英国通信


英国援助事情 No.23 「イラク開戦まぢか 〜戸惑う英国援助界」

3月に入って、英国内では、閣僚の一部による国連決議抜きのイラク戦争反対声明などもあり、反戦気運が高まっているが、その中で英国国際開発省(DFID)やNGOの間では、戦後の人道援助や復興支援をにらんで水面下での準備がはじまっている。

3月はじめNGOの人材育成を専門に行う団体が、イラクでの活動を予定しているNGOなどを対象に安全管理に関するセミナーを開催したので、筆者も無理に頼んで参加させてもらった。セミナーは専門家による3時間ほどのレクチャーだったが、その内容に筆者も含め、多くの参加者が戸惑いを隠せなかった。

専門家によると、イラクでの活動での最注意事項は、サリン、タブン、VXガスなどの残存化学兵器、炭疽菌、天然痘、ポツニヌス菌などの生物兵器、そして放置された戦車などに残留する劣化ウランへの対応だそうだ。これには、さすがに百戦錬磨の英国NGOの人々も唖然としていた。そこで、ガスマスクなどの装着訓練が必要ということになり、さっそくDFIDが、関係者への2日間の集中訓練を計画中とのことである。

戦後のイラク援助に関して英国の援助関係者を悩ませていることがもうひとつある。それはアメリカとの関係だ。総じて英米によるイラク単独攻撃に反対している英国NGOの立場としては、国連を無視したアメリカの攻撃による戦争の後処理をなぜ自分たちが引き受けなければならないかという点でしっくりこない。さらにイラクの戦後処理は、米国国防省主体で行われ、しかも米国企業が中心になって復興プロジェクトを行うこことになっているため、人道主義や貧困削減を理念として活動する英国NGOとしては、戦後のイラクにおける自分たちの位置づけが読めないことにいらだちを募らせているようだ。

3月18日にJICAとオックスフォード大学の共催で開催された「日英平和構築セミナー」でも、人道援助を軍や民間企業に任せていいのかという議論が盛んに行われていた。

戦争が短期で終わっても、長期化しても、イラクの戦後復興には、これまで以上の国際社会の協調が必要になるだろう。軍事面同様、援助の世界でも英米の協調が見られるのだろうか。

 2003年3月19日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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