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速報版<2006年11月14日>

GRIPSセミナー「アフリカへのFDI促進――東アジアの経験の適用可能性」

日時:

2006年11月9日(木)13:30〜16:30

場所:

政策研究大学院大学(GRIPS)会議室3C

講演者:

Mr. J. Jegathesan
Senior Investment Adviser, Consultant to JICA and the Government of Zambia and the former Director General of the Malaysian Industrial Development Authority (MIDA),
CEO-JJ International Consultants

コメンテーター:

山本愛一郎氏
JICAアフリカ部調査役

>>>Jegathesans氏の経歴<<<

  • 元マレーシア工業開発庁(MIDA)副長官。1999年にMIDA退職後はJJ International Consultantsを設立し(CEO)、投資促進アドバイザーとして活躍中。

  • アフリカへの南南協力に精力的に取組んでおり、UNDP、UNCTAD、UNIDO等とも協力経験あり。特に近年はJICAコンサルタントとして、ザンビア政府に投資促進策を助言・実施支援(下記の“Triangle of Hope” プログラム)。大統領を含め厚い信望を得ている。

  • MIDA在職時にTICADにも参加。

講演概要(by Jegathesan氏)

Strategic Action Initiatives for Economic Development: Strategies for Investment Promotion in Developing Nations
配布資料 (pdfファイル、2.3MB)

  • マレーシアの経験に基づき、アフリカの成長促進のための戦略的イニシャティブを“Triangle of Hope”と“Quadrant Strategy”という概念に整理、マレーシアが1969年の人種暴動の危機を乗り越えて、一次産品に依存していた経済を貿易・FDIを通じた工業化に転換した経験を具体的に説明。また現在、同イニシャティブの実現に向けてJICAが南南協力を通じてザンビア政府に協力している活動を紹介。

  • 援助依存から脱するためには、民間セクターの成長、雇用創出、民生向上、政府の税収基盤の強化という好循環を作る必要あり。貧困撲滅よりも、まず民間セクターのダイナミズムを促進することが重要。そのためには、各国のComparative Advantage(資源賦存、地理環境等に基づく)をCompetitive Advantageに変える必要あり。

  • “Triangle of Hope”プログラム(→PPTスライド9〜15(pp.5-8)を参照)
    上記を達成するためには政治家・行政官・民間企業の3つの力(force)が連携し、@political will & integrity, Acivil service efficiency & integrity, Bprivate sector dynamism & integrityを発揮することが不可欠(staticな要件)。リーダーは戦略的ビジョンを提示し、全ての関係者がビジョンを共有し、その実現のために同じ方向をみて行動していくことが必要(なお、リーダーは大統領・首相といった最高指導者のみならず、閣僚、政府幹部、国会議員も含むもの)。

  • “Quadrant Strategy”(→PPTスライド16(p.8)を参照)
    戦略的ビジョンに基づき投資促進を実効的に実現するためには、@競争上の優位(Competitive Advantage)に基づく事業(Projects)、A環境整備(Environment)、B推進(Promotion)、C実施(Implementation)という4つの要素が不可欠(dynamicな要件)。

  • マレーシアの経験:
    1957年に英国から独立後1970年頃までは一次産品輸出に依存、その後1980年代に工業化に成功。国内の人種暴動(1969年)の危機を乗り越えるために、政府は10年間の長期ビジョン(Outline Perspective Plan: OPP)と新経済政策(New Economic Policy: NEP)を策定し実施に移した。OPPとNEPがめざしたのは経済成長の実現を通じて所得と機会を国民に分配すること(貧困の分配ではない)。すなわち経済全体のパイを拡大し、所得と機会を再配分することにより、いかなる民族の利益を阻害することなく国全体としての発展を目指し、国民統合を実現すること。MIDA(1967年設立)は、この実施の使命を担った。

    マレーシアが工業化・投資促進に成功した公式は、E+C4+O=P(→PPTスライド24〜29(pp.12-15))。E(Environment – 10のチェックポイント), C4(Costs of doing business, Convenience provided at all stages, Capability of infrastructure and government machinery, Concessions), O(Opportunity)があってこそ、P(Profits for Enterprises and Prosperity for Nation)が結実する。
     

  • アフリカの経済開発のためのStrategic Action Initiativeとは?:
    サクセスストーリーを作る必要性。但し、経済学的にもアフリカの「成功」モデルはまだない(「成功」した東アジア諸国とは地理的条件等において違いあり)。援助する側(ドナー)はアフリカに即した3種類のモデルを作り、各モデルで国を絞って、経済開発プログラムの策定・実現を支援すべき。具体的には、@内陸国、A人口規模が大きい沿岸国、B島嶼国。

  • JICAの南南協力:
    JICAは3種類のモデルから内陸国ザンビアを選び、マレーシア・ザンビアの南南協力として実施している(2005年3月にJICAとザンビア政府で”Triangle of Hope” プログラムの MOU署名、Jegathesan氏がJICAコンサルタントとして協力中)。ザンビア政府の強いオーナーシップのもとで、以下の活動が展開中。

    強い政治コミットメントの存在:ザ側は、大統領の支持のもとに同プログラムを担うPresidential Steering Committee(chaired by Deputy Secretary to the Cabinet)を設置。Jegathesan氏は同Committeeおよび議会にもブリーフ。

