PRSPプロセスにおけるpro-poor growthについての考察
By GRIPS開発フォーラム

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Pro-poor growth台頭の背景

  • 開発における最終目標が「成長」から「貧困削減」へとシフトする中で、貧困削減に寄与したかどうかという観点から成長の中身(質、パターン)が重視されるようになった。

  • 90年代を通じて、世銀により導入された家計調査を通じて家計データの蓄積や分析手法の普及した結果、成長が貧困世帯の家計に及ぼす影響が計測可能となった。

Pro-poor growthとは?――既存の議論の整理(現時点の暫定的なもの)

過去の成長と貧困削減の関係:

  • Dollar and Kraay(2000), Ravallion(2001a) →経済成長と貧困削減の間に有意な正の相関関係あり。Dollar and Kraayは、80カ国を対象として貧困層の所得増加率と経済全体の成長率にかかる回帰分析を行い(40年間のタイムスパン)、以下の結論を得た:“the income of the poor rises one-for-one with overall growth.(p.19)”

貧困削減をもたらす成長(pro-poor growth)の中身:

  • Ravallion and Datt(1999) →貧困者の住む地域で貧困者の有する生産要素を使った成長(例えば貧農が集中する地域での農村開発)。

  • 山形、栗原(2002)→将来の労働吸収能力が高い産業(製造業)における成長。

  • 石川(2002)→「broad-based growthの場合、支出対象となる項目は、直接貧困削減を目的とするのではなく、まずGDP の拡大に貢献し、その結果として生ずる貯蓄の増加が財政・金融その他さまざまな経路を経て最終的に貧困削減を招来することになる。(p.120)」(*当方注: 石川のbroad-based growthは、@いかなる方法であれ、まず成長促進策をとり、A別途(または平行して)貧困ターゲット策をとるという、2段階アプローチを示唆している)。

Pro-poor growthと政策のリンケージ:

  • Klasen (2002) →pro-poor growthを”the poor benefit disproportionately from economic growth(p.2)”と定義した上で、その達成は社会がおかれた初期条件に左右され、また、達成のための政策手段として、貧困層をターゲットして成長を起こす直接的方法と、成長の果実を貧困層に再分配する政策によってpro-poorとする間接的方法があるとしている。

  • Kakwani and Pernia(2000)→”Promoting pro-poor growth requires a strategy that is deliberately biased in favor of the poor so that the poor benefit proportionally more than the rich.(p.3)”と貧困層向け政策の重要性を強調。

  • なお、pro-poor growthという用語は用いていないものの、世銀は成長の質やパターンを重視する観点から、The Quality of Growth(2000)において、人間開発、環境保全、行政制度の透明性などを伴う成長を起こすためのプロセスや政策をまとめている。

PRSPにおけるpro-poor growth:

  • IDA and IMF(2002)→PRSP実施プログレスレポート(2002年9月の合同開発委員会に提出)は、初期のPRSPで貧困削減達成の前提であるマクロ経済の成長率が不十分であった状況を憂慮し、以下を提案:”Research over the next two years will focus on investigating pro-poor growth and inequality at the country level; sub-national determinants of pro-poor growth; income dynamics, risk and vulnerability; and social exclusion(p.19).”

⇒以上を整理すると、次のとおり。

  • 最近では、pro-poor growthとは、経済全体の成長率と同じだけの、もしくはそれ以上の貧困削減率が結果としてもたらされること、と定義される場合が多い(*当方注: 但し、石川のbroad-based growthに基づく2段階アプローチにおいては、成長促進策と再分配策の効果が発現する時間差が生じうるため、この定義の妥当性について更なる検討が必要と思われる)。

  • PRSPとの関連からも、pro-poor growthを実現するためには、初期条件、成長の中身(質、パターン)、成長の成果を貧困層に行き渡らせるための政策が重視されている。ただし、何をpro-poor政策とみなすかについては、政策の範囲(貿易投資促進、インフラ整備、社会投資、貧困ターゲット策など)やシークエンシングなどの点で、未だコンセンサスはない。

