英国援助事情 No.22 「ミレニアム開発目標達成危うし 〜あせる英国政府」
2000年9月ニューヨークの国連本部で開かれたミレニアムサミットで、世界の絶対的貧困層(一日1ドル以下の収入で暮らす人:世界全体で約13億人)を2015年までに半分にしようという目標、いわゆるミレニアム開発目標が採択された。それ以来各国の援助機関は、この目的を達成するため、貧困削減に向け援助を集中させたり増やしている。しかし、ここにきてその牽引役の英国政府にあせりが見え始めた。 1月末、ロンドンの目抜き通りピカデリーから少し南に下ったところにある王室国際問題研究所(通称チャタムハウスと呼ばれ、会議のルールを指す言葉として使われるチャタムハウスルールの起源にもなっている。)で、政府と民間セクターがパートナーとして貧困削減にいかに取り組むかというテーマの会議が開催された。ブラウン蔵相、ショート国際開発相、ブラウン国連開発計画(UNDP)総裁らが参加するというので、会場は、英国政府、企業、NGO、国際機関、各援助国の代表で立ち席がでるほど満員になった。 ブラウン蔵相は、開口一番「世界には社会的責任を果たしている企業が多いことに驚く。」といってまず会場にいた企業関係者を持ち上げた。そして、最後は、ミレニアム開発目標達成のため官民協力により、500億から1000億ドルの資金を追加手当てするための新制度を作ろうと提案した。そのあと企業が政府と協力して、人材育成や教育に貢献している実例が次々紹介される。しかし紹介されるのは社会貢献をするだけのゆとりのある大企業ばかりだ。 1日の会議の締めくくりは、貧困削減の旗振り役、ショート国際開発相がマイクを取ったが、いつものような威勢のよさはなかった。「貧困削減のための援助はうまく行っている。しかし、これからの途上国の人口増加を考えるとODAだけではとても追いつかない。」と言い訳めいた発言、民間企業の協力なくしては目標達成は困難と言いたかったのだ。 勿論企業にとって人々が豊かになれば物が売れるわけで結構なことだが、そのために巨額の援助資金を拠出したり、貧困削減のためのプロジェクトを会社負担でやることには、まだまだ抵抗があるだろう。会場にいた企業関係者からはとまどいの声も聞かれた。 ミレニアム開発目標達成にあせる英国政府が、官民連携の名のもとに民間セクターに協力を仰ぎはじめたのだ。これに企業はどう答えるのか。これからしばらくCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会責任)の議論は続きそうだ。 2003年2月7日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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