヶ月バグダッドに滞在したが、イラクの人々には感心することが多い。イラク人の気質や現在イラク人が置かれている状況を示すエピソードを二つ紹介したい。 まず、交通渋滞の話だ。現在バグダッドの町は、戦争が終結し、空爆の恐怖もなくなり、商店やレストランなども徐々に開店し、町に活気がでてきた。ガソリンスタンドの行列も解消したため、車の数も増えだした。(ちなみにイラクのガソリンは質が悪いがリッター5円と安価だ。)ところが、町中の信号がまったく機能しておらず、交通整理にあたる警官の数も少ないため、朝夕のラッシュ時には交差点には4方向からの車が乱入し、大混乱する。 その時どこからともなくボランティアのような人が現れる。彼らは新聞売りの少年であったり、車の運転手であったりする。40度を超える炎天下の中、一生懸命身身振り手振りで交通整理をするのだ。運転手も彼らに従う。クラクションを大きく鳴らしたり、喧嘩をする人はほとんど見かけない。イラク人はなんと統制の取れた冷静な人々なのかと感心しながら車の中で観察しているうちに、しばらくすると何とか停滞の中を脱することができるのだ。 バグダッドといえば、人口500万人の大都市だ。日本では大阪市に匹敵する。もし、大阪市内の信号が全部故障し、警官がいなかったら、果たしてどうなるのだろうか。大阪出身の筆者にとっては恐ろしい話だ。 もうひとつのエピソードは、今我々が雇っている通訳のイーサン氏の話だ。彼はバグダッド大学の英文学科修士課程を卒業し、戦前はバグダッド大学で教鞭をとっていたが、戦後の混乱で職をなくし、現在は外国人ジャーナリストや援助関係者の通訳をして生計をたてている。彼の英語は正確で、地理や情報に明るいので皆重宝している。筆者は、将来彼を長期に雇用することを考え、自分のパソコンを使って履歴書を作るように言った。ところが、彼は生まれてこの方パソコンに触れたことがないと言う。バグダッド大学の修士がそう言うのだ。長年の経済制裁で大学にはコンピューターが入らず、学生が使うことがなかっと言うのだ。 現在イラクのおかれた状況は確かに今回の空爆やその後の略奪の影響が尾を引いている。しかし、もっと深刻なのは、イーサン氏の話にもあるように、10年間の経済制裁の影響で元来有能なイラク人が西側の先端技術から取り残されてしまったことのように思える。優秀な医者はいるが最新の医療機器が使えない、技師はいるがコンピューターが使えない、という状態だ。 しかし、イラク人は、自分たちの政府もなく、警察もほとんど機能していない今の混乱した状況でも自制心や理性を失わない立派な人々だ。これから治安が回復し、復興が進み、石油収入も入り始めれば、彼らはすぐに進んだ技術にキャッチアップし、国を発展させるだろう。そうなればまた別の意味でアメリカの脅威になるかもしれない。 (2003年6月23日 バグダッドにて) |