英国通信


英国援助事情 No.21 「援助の流行語はロンドンから」

服装の流行と言えば、パリかミラノだが、援助の流行語はロンドンで作られるようだ。これは英語の魔力によるところが大きい。英語というのは、抽象的で複雑な概念をひとつか二つの単語で表現できる特性をもっている。例えば、最近日本でも行政用語としてよく使われる「accountability」や、援助国が援助する際相手国に付ける「conditionality」などは英語で言うとしっくりくるが、日本語で簡潔に説明するのは難しい。

援助の世界も近年そのコンセプトが富に難しくなってきており、それを説明するために英語の力に頼るところが大きい。1990年代の援助用語でもっとも流行したのが、「Good Governance」だろう。これは、情報公開と民主的プロセスにより行政や立法制度を国民にとってよりよいものにするという意味で、最近の援助では主流になっており、筆者の所属するJICAを含め世界の援助機関でこの言葉を語らない組織はないほど流行している。

日本語になおすと、「よき統治」となるが、これでは意味不明で、「汚職をなくして明るい国を」というと日本人にはわかりやすい。ただ、援助国が相手国に汚職をなくせとは言いくいので「Good Governance」と言い換えたのだ。これだと途上国政府の人も使いやすい。まさに英語の魔力だ。

ところで最近ロンドンの人道援助の関係者の間で、「Good Donorship」という言葉がはやりはじめた。直訳すれば、「よき援助国らしさ」となるが、これは模範となる援助国の行動を示したもので、その条件は3つあるそうだ。一つ目は、相手国のニーズに基づいた援助をすること、2つ目は、他の援助国とよく協調すること、3つ目は、適切な援助量を長期にわたって予測可能な形で投入すること。すなわち、突然大きな額の援助を特定の地域やセクターに短期的に集中させないということだ。

どれひとつ取って見ても、至極当たり前のことのように聞こえるが、現実には各国の思惑もあってなかなか守られないことも多い。したがってこの言葉が流行すると、援助する側も大変な時代になる。ちなみに「donorship」という新語はまだオックスフォード英語辞典には載っていない。

1月27日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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