韓国・OECD/DAC共催
「貧困削減に向けた国際的取組みと韓国の
ODAの役割」
 

Korea-OECD/DAC Conference
International Efforts to Eradicate Poverty and Role of Korea's ODA

20031126
開発フォーラム(大野泉)

去る11月5日にソウルにて韓国外務省(Ministry of Foreign Affairs and Trade)とOECD/DACの共催により「貧困削減に向けた国際的取組みと韓国のODAの役割」というテーマで国際シンポジウムが行われました。韓国は1996年12月にOECDに加盟しましたが、まだDACの正式メンバーではありません。本シンポジウムは、近い将来にDACメンバーをめざす韓国政府の提案で実現しました。海外からはDAC議長のリチャード・マニング氏を始めとして、UNDPや(新興ドナー(”emerging donor”)として)ギリシャ外務省代表などが参加しました。GRIPS開発フォーラムの大野泉もパネリストとして参加しました。韓国側からは政府・援助機関関係者(外務省、KOICA、EDCF./EXIM等)、研究者、NGOsから発表が行われるとともに、援助関係者や学生を含め約200名が参加し活発な討議がなされました。

本シンポジウムは2部に分かれ、第1部では途上国の貧困問題に対する取組みについて韓国の経験を含む包括的イシューを、第2部では比較優位に基づく韓国ODAのユニークな貢献のあり方について議論が行われました。主なポイントは以下のとおり。(アジェンダはこちら)

オープニング
  • 外務省・Doo-yun Huwang貿易担当大臣:
    韓国政府としてODA拡大に努め、キャッチアップに成功した韓国のユニークな経験を生かした貧困削減への取組みを国際的に提示していきたい。

  • DAC・Richard Manning議長:
    DACは今後多様化していく方向にある(EU新規加盟国の10カ国、アジアにおける台湾、韓国、マレーシア、タイなどの新興ドナーの台頭)。加えて、最近のTICAD(III)で共通認識となった南々協力の重要性も踏まえ、韓国の経験は(マーシャル・プランを含む)「援助の有効性」を示す具体例として重要であり、DACとしては韓国との関係強化に努めていきたい。

  • 在韓日本大使館・猪俣弘司公使(古田外務省経済協力局長・代読):
    日本が1960年にDAC(当時はDAG)加盟した際には、世銀融資をうけていた。日本としては、自らが経済成長を通じて開発をとげた経験、援助を通じてアジア中心に人材育成とインフラ支援に注力してきた経験をふまえ、欧州ドナー中心のDACの中で多様な見解を提示していきたい。その意味で韓国の役割にも高い期待をもっている。

第1部「途上国の貧困問題に対する取組みと韓国の経験」
  • DAC・Hunger McGill氏(援助審査・評価課長)から、DAC貧困削減ガイドラインの説明があり、続いてUNDP・Jan Vandemoortele氏(プリンシパル・アドバイザー、社会経済開発グループ・リーダー)から、1990年代以降に貧困削減のペース鈍化とMDGs達成にいたる多くのチャレンジを踏まえ、従来のネオリベラル的政策の功罪を謙虚にうけとめて”pro-poor growth”施策を考案する必要があるとの発表があった(具体的には、公共投資を含む政府のアクティブな役割、累進的な税制度、規制緩和や貿易・金融自由化への慎重な対応などの示唆あり)。

  • 韓国外務省・国際経済局長のRae-kwon Chung氏(日本の外務省経済協力局長に相当)から、@韓国のODAは2003年予算で3億ドル弱(対GDP比で6%、北朝鮮への援助は含まない)と規模は小さいが徐々に拡大していく用意がある、A途上国の貧困問題の課題は大きく、韓国としては自らの経済発展の経験をふまえ経済成長・所得創出・農村開発(特に「セマウル運動」)をキーワードとして韓国ODAのモデル作りに取組んでいきたい、B近年の国際社会の論調は途上国のガバナンス・人権・地方分権に偏重しすぎで、韓国としては経済開発を通じた貧困削減というプラクティカルなアプローチを重視したい、C今後、KOICA(韓国版JICA、1991年設立)を通じて約500名の青年ボランティアを途上国の農村に派遣し、所得創出事業を支援していく方針である、との発表があった。(プレゼン資料、wordファイル、63 KB)

