特別報告
John Page世銀PRSP担当局長との意見交換
2002年7月15日東京にて、世銀東京事務所主催の「PRSPパブリックフォーラム」が開催され、来日中の世銀PRSP担当局長ジョン・ページ氏より、導入後2年半を経たPRSPへの今後の取組み方針等が紹介されました。コメンテーターとしてJBIC開発金融研究所の林次長とJICA企画評価部の富本次長、パネリストとして柳原拓殖大学教授、岡崎JBIC開発2部2班課長、そしてGRIPSより大野(泉)が参加しました。さらに翌16日には、柳原教授の「PRSPと日本の貢献」勉強会にページ局長を招き、よりインフォーマルな意見交換をおこないました。両日の局長の発言要旨、意見交換、当方の感想を以下にまとめてご報告します。
ページ局長の発言要旨
PRSP導入の背景
99年のPRSP導入にあたっては、政治的な動機が大きかった。とりわけ「援助疲れ」ムードが強かったドナー各国において、納税者に対し援助増額をアピールするために、開発を「人間味ある」ものにする必要があった(”humanizing” development)。他の導入理由としては、過去の反省にたつ途上国オーナーシップの重要性の認識、および貧困国におけるIMF・世銀間の連携強化のツールの模索などがあげられよう(世銀にとってはCDFをoperationalizeするツールとしての魅力もあった)。
ケルンサミットで合意された「拡大HIPCイニシャティブ」実現という実務的な緊急性もあり、PRSP導入は参加型でなくトップダウンで決定された。また3年のタイムフレームも、PFP(PRGFの前身)に代わる枠組みという発想で決められた。
PRSPの評価すべき点
参加型プロセスの普及、政府のアカウンタビリティ強化(各種ステークホールダーに対する説明責任)、政府とドナーの力関係の変化(各国の主体性尊重)への貢献。
貧困問題を経済政策の中心的アジェンダにすることに貢献。特に途上国において、財政担当省の関与をひきだすことに成功。
援助協調の促進。
今後の課題
国による参加型プロセスの浸透度合いのばらつきがある。これには参加型プロセスと公共支出への国民の要求増とのジレンマ、PRSPの質と準備する速さとのバランス等も含む。
各国の開発計画策定・政治的サイクルとPRSPプロセスとの整合性の不足(政権交代への対応も含む)。
戦略的内容の弱さ。特に、社会支出に偏重しており、持続可能な成長への長期的視点に立つ戦略が不足している(例えば、民間セクター開発、投資促進)点が指摘できる。マクロ経済政策や構造改革についても政策の列挙にとどまる。さらに政策の優先順位づけの難しさがある。
モニタリングと評価。
途上国自身の開発計画策定プロセスから乖離したPRSPが持続的でない点は、ページ局長も認識。大野などから、各国ごとに異なる開発計画システムや能力を踏まえて、PRSPの必要性の有無や形式も判断すべきではないかと指摘したところ、同氏も、既存の開発計画や予算システムとのリンク、各貧困国の制度能力などを反映した多様なアプローチの重要性を認めた。
関連してページ局長は、将来的には(next generation of PRSP)、各国が@マクロ経済政策との整合性、A貧困削減と成長(shared growth)のための政策措置や優先行動計画の提示、B参加型プロセスの実施を担保する文書を提示、などの条件が満たされれば、PRSPという定型的な文書の作成は要求しない可能性、あるいはPRSPの期間を各国のシステムに応じて2〜5年の幅で柔軟性をもたせることの可能性を示唆。
ページ局長は、成長戦略が貧困削減にとり重要な前提である点を強調。ただしその内容に関しては、成長プロセス、特に各国のコンテクストで成長を生み出し持続する方策についての検討が必要である。しかし現実は、”Pro-Poor Growth”について誰もが賛成するが、中身のコンセンサスすらない(同床異夢)という状況。
世銀東京事務所主催のパブリックフォーラムでは、石川滋一橋大学名誉教授から、各国の個性を尊重する一方で、政策・実務レベルでPRSPを進めるためには、中間レベルでの途上国の分類化も有用ではないかとの指摘があった(例:貯蓄率の高低を基準にするなど)。この点について翌日、大野より再び照会したところ、ページ局長は貧困国分類の目安として、@既存の開発計画策定システム、A参加型プロセスの経験・歴史、B経済的特性(資源国かどうかなど)、C制度能力、D社会公正(分配構造)、などが基準となるのではないかとの指摘があった。
当方所感
PRSPは、HIPC対応や援助増額を念頭においたドナー側の政治的意図がからみ、戦略性や実務的側面からの十分な検討を経ずに導入されたとの印象を強くもった。
ページ局長自身は、成長戦略への配慮、各途上国の既存システムに応じたPRSPの形式模索、調和化手続きの選択的適用などにおいて、多様性を認める柔軟な方向性を示唆した。しかしながら、彼の見解が現場レベル、世銀トップマネージメント、そして主要ドナー間でどの程度共有されているのかは不明である。
本年4月の合同開発委員会に提出された世銀・IMFによる中間レビュー報告はむしろ網羅的で、PRSPの将来について、ページ局長が述べたような問題意識を踏まえた抜本的な改善案が提示されなかったのは残念。
報告:大野泉