OECD/DACの開発関係者との意見交換
(パリ、2003年1月22日〜24日)
GRIPS開発フォーラムは、アフリカ開発および欧州ドナーとの関連におけるOECD/DACの重要性に鑑み、パリの開発関係者と意見交換を行った。主な会合は以下の通り(なお本フォーラムは2002年11月にもパリを訪問調査している)。
在パリ邦人経済協力関係者とのランチミーティング
DAC関係者向けセミナー(英語)
登OECD日本政府代表部大使との食事会
近藤OECD事務次長との食事会
松永OECD日本代表部参事官(DAC班担当)との意見交換
深作OECD開発センター課長との意見交換
JBICパリ事務所との意見交換(飯島首席駐在員、橘田アフリカ担当外事審議役など)
このうち最初の2つについて紹介する。
1.邦人向けBBL(於:OECD日本政府代表部)
大野健一より、翌日のDAC関係者向け英語セミナーの骨子および本企画の動機を説明。さらに、邦人の経協関係者が協力して、当地をパリの特徴を生かした情報発信ハブにできないか、という問題提起を行った。出席者は約20名。
問題提起(大野):
日本がもつ開発のイメージと、欧州ドナー主導の現行開発戦略にギャップあり。日本は開発をキャッチアップ・プロセスととらえるが、欧州ドナーにとっては、サブサハラ・アフリカが発展し(韓国・中国のように)将来我々の挑戦者となりうることなど全くの想像外のことではないか。開発はチャリティでない、というのが日本の常識だ(自助努力、成長の重視)。
Pro-poor Growthはよく分からない概念。平等とインセンティブをどう組み合わせるのか。最初のgrowthインパクトは必ずしもPro-poorでなくてもよい。Pro-poorとなるような補完的な措置がとられているか、ということが重要。またPro-poor施策のチャネルは多様であり、全体メニューを見る必要あり。現在の議論は、貧困層への直接ターゲット策が中心で狭すぎる。
東アジアの発展要因は、生産ネットワークとして各国が有機的で動的な連関をもつこと。近隣国を見渡しながら、自国は電子組立にどう食い込むかといった発想で産業化を進めている。この視点から開発を考えた時に、グッド・ガバナンスを再定義する必要があるのではないか(Dani Rodrick、下村恭民も同意見)。Pro-poor施策ではなく、成長に必要なガバナンスは、現在主張されているメニューほど広範囲である必要はない。どうしても必要なのは経済に洞察力を持つ有能なリーダーと彼(彼女)を支えるしっかりした行政機構だ。
ベトナムCPRGS補足・拡大作業について。インフラは成長戦略の一部にすぎないが、ハノイでは世銀やADBとも組めるという理由から切り口をインフラに絞り、日本の提案によりCPRGSにインフラの重要性を明記することを2002年12月のCG会合で合意。欧州アジェンダの土俵の中に入って、開発戦略を日本が積極関与しながら改善していくという姿勢は評価できる。他方、欧州との「付き合い」は4割程度にし、残る6割で日本独自のアプローチを深める努力を忘れてはならない。
今後、世界で成長の重要性が認知されるにつれ、成長の「中身」について日本がリードする必要あり。グローバル化時代の産業支援への日本の知的貢献は重要。アイデアはnon-fungibleであり、日・欧・米がたとえば貿易政策への知的支援を行った場合、中身は異なる可能性が大きい。途上国がオーナーシップをもって多様な助言から自国のとるべき政策を選択していけることが重要ではないか。
OECDはEUクラブ。従って、日本の対応としては「選択と集中」が必要。米国のOECDに対するアプローチを1つの参考にすべき(自国にとって重要な問題のみうるさく口を出し、他は距離感をおいて対応)。
かかる観点から、在パリの邦人経済協力関係者がパリの特徴を生かした発信活動をイニシエートできないか。具体的には@東京への発信、Aアフリカへの発信、BDACでのアジアの開発経験や日本の援助経験の発信、を同時に行うハブとなることを期待する。東京が司令塔としてわが国の援助原則を決めることが本筋だが、日本の体制は簡単には変わらないだろうから、”Shadow Cabinet” を作る位のつもりで、パリの有志が協力して戦略・政策の中身を先行させて準備していくことが重要ではないか。
席上で出された意見の概要:
パリでの経協関係者のネットワーク活動については、単に日本のODAを嘆くのではダメで、建設的な場にする必要あり。例えば、アフリカ支援にテーマを絞って、東京に発信することも一案か。