  • 続くパネル・ディスカッションにおいて、@Il-ha Yi氏(*国際協力のための韓国NGO評議会会長/日本のJANICに相当)からは、韓国ODAにおけるNGOの役割、所得創出事業の重要性には賛同するが「セマウル運動」は権威主義的体制のもとで実施されたという特殊事実を認識すべきであるとの指摘があったほか、ASung-soo Lim氏(EDCF、韓国輸出入銀行内に設置/JBICのODA部門に相当)から経済成長と貧困削減において政府の役割やインフラ整備は重要で、EDCFの取組みもこの視点に沿っておいること、またODA拡大にあたっては国民の理解が必要であるとの説明があった。また、B大野泉からも、韓国は日本とともに開発プロセスを体験した数少ない援助国であり、直接的ターゲット策に限らず広範な成長を通じた貧困削減を考え、さらに成長戦略の中身を議論していくなど、両国が協力してDACに多様な視点を提供していく意義は大きいこと、また、韓国には新興ドナーとして、途上国が直面しているグローバル化と開発の課題を含め重要な貢献を期待する旨コメントした。(プレゼン資料、pptファイル、144KB)

第2部「韓国ODAの比較優位:異なるアプローチ?」
  • DAC・Richard Manning議長から、DACの概要・活動やドナーとして留意すべき点について説明があった。特に、”good performers”のドナーの特徴として、途上国オーナーシップの尊重、当該国の国家・セクター戦略の枠内での支援、貧困削減支援への取組み、調和化とアラインメント、チーム・プレーヤーとしての協働などの指摘があった。(プレゼン資料、pptファイル68KB)

  • Soon-won Kwon (Professor, Duksung University)から、1970年代に推進された「セマウル運動」(New Community Movement/NCM、or Saemaul Undong)の概要の説明とともに、同運動は社会教育的要素が強かったが、次第に農村開発支援も重視されるようになり所得増加を通じて韓国の貧困削減に貢献したとの発表があった。他方、中央集権的色彩が強かった点は否めず、有効性を高めるためにはボトムアップ・アプローチによる補完が望ましかったとの見解も示された。(プレゼン資料、pptファイル236KB)

  • また、KOICAのSang-tae Kim理事から、被援助国及び援助国としての韓国の経験の紹介があった。まず被援助国として、科学技術導入のためにUSAID支援をうけて設置されたKIST(Korea Institute of Science and Technology)に対して韓国関係者が大統領の強いリーダーシップのもとでオーナーシップをもって取組んだ経験(例えば、韓国側予算の重点配分、優秀な科学者・研究者に対する給与面の配慮、外国人専門家を選定する際の韓国側の意志反映)が紹介された。また、ドナーの経験としては、ベトナムにおける2事業(VIKOTECH、証券取引所の設置支援)が示されたが、特にVIKOTECHはKISTモデルをめざしたが、リーダーシップのコミットメントが必ずしも十分でなく、開発ニーズとのミスマッチ(時期早尚)もあったとの教訓が示された。(なお、ベトナムは韓国のODA供与先トップ、2001年の全供与額の22%を占めている。)(プレゼン資料、wordファイル195KB)

  • 続くパネル・ディスカッションにおいて、@ギリシャ外務省の国際協力局長(Demetri Dollis氏)から、新興ドナーであるギリシャの援助への取組みの紹介、及び韓国に対する期待が表明されたほか、AHye-kyung Lee女史(Professor, Yonsei University)から「セマウル運動」をモデル化する前に、長所・短所を検討して(例えば、同運動はトップ・ダウンで行われたが、既存社会やコミュニティを重視した代替的アプローチの可能性)、かつ社会投資基金などの最近の国際的経験からも学ぶ必要性があること、また、韓国国民は経済危機のショックを未だ引きずっており、ODA拡大にあたっては援助哲学・重点分野・援助方法を国民に対し明確に説明することが重要との指摘があった。加えて、BSang-kyun Kim氏(Professor, Seoul National University)から、経済成長に偏重した米国や日本に追従することなく、韓国が重視してきた人間開発や人材育成にも配慮した援助アプローチの可能性を積極的に考える意義あり、とのコメントがあった。

