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GDF is a research unit of National Graduate Institute for Policy Studies

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グッド・ドナーシップと援助モダリティ

 

GRIPS開発フォーラムは、2004年の研究テーマの1つとし て、援助の有効性を高める観点から、@援助モダリティの「ベスト・ミックス」のあり方、およびA援助を実践する際のドナーとしての責務(グッド・ドナー シップ)について検討・政策提言を行うべく取組んでいます。また本調査の実施・とりまとめにあたっては、有志との勉強会を含め、フロント・ラインにいる政策・実務担当者と密接に意見交換を行っていきます。

勉強会の概要はこちら

【調査計画案】

タイトル(仮): グッド・ドナーシップと援助モダリティ

目的

ローマ調和化宣言(2003年2月)は「国別アプローチ」に基づき「モダリティの多様性」を容認し、援助受入国のオーナーシップのもとで個々のモダリティを決定する方向で国際的コンセンサスを形成した(最大公約数として、「政策レベルにおける統一性・共有/実施レベルでの援助モダリティの多様性」)。ただし、同宣言を各国のニーズに合致した形で運用するための具体的指針は存在しない。

本調査の目的は、援助受入国の多様性や援助ニーズを認識したうえで、財政支援(一般財政支援、コモン・バスケット)やプロジェクト援助(プログラム化が前提)、あるいはそれらの最適な組み合わせ(「ベスト・ミックス」)がどのような場合に開発効果を高めうるかを判断するための視点を提供することである。それにより、援助受入国政府が自国の事情に照らしオーナーシップを持って最適な援助モダリティを検討する一助となることを期待する。同時に、かかるオーナーシップ発揮を側面支援する際に必要なドナーの責務(「グッド・ドナーシップ」)についても明らかにする。

背景と問題意識

1990年代後半から、特に世銀や英国・北欧ドナーにより強力に推進されている新しい援助潮流は、@政策と方針の共有、及びA資金・資源の利用の統合、といった2つのレベルで援助協調を推進するもので、セクター・プログラム(SP)の策定やセクター・ワイド・アプローチ(SWAp)の採用、さらにはコモン・バスケットや一般財政支援に代表されるように援助モダリティや援助手続きにおいても共通化をめざすものである。PRSP(貧困削減戦略書)の主流化、サブサハラ・アフリカを中心に導入が進んでいるMTEF(中期支出枠組み)の動きも新しい援助アプローチを推進する要因となっている。

こういった新潮流は援助依存度が高く、ドナー数が多く、制度能力が弱い(それ故に、援助の氾濫、取引費用の問題が深刻な)サブサハラ・アフリカに対する、北・西欧ドナーの援助経験の反省に端を発する。サブサハラ・アフリカの社会セクター支援においては、SPやSWApと財政支援(一般財政支援やコモン・バスケット)をセットとした「枠組み志向」のアプローチが主流になりつつある。また、既存文献も、援助効率化のためには財政支援の優位性をうたうものが多い。これは、これらの国々が社会セクターの経常支出すら援助に依存せざるを得ない状況におかれ、かつ貧困削減が急務となっている現状と密接に関連している。そして、PRSP、MTEF、SP/SWApは政策体系・制度構築のためのツールとして期待されている。

他方、日本は援助プロセスで、現場での実務を通じた協働や産業等の中身をより重視する「現場(中身)志向」1アプローチをとってきた。日本が長年、重点的に支援を行ってきた東アジアには、援助依存度を比較的低く抑え、社会セクターを含む経常予算は基本的には自国で対応し、インフラ整備を含む成長促進策に重点的に援助資金を動員してきた国がある。これら諸国では概して、開発計画やセクター計画策定、予算化(PIPを含む)などの制度・政策体系が(PRSP導入以前から)存在している。こういった環境のもと、日本はプロジェクト援助を中心に「現場(中身)志向」アプローチを実施し、東アジアでは一定の開発効果をあげてきた。

このように、サブサハラ・アフリカと東アジアとは異なる開発・援助経験を有し、これが援助アプローチをめぐって北・西欧ドナーと日本との間に認識ギャップを生む主要因の1つになっている。新しい援助アプローチ導入から一定期間が過ぎた現在、サブサハラ・アフリカにおいてある程度の経験が蓄積されてきており、また(その導入が比較的緩やかな)アジアにおいても、その適用可能性について関心が高まっている2。従って、多様な援助受入国の実情・ニーズに合致した援助を供与するよう、援助受入国及びドナー相互で「ベスト・ミックス」実践のために必要な視点を共有することが益々重要になっている。