(GRIPS側コメント)アフリカ支援にテーマを絞った勉強会はよい。例えば、TICADIIIへのインプットという名目で時限的に活動するのも一案。実際、ワシントンDC開発フォーラムは、ODA改革懇談会へのインプットという短期間のマンデートで有志が始めたものである。
当地でアフリカを担当する者として、若い世代に声をかけて勉強会を始めようかと思っている。何かしないことには始まらないので、サミットやTICADIIIを名目として、活動を起こしていきたい(注:本会合後、この構想を具体化するための動きが始まった)。アフリカ側から動かせないかという意識に基づき現地訪問したり、日本以外のチャネル(例えば、UNCTADやOECD)の発掘にも努めているところ。
ベトナムにおける日本の積極的な取組みに関しては、ベトナム政府自身が日本の味方というポジティブな要素がある点は否めない。またワシントンでは相手が世銀・IMFというマルチだが、パリは相手がバイのドナーという違いがある。パリの日本関係者は、欧州ドナーが強い影響力を行使する「どうにもならない流れ」の中でどうするか、悶々としている状況。OECDは極めてヨーロッパ的組織なので、ドナー自体も固定化している。Emerging donors(韓国など)の取り込みも戦略として考えたい。
Pro-poor growthという概念には当初違和感があったが、実態としては、すべての単語につける接頭辞としてpro-poorが使われているとの印象をもつ。現在日本は”Inclusive Globalization”という概念をDACでプッシュしているが、pro-poorがついても、”growth”や”globalization”という語が含まれているだけでも有難いというのが実感。
(GRIPS側コメント)そういう面もあるが、一方ではPro-poor growthが目的と手段を混同させながら、すべての支援はpoorに直接裨益しなければならないという主張をのせるときもある。そうなるとそう簡単に見逃すわけにはいかない。
西欧と日本の開発アプローチを二分論的に対比しすぎているのではないか。いまや無条件の民営化を主張するドナーはいないし、米国は、free tradeというよりは、free and fair tradeへと主張が変化している。
それに関しては、西欧ドナーのダブルスタンダードがあるのではないか。自国では民営化・自由貿易に付帯条件をつけながら、途上国に対しては無条件に近いものを要求する。理論はさておき、途上国の現場では急速な民営化・自由化は現実の要求となっている。
貿易と投資をリンクさせながら、「選択と集中」する方法が有効ではないか。例えば、アフリカの中で希望のもてる国(アフリカの中所得国)をターゲットした研究・セミナーの実施は如何。また、アフリカにこだわらず、中近東や南アジアのような日本にとって戦略的に重要な国も視野に入れることも一案。
農業政策の立場から貿易に関与しているが、先進国の農産物市場開放がどの程度途上国開発にとって役立つのかを定量的に示した分析はあるのか。
(GRIPS側コメント)途上国にとってのインパクトよりも、日本が自らの経済構造をダイナミックに転換するためにはどうしたらよいか、といった発想からのビジョンが必要。
2.DAC関係者向けセミナー(於:OECD本部第4会議室)
大野健一より"Growth and Competitiveness from the East Asian Perspective"というテーマで発表し、意見交換を行った(PPT資料参照)。先方出席者はMichael Roeskau(DAC事務局長)、Herwig Scholog事務局次長をはじめとするDAC事務局スタッフおよび各国代表部関係者、計35〜40名程度。発表内容は、上記の邦人向け問題提起とほぼ同じ(最後の2点は除く)。
席上で出されたコメント
(事務局長)Pro-poor growthは人々が成長に参加する方法と考えている(a way to participate in growth)。成長に参加するためには、教育や保健への投資は重要。従って大野が言うほど日本の考えと根本的な違いがあるとは思わない。東アジア経験のアフリカへの移植可能性に関心がある。今年はDACで対日援助審査(ベトナム、タンザニア)を予定しているので、こういった観点からも、日本のアプローチがこれらの国にどのように適用されているのか大変興味深い。
