英国通信


英国援助事情 No.14 「援助の手段 〜日英比較」

前号では、援助の目的に関する日英比較を行ったが、今回は援助の手段に関する比較を行ってみたい。援助の手段には大きく3つある。一つは資金援助で、開発途上国が開発や行政に必要な資金を現金あるいは手形の形で供与する。二つは現物供与で、開発途上国が必要とする資機材そのものを送ったり、病院、学校といった建物を建設 して引き渡すなどの援助。もう一つは専門家やコンサルタントなどの専門的な人材を派遣してその技術やノウハウなどを伝授する方法である。概ねどの援助国もこの3つを組み合わせて援助を行っている。3番目の人材派遣については疑義はないが、1番目はプログラム援助、2番目をプロジェクト援助とも言い、そのどちらが有効かを巡ってよく議論が行われる。

イギリスでは、近年、唯一の援助目的である貧困削減に資するのであれば、相手国にお金を与え、その政策を支援する財政支援に重点を置こうと言う姿勢が顕著になっている。このシステムでは、相手国は国庫に資金を受け取り、その国の貧困削減戦略に基づいて、国のオーナーシップのもとに資金を使うことができる。アフリカなどで長年プロジェクト型の援助を行ってきたイギリスであるが、その成果が限定的であり、セクターレベルやマクロレベルでの成功に繋がらないことに業を煮やした結果、このようなプログラム志向の資金援助に傾倒している。

一方、アジアなどでインフラ建設や人材育成センターなどのプロジェクト型の援助で成功を納めてきた日本は、行政面での実施能力や透明性にまだまだ問題のある国に一方的に資金だけを投入するより、相手国のニーズにあったプロジェクトを立案し、個別に支援する方が、相手国への負担も少なく、質の高い援助ができるので、プログラム援助とプロジェクト援助はケースバイケースで上手く組み合わせた方がよいという、いわゆる「ベストミックス論」を主張している。

このように援助の手段を巡っては、日英の意見の差が大きいのだが、最近、日本の主張を裏付けるような事件がイギリスの対タンザニア援助で立て続けに起きている。 タンザニアは、教育と保健分野を改善し、貧困削減に寄与するため、イギリスから6年間に500億円以上の「資金援助」を受けることを約束された。イギリス人から見ると優等国なのであるが、最近タンザニア政府による50億円以上もの軍事航空管制 システムの購入問題が浮上したり、ムカパ大統領が30億円以上もする専用ジェット機を注文したということが発覚し、英国国際開発省はあわてている。特に前者はその購入先が英国企業というので話は複雑だ。

国際開発省の立場からすれば、貧しい国がなぜそんな贅沢をするのかという疑問と、貧困対策のため削減された債務や供与された資金のおかげで国の財政に余裕ができたために、あまった資金が贅沢に回ったのではないかという疑いの念を持つのは当然であろう。日本が主張するような現物供与型のプロジェクト援助では、このような事件は起りにくい。

相手国の援助吸収能力を見極めた上でのベストミックスアプローチに軍配があがりそうだ。

2002年7月22日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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