英国通信


英国援助事情 No.7 「英国のイスラム教徒」

博物館が立ち並ぶサウスケンシントンの地下鉄駅を出て3分程歩いたところにイスラム風の大きなホールがある。イスマイリセンターと呼ばれるイスラム教イスマイル派の総本山である。イスマイル派は、イスラム教シーア派の一分派で、世界25カ国に約1500万人の信徒がおり、医者、弁護士、学者、作家などの多くのエリートを輩出している。現在の最高指導者であるアガ・カーン氏は、実業家、慈善家としても有名である。

年の瀬も迫った12月18日、このセンターで在英信徒の集会が開かれた。筆者もアガ・カーンの名前が海外援助でもよく出てくるため、興味があったので、知り合いの事務局長に頼んで、信徒ではないが傍聴させてもらった。 会は、夕方7時過ぎから始まり、まず紅茶とケーキが出た。勿論アルコール類はない。8時頃からカナダから来たというイスラム学者の講演が始まった。9月11日以降のイスラム教徒が抱える問題というテーマで話が進む。途中、「宗教のプライベタイゼーション」という言葉が何度も出る。キリスト教は長い歴史を経て、宗教を政治や政府などの公的な場から分離し、個人化することに成功したが、イスラム教はこれが出来ていないため、テロ事件の結果、西側諸国のターゲットになってしまうというのだ。やはり危機感を持っているのか、多くの聴衆が盛んにうなずいている。

確かに現代の世界では、キリスト教徒の国では、人権や民主主義を唱えることはあっても、国家として宗教の教義を押し進める国はない。キリスト教は完全に個人の中に内面化されている。「宗教のプライベタイゼーション」とはそういうことなのだ。一方、イスラム教には、聖戦やインティファーダという言葉があるように、宗教が組織や社会を規範する面が強い。まだまだ内面の宗教にはなっていない。

イスマイル派は、イスラム教の中でも比較的柔軟な発想を持つことで知られている。キリスト教社会との接点にもなっているようだ。ひとくちにイスラム教と言っても、タリバンのような過激な思想を持つグループもあれば、イスマイル派のようなバランスの取れた思想を持つ一派もいる。このような幅広い宗教であるイスラム教が今後どのような位置を占めるのかが、これからの世界を見るキーポイントになるような気がする。

2001年12月19日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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