さらに、日本にとっては、@サブサハラ・アフリカにおいて近年進んでいる財政支援への対応策、及び従来実施してきたプロジェクト援助が必要とされる場合、それを有効にするためドナー側として取組むべき諸条件、A一定の環境・条件が整った国・地域において成長促進策の策定・実施を有効にすべく、プログラム化を念頭においた支援のあり方、B制度能力や援助依存度においてサブサハラ・アフリカ諸国に近い問題に直面しているアジア後発途上国に対する支援のあり方、等の検討が急務になっている。

調査方法

本調査では、@援助受入国の多様性(制度能力、援助依存度など)、A援助対象セクターや援助によるインプットの特徴(アイディア、財、資金)、さらにはB援助受入サイクル(政策形成〜実施段階)等に着目し、いかなる条件のもとで、どのような「ベスト・ミックス」が援助効果の向上に貢献するかについて既存文献レビューや事例分析(現地調査を含む)を通じて、援助受入現場の実情に即した検討を行う。そして、かかる「ベスト・ミックス」を実践するうえで必要となるドナーの責任を明らかにするとともに、日本の取組みへの示唆も考察する。

事例対象(国、セクター)、及び「ベスト・ミックス」を考える際の視点は、さらなる情報収集を行って引続き検討するが、現時点の候補は以下のとおり。

  • 対象国: 援助依存度、既存の制度・政策体系(及びその機能)の強弱、援助ニーズ、SP/SWApの進捗状況等の相違を考慮して絞り込む。候補として、ベトナム、カンボジア、バングラデシュ、ガーナ、タンザニア等(ラオス、ウガンダ、ザンビア、モザンビークも要検討)。

  • 視点: 援助依存度、援助マネージメント能力、対象セクターの特性(政府の役割、予算化が可能な範囲)、予算化する際の援助インプットの特性(資本支出と経常支出)、政策形成〜実施段階のサイクル、ドナー側にとっての新援助モダリティに対応可能な幅、等(詳細は後述の【構成案3.】を参照)。

成果品のイメージ・発信方法

次のような複数のアウトプットを想定している(日本語、英語)。

  • Discussion Papers: イシュー・ペーパー、国別、セクター別事例

  • Policy Note: 基本コンセプトの整理。

  • 総合レポート: 全体を一定の構成のもとにまとめる。

スケジュール

調査プロセスにおいて日本の経協関係者(外務省、JICA、JBIC等)と連携し、当方の問題認識や事例についてフィードバックを得るともに、発信方法やタイミングを戦略的に考える。(必要に応じて経協関係者との勉強会を企画。また、念頭におくべきイベントとして、LENPA、2005年に世銀が予定しているPRSP包括レビュー、DACが予定している調和化レビューなど。)

  • 2004年2月末〜3月初旬: 予備調査(アフリカ)

  • 2004年4月〜10月: 現地調査(アジア、アフリカ)、Discussion Papers、Policy Note作成。

  • 2004年11月〜2005年1月: 総合レポート作成。

構成案

本調査において検討予定のイシュー、現段階でのレポート構成案を以下に示す。

  1. 問題意識の共有――援助効果の向上のために解決されるべき問題

    1. 新しい援助アプローチ台頭の背景(例示):

      • 既存システムと重複したプロジェクト・マネージメント(parallel management system)

      • 政策の不整合(policy inconsistencies)

      • 援助資金のファンジビリティ(presence of fungibility)

      • 援助手続きの取引費用(transaction cost of aid delivery)

      • 能力向上(limited local capacity)、等。

  2. 今まで提案されてきた問題解決の方法――「枠組み志向」と「現場(中身)志向」アプローチ

    1. 「枠組み志向」アプローチ 基本認識:

      • 援助インプットは政府システムの構築、及びそれを動かすための資金提供。主に、マクロレベルにおけるドナー間及びドナーと援助受入国との間のcoordination failure、及び政策・制度環境の改善をめざす。

      • 利点とリスク

    2. 「現場(中身)志向」アプローチ

      • 基本認識: プロジェクト援助により、様々なインプット(資金、財、知識・技術)が実施プロセスで着実にアウトプットに結びつくよう、具体的な開発効果の発現を重視。全般的な政策・制度環境の整備を(ある程度)前提とする場合と、プロジェクトを起点に改革を促す場合とがある。

      • 利点とリスク3

  3. 「ベスト・ミックス」の実現にあたって留意すべき視点

    以下の視点(仮説)を念頭において、国・セクター別に、「枠組み志向」、「現場(中身)志向」アプローチの組み合わせが援助の有効性を高めた事例を検討する。その際に、対象国やセクターのおかれたコンテクストにも着目する。

