英国援助事情 No.16 「貧困削減と英国企業」
英国は、2015年までに世界の絶対的貧困人口(1日1ドル以下の収入で暮らす人=地球上に12億人いるといわれている。)を半減させるという国連ミレニアム開発目標の達成に向けて援助を集中させようと努力をしているが、ここにきてクレア・ショート英国際開発大臣をはじめ多くの援助関係者は、援助だけでこの遠大な目標を達成することは難しく、開発途上国で操業する民間企業にも協力を求めるべきだと考え初めている。 現在、先進国から開発途上国に流れている援助資金の総量は、年間約560億ドル程度だが、実はその2−3倍の民間資金が、投資や融資、資本参加という形で開発途上国に流れている。したがって、この部分にスポットをあてなければという議論が当然出てくる。 そこで、英国最大の開発シンクタンクが、多国籍企業など海外で創業する企業に貧困削減の努力をしてもらうためのキャンペーンを開始した。キャッチフレーズは、「B2 4B」、「Business for 4 Billion People in Poverty」の略だ。すなわち途上国で操業する企業がいかに貧困国に投資し、貧困削減に貢献するための企業活動をどう行っていくかを考え、実践するプロジェクトで、向こう3年間のリサーチに加え、アジアやアフリカでパイロットプロジェクトも計画されている。英国国際開発省やBP、シェル、ボーダフォンなど英国大企業も参加する。 秋も深まりすっかり日が暮れるのが早くなった10月半ば、ロンドン市内にあるそのシンクタンクが、企業、NGO、コンサルタント、援助関係者などを集めて、このキャンペーンの説明会を開催した。席上まず、BPの代表者が、「BPの操業先の75パーセントは、紛争国も含めた開発途上国であり、貧困削減をつうじて安定した社会を作ることが企業利益になる。」と、ブラジルや中国の事例をあげて力説した。同シンクタンクの代表者も、貧困削減をつうじて企業のマーケットが増えることや、工場に送電線を引く場合、一部の電気を住民に提供することにより企業の費用負担を軽くできたというタンザニアの事例をあげ、さかんに貧困削減のための活動が企業利益につながることを強調した。 しかし、会場からは、「企業はそもそも株主の利益のために活動するので、政府から何らかのインセンティブがない限り貧困削減のために企業が投資することは難しい。」、「大企業は、地元に雇用を創出し、製品をマーケットに提供するが、問題は、貧しい人がそれにアクセスできるかだ。」などと批判的な意見も出た。 この「B2 B4」キャンペーンのポイントは、これまでチャリティーとしてしか捉えられていなかった企業による貧しい人への福祉活動を企業活動そのものの中に位置付けようとするもので、かなりチャレンジングなアイデアなのだ。英国で始まりつつあるこのキャンペーンがこれからどの程度世界に広がるかが興味あるところだ。「ゆりかごから墓場まで」という言葉で代表されるように、英国人は理想を掲げてそれに向かって努力するのが好きな国民である。今後の展開を注視する必要があるだろう。 2002年10月23日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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