英国援助事情 No.29 「Who ruined Africa and who will fix it?」 6月のシーアイランドサミットで、ブレア首相が、来年英国が議長国となりスコットランドで開催されるサミットでアフリカ開発問題を取り上げることを早々と発表したのを受け、英国内ではアフリカ開発論議が一層熱を帯びてきた。 2月にブレア首相自らが委員長となり、内外の識者を集めて結成した「アフリカ開発委員会」(Commission for Africa)も5月4日に第一回委員会がロンドンで開催され、これを受けて、目下委員会事務局のスタッフがNGO、労組、教会関係者など英国の市民社会からアフリカ開発支援に関する意見を聴取するため、チームを組んで英国全土を走り回っている。 メディアものろしを上げた。今月はじめエコノミスト誌が主催して、表題とおりの刺激的なタイトルの討論会をロンドン市内で開催した。会議は非公開で参加は招待客のみであったが会場には100人以上が集まった。「アフリカを台無しにした犯人は誰か、そして誰がそれを修復するのか」。英国人の深層心理に食い込むこの問題を明らかにしたうえで、アフリカ支援のハウツーを議論しようというのがエコノミスト誌のねらいだ。 討論会のパネリストは、イギリス人2名、アフリカ人2名で、イギリス側は、夫々エコノミスト誌とガーディアン紙の編集長で、アフリカ側は、夫々イギリスとアメリカの大学の研究者だ。まず、「アフリカを台無しにした犯人」であるが、イギリス側からは、「植民地時代の負の遺産」、「宗主国が民族問題を煽って植民地支配に利用した」、「冷戦構造の犠牲」、「資源の収奪」など、どちらかと言えば、過去の反省色の強い発言が相次いだ。 これに対してアフリカ側からは、会場がロンドンなので遠慮したのかは分からないが、「アフリカには西洋人だけでなく、アラブ人も中国人もやってきた。西洋だけのせいではない」、「腐敗したアフリカのリーダーを民主的な選挙で追放しないとよくならない」など植民地主義への批判より、自分たちのリーダーへの失望をあらわす発言が目立った。 次に「誰がアフリカを修復するのか」であるが、これはアフリカ人自身だということで双方の答えが一致した。「市民社会の育成と民主主義の推進により、腐敗した政治家を追放し、よい社会を作るべきだ」、「IT技術の導入により遠隔地教育を充実させ、アフリカの頭脳を海外に流出させないようにすべきだ」、「黒人自らがアパルトヘートをやってはならない。あらゆる民族を村レベルで受け入れるべきだ」など、アフリカ側からは建設的な意見が出たが、どちらかというと政府や政治家よりも、草の根レベル、市民レベルでも取り組みを重視するものであった。 国家の成立要件は、領土、政府、国民の3つであるが、長年領土問題と政府の弱さに苦しんできたアフリカの人たちはアフリカの発展のキープレーヤーはピープルなのだという意識が強いのだろう。 最後にNEPAD(アフリカ開発のための新しいパートナーシップ)に関する議論になり、賛否が分かれた。積極的に支持しょうとする意見と、単なるイニシャチブだけで期待できないとする意見だ。最後に、会場にいたナイジェリア人から、「NEPADはこれまでの掛け声だけのイニシャチブとは違い、具体的なプロジェクトを推進している。皆で支援すべきである。」という発言があり、居合わせた我々援助関係者をほっとさせる一幕があった。 これから来年春頃までイギリスではアフリカ開発と援助の議論が活発になりそうだ。 2004年7月20日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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