英国通信


英国援助事情 No.31 「2005年はアフリカ開発で」--盛り上がる英国

12月に入って恒例のトラファルガー広場のクリスマスツリーが点灯され、ロンドンの繁華街はクリスマスショッピングの客で賑わっている。(このツリーは第二次世界大戦の時、イギリスに助けられたノルウエーからそのお礼に毎年送られてくる。)クリスマスプレゼントの定番のひとつは音楽CDやビデオだが、今注目されているのは、ちょうど20年前にアイルランド出身のロック歌手ボブ・ゲルフドフが中心になって、デビッド・ボーイ、マドンナ、ポール・マッカートニー等有名歌手が参加したアフリカ飢餓キャンペーン「ライブエイド」の復刻版DVDだ。今度は、その収益はスーダンのダルフール危機への支援に当てられるそうだ。

このような英国民のアフリカへの関心はどこから来るのであろうか。かつての植民地への贖罪意識を指摘する向きもあるが、若い英国人に聞くとそれはあまり感じない。富めるものの義務として貧しい国や困った人を助けることに道義的責任を感じているととらえる方が素直である。少し古いが、2001年に英国統計局が発表した「国民の開発問題に対する意識調査」によると、実に70パーセントの人が開発途上国の貧困問題に関心があると答え、また71パーセントの人が貧困削減は道義的責任であると答えている。

英国のアフリカ支援熱の追い風になっていることが今ひとつある。それは、ブレア首相が、来年スコットランドで開催される主要先進国サミット(G8)で、アフリカ開発問題を議題にすることを決めたことだ。これに連動するように、今年の2月、ブレア首相は、自らが委員長になって、アフリカ委員会(Commission for Africa)なるものを立ち上げた。コミッショナーは、ベン英国際開発省、ブラウン英蔵相、カムデシュ元IMF総裁、ムカパ タンザニア大統領など国際的な著名人17名だ。冒頭紹介した歌手のボブ・ゲルドフもメンバーになっている。アジアからは、日本ではなく、最近アフリカへの援助や投資に熱心な中国の代表が入っている。この委員会の目的は、アフリカの現状を総合的に分析し、今後の開発と援助への提言を行うことだ。このコミッションの報告書は、来年3月末には発表され、サミットでも議論される予定になっている。

一方、ブレア首相の最有力後継者と自他ともに認めるブラウン蔵相も、「アフリカのためのニュー・マーシャル・プラン」を打ち出し、対アフリカ援助の倍増をアピールしている。そもそもマーシャル・プランとは、第二次大戦後荒廃した西ヨーロッパを復興するため、アメリカのマーシャル国務長官が打ち出した総額40億ドルの支援計画で、全てアメリカの負担であったが、今回のマーシャル・プランは、ちゃっかり屋のイギリス人らしく、日本やフランス、ドイツ、アメリカなどの支援も入れての話だ。

また、英国では、しばしば政府の援助政策に政治的影響を与えるOXFAM、ACTION AIDなど大手のNGOもACTION2005というキャンペーンを開始、英国政府のアフリカ開発への姿勢を応援するとともに、最貧国へのさらなる債務救済や、ODA(政府開発援助)の対GNI(国民総支出)比0.7パーセント達成を呼びかけている。

このように、英国社会では、アフリカ支援に関しては、世論と市民社会の強い支持があるので、与党、野党を問わず政治家や政府は取り組みやすい。おそらくサミットでも中東和平やテロ対策など政治性の高い問題より「無難な」話題なのであろう。このような英国主導のアフリカ支援に対してアフリカ人の間では警戒する向きもあるが、全体としては、ともすれば日陰者扱いされるアフリカにサミット開催国である英国がスポットを当ててくれることを歓迎しているようだ。

読者の皆様、来年もどうぞよいお年をお迎えください。

 2004年12月20日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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