  • これらの議論をまとめたものとして、「図1: 経済成長と貧困削減の関係」を示す。

その他の論点

  • 近年は貧困を多面的に捉える傾向が浸透しているが、pro-poor growthの議論では、(計測可能性を重視する事情から)貧困は第一義的には所得で定義されている。

  • 最近はグローバル化と貧困削減の関連についての研究も盛ん(World Bank(2002))、例えば貿易と経済成長、貧困削減効果との関連等(例えば、2002年12月、ソウルでの第4回アジア開発フォーラムでの議論)。

Pro-poor growthと政策(整理の仕方の案)

Klasen (2002)は、pro-poorに関連する政策とそれらに対するコンセンサスの有無を一覧表にして示している(”Table1: Policies to Promote Pro-Poor Growth: Consensus and Remaining Debates”)。ここでは、議論の整理のために,それらの政策を前掲の図1で示したpro-poor growthの各局面、「初期条件」、「成長と貧困削減」に位置づけてみる。

図2: Pro-poor growthと政策の整理

Pro-poor growth に関係する政策分野

政策(コンセンサスの有無)

無印: 政策の必要性及び中身についてコンセンサスあり
×:政策の必要性について論争あり
△:政策の必要性についてはコンセンサスあるも、政策の中身やアプローチについて論争あり

初期条件

a)成長を可能とする条件

  • マクロ経済の安定

  • 金融・為替政策

  • 財政均衡

  • 金融の自由化

  • 農業の生産革命×

  • 治安の維持

  • 人的資源の形成

  • 所有(特に土地)の平等△ 

  • ジェンダーの平等

  • 地域間の平等△

  • ドナーの援助政策△

  • 政府の能力向上△

b)貧困層へ有利な分配を可能とする社会構造

成長と貧困削減

@貧困層における雇用の拡大、貧困者が多数存在するセクターを中心とした成長(狭義のpro-poor growth)

  • マイクロファイナンス△

  • 農村開発(小規模インフラ整備を含む)△ 

  • 貿易政策△ 

  • 産業政策(産業インフラ整備を含む)×△

  • 教育、保健など社会セクタ ー支出の量と質の拡充

A貧困層に限定せず、その国の持っているポテンシャリティを生かした成長(broad-based growth)

B政策による再配分の促進

PRSPプロセスにおけるpro-poor growthの取り扱い

  • 前述のIDA and IMF(2002)の表現ぶりやかつて配布されたPRSP Source Bookのpro-poor growthの目次(*当方注: 現在は削除されているが、Role of Structural Reform, Integrating into the Global Economyが含まれていた)によれば、PRSPが想定するpro-poor growthのための政策は狭義にとどまらず、広義(broad-based growth)なものも対象になっている。

  • しかし、それらをどのように達成していくか(=政策範囲、シークエンス)、特に達成プロセスにおける政府の役割は何か(=予算支出項目の特定化、予算化と関連)の議論に及ぶと、広義のpro-poor growth(broad-based growth)――つまり、貧困層に限定せず、その国の持っているポテンシャリティを生かした成長――達成の詳細についてのコンセンサスはない。また、一定のコンセンサスがある政策の場合でも、その導入シークエンスに関する議論は不十分である。

  • もし、PRSPが援助資金を動員するための中心的(唯一の?)文書となり、ドナーと援助受入国及びドナー間でコンセンサスのある政策に対する資金動員しか許されない状況になれば、結果として、論争ある政策に対する支援は困難となる状況が生じることが予想できる。また、援助資金のみならず、PRSPがその国において唯一の開発計画として、予算策定プロセス(例えば公共投資プログラム(PIP)や中期支出枠組み(MTEF))を縛っていく文書になれば、コンセンサスのない政策の予算化は困難となろう。

