英国援助事情 No.1 「米国同時多発テロと英国援助界」
9月11日午後2時頃(英国時間)テロのニュースが英国中を駆け巡った。ロンドンにも行方不明の飛行機が飛来するという情報がとび、官庁街や金融街は一時大騒ぎになった。 その2日後の13日、英国に本部を置く紛争予防や人道援助専門の大手NGOのセミナーに招かれた。冒頭あいさつに立った代表が、参加者に1分間の黙祷を要請した後、すかさず言った。「今回のアメリカの事件はマスメディアをつうじて世界中の人が見ている前で起ったビジビリティーの高い事件だ。しかしアフリカでは誰も見ていない中で何百万人もの人が虐殺されているという事実を忘れてはならない。」彼は人の命にも南北格差があることを訴えたかったのであろう。さすがに長い間世界の紛争を見てきたNGOだけあって考えさせられた。 翌日14日、今度は英国開発省(英国のODAを担当する役所)が主催する「世界銀行の国別包括開発計画における貧困削減戦略の位置付けを考える会議」に招待された。この会議にはワシントンやニューヨークからも参加者が予定されていたので、私はてっきりキャンセルになると思っていたら、なんとアメリカとはビデオ会議にして強行したのだ。貧困削減は、同省トップの女性大臣のクレア・ショート女史が信念を持って進めている政策であり、この会議はその方針に世界銀行を巻き込むための重要な会議だったのだ。世界で何が起きても英国は自国の援助政策を押し進めようとしているように思えた。 そして17日の週になって、その大臣は、今度は「アメリカはアフガニスタンの貧しい民を犠牲するような報復を行ってはならない。」という声明を出した。ブレア首相がアメリカの報復に全面的に協カすると言った直後にである。もっとも彼女の選挙区のバーミンガムには貧しいイスラム系住民が多いため、地元の受けをねらったものという説もあるが、この時点では、なかなか言える言葉ではない。 今回のテロ事件に対する英国援助界の反応を見ていると、イギリス人の持つ冷静さ、少し悪く言うと自己中心的な性格がよく表れていると思う。 2001年9月19日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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