    1. 援助受入国の援助依存度
      援助依存度は、対象セクターやインプットの範囲(社会セクター、経常支出を含むか否か)、援助マネージメントに要する取引費用の大小に影響を与える。

    2. 援助受入国の援助マネージメント能力
      自国の制度・政策体系が強靭で、援助マネージメント能力が高い場合は、(既存の制度・政策体系のもとでのコーディネーションを尊重し)援助を具体的ニーズに対応させることで、開発効果の発現が可能。 【→プロジェクト援助が有効】

    3. 対象セクターの特性(特に政府の役割、予算化が可能な範囲)

      • 社会セクターのように、期待される政府の役割が普遍的なサービス・デリバリー提供の場合、政策〜計画〜予算化にいたる統一した枠組みを形成しやすい。 【→財政支援が有効】。

      • 成長促進策(産業開発、農業開発など)のように、政府が民間セクターを含む多様なステークホルダー間のコーディネーターである場合は、仮に共有する政策枠組みが存在しても、活動全てについての計画〜予算化は困難。 【→プロジェクト援助が有効】

    4. 予算化する際の援助インプットの特性(資本支出と経常支出)

      • 社会セクターにおける広範なサービス・デリバリーのように、経常支出が中心の場合。 

      • 【→財政支援が有効】 (ただし、アクセス拡大のみならず質の向上もめざす場合には、資本・経常支出の組み合わせ、知識・技術の移転が必要となり、プロジェクト援助も有効。)

      • インフラ事業のように資本支出が中心となる場合、資金、財、知識・技術といったインプットの有効な組み合わせを集中的に行う必要あり。 【→プロジェクト援助が有効】

      • 政策改革に対する支援は経常支出(経済構造改革に伴う費用の負担)が中心。 【→財政支援が有効】

    5. 政策形成〜実施段階のサイクル

      • 政策形成段階: 当該セクターの政策が未形成で、複数のアイデアの検討が必要な場合、またパイロット事業による試行錯誤をへて最適技術・方法を採択する必要がある場合。 【→プロジェクト援助が有効(特に知識・技術の提供、リスク負担において)】

      • 実施段階: 政府システムの強化において、対象とするシステムが上流部分の場合(財務、会計)には財政支援による対応が可能。他方、下流部分(地方行政などのサービス・デリバリー末端)の場合には、エンド・ユーザーの特性に留意した制度設計が必要。 【→プロジェクト援助、現場を熟知したNGO等の活用が有効】

    6. ドナー側の対応可能な幅に着目した現実主義

      • ドナーにより、財政支援に対応可能な範囲は異なる。国内のアカウンタビリティの観点から、財政支援に容易に対応できないドナー、又はNGO等のように特定活動にコミットする観点から財政支援が困難なドナーが多い場合、それらをうまく活用する方法を考える必要あり。

  4. 「ベスト・ミックス」達成のためのグッド・ドナーシップ

    1. ニーズとのマッチング(また、途上国政府自身がニーズ把握をできるようにするための政策形成能力の移転も重要)。

    2. 当該国・セクターをとりまく諸環境(政策・制度、援助受入能力など)との整合性。

    3. 実施プロセスを通じたモニタリングによる援助インプットの効果発現の確保。

  5. 今後の取組みに対する示唆

    1. 社会セクターを中心とした支援を行う際の留意点。特に援助依存度が高く、制度能力が弱い国において、プロジェクト援助が有効となる諸条件の検討。

    2. 成長促進策づくり・実施支援(特にプログラム化)を行う場合の留意点。

    3. 既存の制度・政策体系が強靭な国におけるPRSP、SWAp、MTEF等の導入にかかる留意点。

 

  1. これは日本型国際協力[JICA2003]の特徴の1つであるが、「日本の経験」を意図するものではない。援助のpractitionerであれば心を砕く、実践型・現場重視の姿勢という意味。[本文へ戻る]

  2. 例えば、LENPA(Learning Network on Program-Based Approaches)は2004年6月に東京において"Forum on Program Based Approach in Asia"の開催を予定している。LENPAはSWAp、PRSP等のプログラム・アプローチに関する知識の向上・蓄積・普及をめざした、援助機関の実務担当者レベルが参加するネットワーク。[本文へ戻る]

  3. Foster[2000]は、@財源と政策のリンク、Aマクロ経済運営と財政管理能力、Bセクター運営能力、C援助依存度といった4つの観点から援助対象国(セクター)を分類し、SWAp導入の条件を満たすのは、高い援助依存度、 良好なマクロ経済の下で財政と連動した良い政策がある場合、あるいは高い援助依存度、脆弱なマクロ経済の下で財政と連動した良い政策、かつ高いセクター運営能力のある場合に限定している。[本文へ戻る]

以上

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