英国通信


英国援助事情 No.10 「英国式アフリカ援助のやり方 〜もの作りより思想つくり」

援助の基本は、開発途上国の人材育成だということには各援助国とも異論はないのだが、その対象分野には違いがあるようだ。日本はどちらかというと、国の発展の基盤となる産業育成や農業育成のための技術者を訓練する技術研修に重点を置くが、イギリス人の考え方はかなり違うようだ。

日本では休日の4月29日、ロンドン中心部のかつてビクトリア女王の私邸であったランカスターハウスという豪華な宮殿で、「アフリカ人材育成基金」の年次総会が開催された。この基金は、アフリカの公務員の人材育成のため世界銀行と国連などがお金を出し合って、1991年に設立されたもので、加盟国はケニア、タンザニア、ガーナ、象牙海岸などのアフリカの受益国とフランス、イギリス、日本などの援助国あわせて28カ国で、事務局はジンバブエのハラレにある。

この日の総会は、事務局から提示された2002年から5年間の活動計画を審議し、各援助国がいくら資金援助をするかをきめる重要な会議であったが、会議のホスト役は英国政府で、開催場所からしても英国政府の力の入れ方は相当なものだ。議長は英国人。仏語圏からの参加者のために英仏語の同時通訳も付く。フランスの代表も時々文句は言うが、会議は英国主導で進んだ。筆者もオブサーバーで参加したのだが、事務局から提案された研修計画を見て驚いた。「経済政策とその運営」、「財務管理と透明性の確保」、「国家統計のモニタリング手法」、「行政管理」、「議会の政策分析能力の向上」などいわゆるグッドガバナンスといわれる分野の計画がずらりと並んでいる。工業技術者や農業技術者の育成というアフリカの経済成長のために必要なもの作りのための研修はまったくない。

そもそも工業や農業分野の発展がおくれているアフリカに対して、その分野で支援するよりも、官僚や政治家に西欧流の合理主義や民主化の思想を植え付けるのがイギリス流アフリカ援助のやり方のようだ。はたしてこれだけでアフリカの将来に希望を与えることができるのだろうかと疑問をもつのは筆者だけだろうか。

2002年4月30日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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