英国通信


英国援助事情 No.25 「英国式森林保全のやり方」

援助の対象分野は、近年益々広がりを見せている。教育、保健、インフラ、環境、ITなど幅が広い。しかし、本当に必要な分野に必要な量の援助が必ずしも投入されているとは限らない。援助側の都合もある。教育や保健などは、短期間に明確な形で成果が出やすく、納税者にも分かりやすいので援助国が好む傾向がある。イギリスの援助はこの傾向が強い。ところが、途上国の熱帯雨林などを守るための森林保全は、地球環境保護の観点からも重要な援助分野なのだが、成果が出るのに時間がかかり、また援助費用もかさむため、日本以外の援助国はあまり関心を示さないようだ。

そこで、英国が中心となってユニークな森林保全のアイデアが実行に移されている。森林保全の最大の敵は不法伐採だ。多くの開発途上国では、この問題は深刻だが、汚職や政治的背景などもあって、現場の努力だけではなかなか解決しにくい問題だ。

イギリスではめずらしく30度を超える暑さが続いた7月半ば、ロンドンの西のはずれのハンマースミスにある私の事務所に汗を拭き拭き、あるイギリス人が訪れた。彼は、FSCという団体の英国代表である。FSCとは、「Forest Stewardship Council」の略で、伐採された木材が正しく管理された森林のもので、不法なものでないことを認証するNPOだ。スタッフは30人、本部はドイツのボンにある。環境保護で世界的に有名なWWFが支援している。

この団体のミソは、ただ現地で検査をして認証マークを付けているのではなく、途上国から木材を輸入する先進国の会社などに対して、FSCマークの製品しか買わないよう働きかけることだ。英国では、国内最大の日曜大工チェーン店のB&QやHome Base社、北欧家具のIKEAがこれに加盟している。これだと、木材輸出業者も不法に伐採した木材が売れなくなるわけである。

しかし、この団体の泣き所は、英国や欧州の一部の企業がFSCマークを採用してくれても、その他多くの企業が加盟しなければ、加盟企業にのみ合法な木材が輸出され、その他の企業には相変わらず不法伐採された製品が流れるという点だ。そこで、木材の中間加工国のヴィエトナムや韓国にも働きかけており、両国では、すでに欧州のマーケットへ参入するねらいからこの制度に関心を示しているそうだ。ヴィエトナムでは、国内で認証制度を作ろうとする動きがあるそうだ。勿論、国内の認証制度も国際水準を守らせる必要があるため、FSCが技術指導する。

これまでの森林保全のアプローチは、援助を使って植林プロジェクトを実施したり、フォレストレンジャーを訓練するなど、どちらかといえば木材の生産現場での対策であったが、FSCのアプローチは木材の需要サイドから圧力をかけ、市場原理に基づき森林保全を行うものと言える。

アダム・スミスの生まれた国ならではのアプローチだ。

 2003年7月21日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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