英国援助事情 No.5 「WTOは開発にとって悪なのか。」 カタールのドーハで開かれるWTO閣僚会議を直近にひかえた10月末、英国最大の開発問題シンクタンクが表題のセミナーを開催した。挑発的なタイトルに引かれた筆者が、ウエストミンスターブリッジを渡ってトンネルを抜けたところにあるその研究所に行って見ると、既に100人を超える援助関係者、マスコミ、学者などで満席であった。 セミナーは、WTOに対して批判的なアドボカシー団体の代表と、WTO擁護派であるそのシンクタンクの研究員の1騎討ちで、興味ある展開であった。前者は、「貿易の自由化は、アジアなど一部の国の利益になったが、サブサハラなどの多くの貧困国ではかえって格差を助長している。」、「中国やインドが貿易で成長したという英国国際開発省の論理は間違いで、これらの国は自由化を行う前から輸出を増やしている。」、「WTOが政府をいくら規制しても多国籍企業を規制しない限り貿易不均衡は是正されない。」という見解を示し、WTOを解体するか、WTOの外に途上国の利益を守るための機構を作るべきとの意見であった。後者は、ウルグアイラウンドに始まる一連の貿易交渉プロセスの中で開発途上国が場合によっては先進国と協調するなどしてカをつけてきたことを評価、アメリカやEUに対する交渉でも途上国が成果をあげていることにも触れ、開発途上国がWTOに参加することの利益を強調した。 結局のところこの日の結論は出なかったが、会場の反応は、NGOやマスコミなどは前者の意見に賛同し、政府関係者は当然のことながら後者の意見を支持していた様子であった。WTOやグローバリゼーションを巡る先進国と開発途上国の対立はしばらく続くであろう。 2001年11月6日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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