特別報告
DFIDアジア事務所長会議でのセミナー
本年の英国DFIDのアジア事務所長会議が東京で開催され(2003年4月7日〜10日)、その1セッションとして、先方依頼によりGRIPS開発フォーラムの大野健一が発表しました(意見交換には大野泉も参加)。先方出席者は、アジア各国のDFID事務所長に加え、DFID本部からMartin
Dinham (Director, Asia and Pacific), Jeremy Clark(Head, Regional Policy Asia
Directorate), Mark Lowcock (Director, Finance and Corporate Performance)、および在日英国大使館員を含む15名程度。
発表テーマは"Pro-poor Growth and Aid Coordination from the
Japanese Perspective"(*PPT資料参照)、当方が取り上げた
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Pro-poor growthの概念
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東アジアの開発経験
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援助手続き・モダリティ調和化
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日本の援助の方向性とDFIDとの連携可能性
の各トピックについて強い関心が示され活発な意見交換が行われました。また成長戦略やインフラの貧困削減インパクトといったテーマを中心に、GRIPSを含む日本関係者との連携を強化していきたいとの発言もありました。以下、意見交換のポイントを紹介します。
席上で出されたコメントと当方の回答
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汚職・ガバナンス
【先方】
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高成長を持続した東アジア諸国において、成長プロセスの始動時点では汚職が少なく透明性の高い政府が存在していたわけでなかったとの指摘は興味深い。タイの開発経験もこれを示唆しているが、他方、政治的にこれを認めるのは不適切かもしれない。開発のどの段階で汚職対策に取組めばよいのか、他の政策とのシークエンシングをどう考えるか、そして、この問題に関する東アジアの経験はどの程度一般化できるか、について関心がある。
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インドネシアの場合には、より早い段階から透明性や汚職の問題に取組んでいたら同国の開発はよりサステイナブルになっていたとの見解もあるが、如何。また、バングラデシュでも汚職は深刻であり、完璧でないとしても“good
enough government”との境界線をどのように引けばよいか。
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歴史的には、東アジアにおいても、普通選挙は成長プロセスの始動に先立って実施されている。従って、民主化・透明性確保は、成長にとっての前提となり得ると言えるのではないか。
【当方】
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東アジア諸国のうちインドネシアとフィリピンは雁行形態からの落伍者といわれるが、他のASEANに比べて両国の遅れが政府の透明性の欠如に起因するのかは検討の余地がある。どうもそれだけとは思われない。中国やベトナムは高成長だが汚職はひどい。
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汚職と公務員給与の問題とは切り離せない。給与水準が低い限り、そしてドナー援助に依存する限り、根本的解決は困難ではないか。最終的には、経済全体の成長・財政基盤の強化により、公務員も一定の生活水準を享受できるように成長戦略を真剣に考えていくことが重要だと思う。
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独裁国家にも、@資源動員・配分を適切に行う能力のある政府、Aそういう能力のない政府、と2通りがある。成長を起こすための最低条件に限って言えば、人権・市民参加・透明性といった問題より、政府の資源動員能力の方が重要である。つまるところ、欧米と日本(東アジア)ではガバナンスのselectivityが異なるように思う。成長を始動するには、経済政策の立案・実施、それに伴う資源動員・配分において一貫した統治システムがあることが必須。東アジアの「開発独裁」はそういった体制を備えていた。
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東アジアの「開発独裁」では、経済パフォーマンスを示すことが政権の正統性の基盤となっていた。雁行形態の列に加わり同地域の他国と競争しながら離陸することが、国民の支持獲得には必須だった。そのための体制整備が図られた。
成長戦略
【先方】
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東アジア諸国の成功の秘訣は、(多くの開発課題に直面しながらも)成長プロセス始動に必須な条件整備に集中的に取組んだ点にあると理解する。東アジアの場合、何故、どのようにして最重要課題を特定化しその克服に集中できたのか(“how
to get focused on the ‘essentials’ to create growth”)。
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DFIDも貧困削減における成長の重要性は認識しており、いかにPRSPを広範にしていくかが課題と考えている。そもそもPRSP自体は成長シナリオを織り込み済だが、過去のPRSPは成長予測が楽観的すぎた点はよく指摘される通り。従って、こういった問題を検討する際に日本との連携を期待したい。
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成長を考える中身が日本と欧米で違うという指摘があったが、アフリカでもその構図は見られる。私が最近まで駐在していたウガンダでは、PRSPにおいて政府は日本型成長戦略を強化したい意向を示し、逆にドナーは自由化・民営化を押し、対立していた。ウガンダ政府はドナーよりも一歩踏み込んで成長促進や産業開発における政府の役割を検討したいと言っており、本日の東アジアの開発経験、成長を通じた貧困削減の重要性は興味深く、かつ共感できる。これからも是非意見交換を続けたい。(*参考:DFIDベトナム事務所は(引続きバンコク地域事務所の管轄下にあるが)今般格上げされ、4月末からMs.
Bella Bird新ベトナム事務所長が赴任予定。彼女の直前の勤務はウガンダ事務所長。)
【当方】
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PRSPにおいて成長戦略を重視していきたいというDFIDの方針を歓迎したい。初期のPRSPは特にアフリカでは「拡大HIPCイニシャティブ」救済資金の使途をいかにpro-poorにするか、という視点が強く反映されたため、成長部分の検討が軽視された傾向がある。そういった反省を踏まえ、さらにアジアの場合は債務救済と独立してPRSPを策定できるので、当然ながら成長戦略が重要になってくると考える。
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PRSPで公的資金の配分プライオリティを記す際に、社会セクターの場合は大半のアクションが公的資金を伴うが、成長促進策の場合には官民の役割を考慮する必要があるので必ずしも全てのアクションが公的支出にはつながらない。従って、戦略・政策の中身を深く検討する必要がある点を留意すべき。
ODA大綱
【先方】
【当方】
援助手続き調和化・モダリティ
【先方】
【当方】
その他
【先方】
【当方】
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土地分配に関し、確かに、日本や台湾は農地改革を成功させたし、中国やベトナムなど共産主義国では土地所有不平等問題はまず起きないという特殊事情がある。南アジアと東アジアでは初期条件や実施した政策が異なることは事実だが、(前述のとおり)決定的に重要なのは、具体的な施策のあれこれではなく、政府が経済政策・資源動員における一般能力(the
issue of general policy capability)をもっているかどうかではないか、と考える。
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東アジアは文化・宗教的に実に多様であり、文化自体が開発の決定要因となるとは思わない。儒教が成長の原因という論もあまり納得しない。ただし、すでに述べた一般政策能力の有無という意味では、韓国・台湾などは官民ともに知識移転において「核心」を瞬時に把握する能力を備えていたように思うが、ベトナムやインドネシアの場合は必ずしもそれがないように思う。これを文化というならば、そういう意味での文化差異は開発の成否に決定的に重要である。
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3Jの協力については我々自身も苦労している。究極的には日本の援助組織の統一が必要だろうが、今のところはそうした政治的動きはみられない。しかし制度改革を待たずとも実質でできることはたくさんあるので、我々はそのカタリストとなるべく動いている。また3Jがどのくらい協力するかは国や担当者によって違うので、うまくいきそうなところを選んで集中的に盛り立てていくようにしている。問題は、よい担当官が異動したあとの協力体制をどう担保するか。日本の中でグッドプラクティスを制度化する努力が必要と考える。
以上 |
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