2002年12月1日「第13回国際開発学会 全国大会」
「PRSPと日本の貢献」セッション
弓削昭子氏(国連開発計画駐日代表)によるコメント
主体性(オーナーシップ)と貧困者の参加について
世銀は、PRSPの開始当初、「貧困者の声」 を聞くと言っていたのを覚えているが、実際には、参加・対話プロセスに「貧困者の声」 が反映されていない可能性を危惧している。また、参加の確保とコスト面の兼ね合いも考慮する必要がある。どうすれば適切 に貧困層の参加を確保できるのか、世銀や他ドナー、途上国政府は具体的に何をすればよいのかにつき、引続き考えていくことが重要。
そもそも、政策決定者が「貧困者の声」を聞くことに積極的でない場合もあるが、その時はどう取り組めばよいか、誰と話し合えばいいか。どうすれば、こういった壁を乗り越えられるのか。
(表面的には)オーナーシップを唱えても、実際は途上国主導でない場合が多い。貧困者のEmpowerment (UNDPでいう「人間開発」)を通じて成長を促進するにはどうしたらいいのか。実効性あるPRSPを策定することが望ましい。
参加型で「貧困者の声」を聞くことと戦略策定とは別次元の問題ではないかとの指摘(←大野コメント)に関し、戦略策定・計画づくりの全段階において「貧困者の声」を反映することが必要と考える。マクロとミクロの両レベルで、貧困者(当事者)の意見を吸い上げ政策にフィードバックしていくことが大切である。
PRSPのあり方について
次世代PRSPをより多様化すべしという指摘には賛同。対象国は様々であり、画一的なPRSPは望ましくない。その意味で、ベトナムの例は「成熟」したPRSPの1オプションと理解するが、それとは対極にあり計画策定能力の弱い国ではどのようなPRSPが有効かについても考えることが重要。
PRSPを義務づけられていない他の途上国(特に、低所得ではないが国内に多数の貧困層を抱える国)に対してPRSPを適用することのプラスとマイナスは何かについても考えることが重要。
日本の関与、対応体制について
PRSPへの関与について、日本は明確な方針をもっているのだろうか。今、日本のODAは改革期にある。その中で日本はPRSPにどのように関わっていくのか。対象国の各状況を見極め、日本の比較優位に則って明確な対応方針を打ち出すべきである。
日本の援助体制について、途上国の現地事務所により権限を与える必要がある。専門性・経験のある人を配置し、現地の援助コミュニティーと密接に協議し、方針を決定していくべきである。そのためには現地体制の整備にとどまらず、交渉能力、協調性、リーダーシップのある人材を育てることがまず必要である。これは日本が最も弱点とするところだが、これらを今後ますます強化していくことが重要。
MDGsとの関係
PRSPとMDGsをどうリンクすれば貧困削減のために効果的か。UNDPのMDGsへの取組みは、@研究・提言(資金的インプリケーション含む)、Aモニタリング、BMDGsキャンペーンの3本立てだが、Aのモニタリングにかかる報告書は様々なレベルでの開発パートナーとの協議を通じて策定される。なお、2003年版の人間開発報告書は「MDGsと人間開発」を特集する(2003年7月に刊行予定)。
MDGsから「雇用」が抜け落ちているという指摘(←発表者の山形氏コメント)に関し、これはMDGsが十分に理解されていない故の誤解である。確かにMDGsは8つの目標を掲げているが、あくまでも各国共通に取組みやすいものを示しただけで、その達成のためには経済・ガバナンス・人材育成など他にも様々な分野での努力が必要である。8目標として明記されていなくても、それが含まれていないわけではない。