質疑応答
  • 所得創出事業といった小規模の個別事業を実施する際に、マクロ経済や政策全般との関係といった広い視野にたって、取組みを考える必要があるのではないか。

  • 「セマウル運動」は1970年代の韓国では大きく宣伝されたが、教育・精神面を強調する傾向にあった。同運動を韓国ODAの対外的モデルとして示す場合には、どのようなコンテクストで提示するのが妥当かを十分に考える必要がある。

  • 「セマウル運動」だけになぜ焦点をあてるのか。援助アプローチとして、他のオールタナティブ(例えば、人間開発)も検討すべきではないか。「セマウル運動」と農村の所得向上との因果関係は、(Soon-won Kwon氏の)配布資料には十分示されていない。

  • 「セマウル運動」の長所・短所をよく調べる必要あり。同運動には、産業政策・労働市場・農業・社会保護・貧困削減などの多様な側面があり、どの側面に焦点をあてるのが適切なのか、本日の議論では明らかになっていない。他に「韓国らしい」モデルがないという理由だけから、「セマウル運動」を韓国ODAのモデルとして扱うのは拙速ではないか。

  • 本日のシンポジウムは貧困削減がテーマだが、現実の国際社会では困難な問題が増幅している。現実的な目標として、貧困を「撲滅」するよりも、人類の苦悩を増やさないことを目指すほうが適切ではないか。

  • 韓国では南北統一の問題は再統一省(Ministry of Reunification)で対応している。北朝鮮への支援がODAよりもはるかに金額が大きい点は認識しておく必要がある。

外務省・国際経済局長Rae-kwon Chung氏の返答
  • 「セマウル運動」の教育・精神運動的な側面が必ずしも成功しなかった点は認識している。モデル化する場合には各途上国のコンテクストを考慮することが重要で、韓国政府としては特に「所得創出事業(Income-Generating Projects)」という側面を強調していきたい。

  • 韓国政府としては、インフラ支援、農村での指導者育成、青年ボランティアによる雇用創出事業を組み合わせて、推進していきたい。

  • 今回シンポジウムで示した方向性についての進捗を、来年報告したい。

所感
  • 新興ドナーとしての韓国政府が貧困削減への取り組みとして、自らの開発経験をふまえて経済成長、さらには農村部の雇用創出への支援を打ち出した点は、日本の経験とも共通する部分もあり評価できる。ある意味では、韓国は日本以上に、ガバナンスや経済成長に対する考えを明確に持っており、日本としても、DACに限らず今後、様々な場で多様な視点から開発アプローチを提起するパートナーとしてつきあっていくことは重要と考える。

  • 同時に、韓国の経協関係者にあっては、PRSPやセクター・ワイド・アプローチなどの政策枠組を重視する昨今の国際開発アプローチへのエクスポージャーは少ないとの印象をうけた。政策全般への意識は薄く、対外発信の際に、自国の特定の開発経験をまずモデル化していこう、という傾向がみられる。

  • さらに、多くの有識者から指摘があったように、「セマウル運動」自体の評価は韓国内でも見解が分かれており、同運動のモデル化にあたっては、抽出すべきメッセージ・対象事業を明確にすることが必要である。

  • 最後に、韓国の経済協力システムは日本と酷似しているが(KOICAによる技術協力/外務省主管、EDCF/EXIM-Koreaによる譲許的融資/財務省主管)、同国の援助機関の在外事務所数は少なく、現場でのプレゼンスは日本に比べてまだ限られている。日本としては、国別アプローチや政策対話の重要性など、現在、日本が取組んでいる課題についても真摯に早い段階から韓国の援助関係者と共有していくことが望ましい。

以上