(カナダ)こうした基本的な政策議論こそDACで行うことが重要。これまで政策議論はあまり行われていなかった。プレゼンにあったRevised Technocratic Modelはカナダの経験とも通じるものがある。(Supplementary policiesと表現されていたが)自分は社会開発も重要と考えている。ただし、成長促進策との適切なミックスが必要という指摘は賛同。他方、賛成しかねる点もある。東アジアは文化的には他地域とは異なる。東アジアでは古くから「政府」という機構の存在があった(There is “a sense of government” that existed for long.)。また、中国人やインド人は商業的才覚があり、実際に、アフリカを含む世界各国に移住し活躍している。
(日本)東アジア経験に基づき、基本的な問題提起をしてくれたことを評価。現在のDAC下部機構改革をめぐる議論では、援助協調が中心で戦略の検討を下位に位置づける動きもあるが、こういった本質的な議論こそDACが重点的に取組むべきではないか。世銀のウォルフェンソン総裁が最近来日した時に、世銀が先週発表した報告書(「イノベーションと東アジア」)との関連で東アジアの急速な成長は「砂上の楼閣」であり「開発独裁」の限界を示したとの発言があったと聞くが、これについての見解を聞きたい。またDACの将来的方向について、どう考えるか。
(オランダ)アカウンタビリティ、透明性は非常に重要と考える。これらが成長にとってそれほど重要でないとの指摘には納得できない。開発国家と単なる独裁の線引きをどうするのか。これは非常にデリケートな境界である。「援助は文化である」とのベトナム高官の発言が紹介されたが、経済運営も文化だというのか?
(日本)東アジアは最初から条件が整っていたとの意見が先にあったが、必ずしもそうでない。例えばマレイシアでは民族問題があり、社会格差を是正するためにブミプトラ政策が導入された。また香港では労働規律の欠如が問題となっていた。
(DAC事務局)「強い政府」という表現はcontroversialである。Democracyは急成長を遂げるのに不適切な政治システムということか。では、どうすれば適切な指導者(リーダー)を見つけられるのか。
(DAC事務局)プレゼンの指摘のように、途上国にとって貿易を通じた成長促進が重要というのであれば、日本が現在採用している貿易産業政策に一貫性はあるとお考えか。
(DAC事務局)Regulatory frameworkについて質問したい。もし東アジアの成長戦略の中身が他地域と異なるのであれば、regulatory frameworkの点で具体的にどのような違いがあるか知りたい。例えば、セクターや個別産業レベルの政策面で具体的にどういった違いがあるのか。
(DAC研究者)刺激的(stimulating)なプレゼンだった。他方、東アジアの開発の成功理由として、教育や保健の重要性を指摘する人々も多い。この点についての見解は如何。また、絶対的貧困を削減することも重要と考えるが、この点の見解も聞きたい。
大野の選択的回答:
東アジア経験のアフリカ等への移植可能性についてのご質問があったが、これに関するスライドページは実は削除した。自分は日本政府に対し、アフリカ支援の基本政策を決めるよう期待し働きかけているが、そのスタンスは固まっていないのが実情。この状況で移植可能性についての突っ込んだ提案を皆さんに披露するのは難しい。
アカウンタビリティ、透明性、民主主義等は最終ゴールとしては重要であり、不要というつもりはない。ただし途上国は制度能力が弱い。成長をキックスタートさせる初期時点で全条件を要求する必要があるのか、という問題提起をしたもの。重要な問題はゴールよりも経路のデザインにある。
単なる独裁でない「強い政府」をどのようにして作りだせるか、それはドナーの能力をこえるから容易な回答はないだろう。コンディショナリティを突きつけるやり方ではだめであり、途上国自身の情熱とプライドをかきたてるアプローチがよい。私は、demonstration effect of excellenceと呼ぶ心理的な近隣波及効果に期待したい。隣国で成果があがっているときにまねをしないでいられる国はない。東アジアのキャッチアップも、先輩国をめざして必死の努力を重ねた結果ではないか。そういう成功は地域的に伝染する。
世銀の一連の東アジアに関するレポートは楽観から悲観に振れが大きすぎる。最近のウォルフェンソンの見解は悲観的すぎる。東アジアの政府・企業の自己評価のほうがまだ安定的である。「東アジアの奇跡」報告の頃は、東アジアはあの報告ほど楽観的ではなかった。
DACが果たすべき役割についてのご質問だが、我々の今回の訪問はそれを調べるためのものである。私はDACに援助調和化だけでなく戦略的イシューをもっと考えてほしいが、そのような動きは歓迎されるのか、可能なのか。それが知りたい。