  • さらに、コンセンサス作りの方法論をめぐる問題があり、「貧困層への影響を定量的に計測できない」政策や事業が排除される可能性もある。具体的には、計量経済学的な社会プログラム評価法が実際の開発プログラム・プロジェクト評価に幅広く用いられるようになっていること(例えばRavallion(2001b))、成果主義のもとで数値目標の達成を計測する傾向が強まっていること、などを受けて、個々の政策あるいは事業単位で、貧困層に対するインパクトを計測(PSIA: Poverty Social Impact Assessment)する手法が活発に導入されていることが挙げられる。従って、貧困削減効果の数値化という、一定基準を満たす政策・事業以外は採用されない方向へと発展する可能性もある(当方注: 但し、数ある政策・事業の相互関係を考慮にいれると、そもそも個別政策・事業と貧困削減効果の因果関係が証明可能かという疑問は残ろう。)

  • そこで、コンセンサスのない政策(特にbroad-based growth促進策)については、@成長戦略という独立した柱を打ち立てて、PRSPの枠外で実施していくことが可能か(適切か)、A方法論を含め、コンセンサス作りをどのように行っていくのか、などにつき、各国のPRSP文書の持つ役割と併せて検討する必要がある。

以上

参考文献

Dollar D. and A. Kraay(2000) Growth is Good for the Poor, mimeo, DECRG, World Bank.
[http://www.worldbank.org/research/growth/pdfiles/growthgoodforpoor.pdf]

Ravallion, Martin (2001a) “Growth, Inequality, and Poverty: Looking Beyond Averages,” World Development 29 (11), 1803-1815. この更新版は、以下で入手可能。
[http://wbln0018.worldbank.org/eurvp/web.nsf/Pages/Paper+by+Martin+Ravallion/$File/MARTIN+RAVALLION.PDF] 

Ravallion, Martin (2001b) The Mystery of Vanishing Benefits: An Introduction to Impact Evaluation,” World Bank Economic Review 15 (1), 115-140
[http://www.worldbank.org/wbi/povertyanalysis/events/Korea_1102/ravallionthemysteryofthevanishing.pdf]

Ravallion M and G. Datt. (1999) When is Growth Pro-Poor? Evidence from the Diverse Experiences of India’s States, Mimeographed, the World Bank.
[http://econ.worldbank.org/docs/1016.pdf]

Kakwani N. and E. Pernia(1999) “What is Pro-poor Growth?” Asian Development Review vol. 18, no.1 [http://www.adb.org/Poverty/Forum/macroeconomic.htm]

Klasen, Stephan(2002) In Search of The Holy Grail: How to Achieve Pro-poor Growth?  (Paper presented at Annual Bank Conference on Development Economics on June, 2002, OSLO, NORWAY). [http://wbln0018.worldbank.org/eurvp/web.nsf/Pages/Paper+by+Razafindrakoto/$File/RAZAFINDRAKOTO.PDF].

International Development Association and International Monetary Fund (2002) “Poverty Reduction Strategy Papers Progress in Implementation.” 11 September.
[http://wbln0018.worldbank.org/DCS/devcom.nsf/(documentsattachmentsweb)/September2002EnglishDC20020016/$FILE/DC2002-0016(E)-PRSP.pdf]

World Bank (2000) The Quality of Growth, World Bank and Oxford University Press.

World Bank (2002) Globalization, Growth, And Poverty, Building an Inclusive World Economy, World Bank and Oxford University Press.

石川滋(2002) 「貧困削減か成長促進か:国際的な援助政策の見直しと途上国」『日本学士院紀要』第56巻2号、1月 [http://www.grips.ac.jp/forum/pdf01/hinkon.pdf]
(同論文の英語版は以下)
Ishikawa, Shigeru(2002) “Growth Promotion versus Poverty Reduction?World Bank Rethinking of Aid Policy and Implications for Developing Countries.GRIPS Development Forum Discussion Paper No. 3.

栗原充代、山形辰史(2002) 「開発戦略としてのPro-Poor Growth」『第13回国際開発学会・全国大会報告論文集』[http://www.grips.ac.jp/forum/jsid/kuri_yama.pdf]

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