    “Quadrant Strategy”を実現するために、官民連携による12のタスクフォースを設置(農業、綿産業、人材育成、保健医療、ICT、観光、金融、中小企業育成等)、うち8つのタスクフォースの提言は内閣で承認された。残り4つのタスクフォースは今後承認される見込み。

    現在、タスクフォースの提言に基づいて、投資促進のための具体的なプロジェクト・プロファイル(Projects)を策定中。それをふまえて、2006年11月にマレーシアで投資促進セミナーを開催予定、2007年3月にはマレーシアから投資ミッションをザンビアに派遣予定。他のアジア諸国からの投資誘致も2007年第二四半期以降に開始予定。

コメンテーター(山本愛一郎氏)

配布資料(pdfファイル、8KB)

  • アジアの成功経験のアフリカへの適用可能性は如何に。JICAでは「アジア・アフリカ知識共創プログラム」を通じて、アフリカ諸国がアジアの経験を自分達の視点から咀嚼して課題に取組んでいくことを支援中。

  • グローバル化が進み変化が加速している中で、アフリカ諸国が貿易・投資機会をつかむことは容易ではない。これを如何に克服するか。

  • アフリカの成長促進においてはFDIが唯一の解決策ではなく、アフリカの内発的発展を支援する方策を考えることも重要。JICAが協力中の「一村一品運動」は、後者を支援する事例(マラウイ等)。

質疑応答

  • 確かにリーダーシップは必要だが、アフリカでビジョンとコミットメントをもつ政治的指導者を輩出し、かつ政治家(議員)の合意をとりつけることは至難。自身がケニアに長年関わった経験では、アフリカで「成功」例を作ることは非常に困難と感じているが如何。

    (JJ) アフリカの政治面の難しさについての認識は正しい。だからこそ、JICAによるザンビアへの南南協力(“Triangle of Hope”)では大統領のコミットメント・了承をとりつけ、議会にブリーフして戦略的ビジョンを共有したうえで、官民合同のタスクフォースチームの設置、具体的な提言のとりまとめ・実施というステップをふんで進めている。容易でないが、少なくとも現在のザンビアにおいては、ザ側関係者のオーナーシップは強く、自分は希望をもって取組んでいる。

    (山本) マラウイでも大統領の強いコミットメントのもとで「一村一品運動」の実施が始まったため、大統領交代があっても、行政官レベルで継続的に取組まれているという実例がある。前大統領の時に行政レベルで、同運動の実施のための仕組みが作られた。
     

  • (ザンビア大使館)ザンビアはケニアより政治的に安定し、独立後42年間は平和を維持してきた。本日JJの話を初めて聴いたが、ザンビアの将来に希望を与えてくれたこと、こういった協力を担ってくれていることに感謝。ザンビアが、資源ベースの産業(農業・アグリビジネス)にとどまらず、知識集約的産業を発展させる可能性について具体的に教えてほしい。また、JICAの「一村一品運動」支援にも関心をもっており、ザンビアでの実施可能性について伺いたい。

    JJより、12のタスクフォースの取組みについて詳細な説明あり。綿花産業の付加価値を高めるための施策、グローバル化時代には知識集約的産業を強化すべきとの観点から教育、医療、ICT、観光業、金融等でめざすべきビジョン、実際の取り組み等。

    (山本)「一村一品運動」は各国に応じた形で適用していくことが重要。関心があれば、JICAのザンビア事務所にぜひ相談してほしい。
     

  • マレーシアのNEP(ブミプトラ政策)の評価は如何に。マレー系優遇策により本当に彼らの能力・競争力が向上したのか。自国(パキスタン)のマレー系企業は必ずしも競争的でない。

    (JJ) 自分自身はインド系マレー人だが、1969年の人種暴動の危機を克服し、共通ビジョンをつくり実施していくうえで、NEPは大きな成功を収めたと考える。しかし、NEP導入時の国際社会は“Socio-economic Engineering”だと言って、きわめて懐疑的だった。NEPはマレー系を優遇したが、経済活動における他の人種の差別はなかった。当時のマレーシアが置かれた状況をふまえて、より大局的な観点から判断・評価すべき。
     

  • アジアとアフリカは中国文化の影響の有無を含め、歴史文化的に大きな違いがあると思う。アジアにも植民地化された国があるが、アジアは植民地化前の社会的成熟度がアフリカよりも高く、それが「和魂洋才」のような外来知識・技術を内生化する能力に違いをもたらしているのではないか。

    (JJ) 歴史文化的な違いが決定的だとは思わない。マレーシアも植民地時代や独立直後は(人口の大半を占める)マレー系は怠惰だ、農業さえやっていれば食べていけるので工業化には向かない、一般的にみなされていた。国際社会はマレーシアの将来に対して悲観的だった。ところが、独立後のリーダーのビジョンと関係者のコミットメント等により、マレーシアは大きく変わった。ザンビアには数多くの課題があるが、自分自身は希望(Hope)をもって楽観的に取組んでいきたい。
     

  • 12のタスクフォースの活動に対して、ザ政府が予算を手当てしているのか。

    (JJ) 然り。同時に官民連携のタスクフォースであり、民間セクターからも協力を得ている。

以上