英国援助事情 No.13 「援助の目的 〜日英比較」 今世界の援助国は、国連が定めた2015年までに絶対的貧困層(1日の収入が 1ドル以下の人=世界に13億いると言われている)を半分にするというミレニアム開発目標のもとに援助額を増やすため国民の理解を得ようと努力している。ODA (政府開発援助)の原資は大抵が国民の税金なので、政府は納税者である国民に対してなぜ援助をするのかを明確にして理解を得なければならないのである。 日本政府が平成4年6月30日の閣議決定を経て策定した「政府開発援助大綱」 によれば、援助は、人道的見地から、国際社会における相互依存関係から、および世界環境の保全の観点から実施すると書かれており、平和国家としての日本が、世界の平和を維持し、国際社会の繁栄を確保するため、その国力に相応しい役割を果たすことが重要だとしている。しかしながら、これらの理念は国民全般にまだしっかりと定着しておらず、国内経済が低迷している昨今、ODAは大幅に減らすべし、という意見が国民各層から強くだされ、現に削減の一途を辿っているのは御存じのとおりである。 6月17日、英国で世界に類を見ない「国際開発法」という法律が施行された。 この法律は英国が行うODAの目的や手段を定めた法律で、全体で10条と短いが、 その第一条が強烈なインパクトを持っている。直訳すると、「第1条 国際開発大臣は、援助が貧困削減に貢献すると認める時のみ援助を実施することができる。」というのである。これにより、例えば商業目的、政治目的などの援助ができないというこ とであり、極めて明解な目的条項である。 実は以前英国でも英国企業の利益を守るなどの国益論も論じられてはいたが、1997年に労働党が政権の座に着いて以来、援助の目的は開発途上国の貧困削減だという点に国民世論が収斂されてきた感がある。要は援助の理由に関する議論を避けて、援助の目的(ターゲット)に焦点をあてることによって国としてのコンセンサスができたのである。この最終到達点がこの国際開発法なのだ。 援助の目的を法律で定めるなんて日本人にとっては乱暴に思えるが、英国人のもつキリスト教的博愛精神とかつて植民地化した国への贖罪意識を考えた場合、貧しい人を救うという目的は多くの人の共鳴を得るのだろう。 同じ島国でありながら、援助理念に関する日英の差は大きいように思える。 2002年6月21日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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