英国援助事情 No.8 「大英帝国健在なり」 買い物客でにぎわうロンドンの目抜き通りピカデリーから50メートルほど南に入ったところに「Pall Mall」という名の通りがある。イギリス人はパルマル通りと呼ぶ。玄関を見ただけでは何か分からない重厚な石造りのビルが立ち並ぶ。人通りもあまりない。実はここには英国上流社会の社交場である色々なクラブが集まっている。 ▽エリザベス女王を国家元首に その一角に世界各国の国旗を掲げた建物がある。英連邦、コモンウエルス事務局だ。英連邦とは、オーストラリア、カナダ、フィジー、インド、マレーシア、ケニア、南アフリカなど世界54カ国から構成される国際機関だ。第二の国連ともいわれる。加盟国の共通点は、英国の植民地であったことだが、エリザベス女王をいまだに国家元首と仰いでいる国が多い。英国王室と決別した米国はメンバーではない。モザンビークはポルトガルの植民地だったが経緯があって例外的に入会している。 事務局は、加盟国から選ばれる事務局長(現在はニュージーランド人)の下に、政治局、経済社会局、開発協力局から構成され、職員は約500名、年間予算は約70億円。その多くを英国、カナダ、オーストラリアなどの先進国が負担しているが、立派な国際機関だ。加盟国、特にアジア、アフリカの開発途上国の社会経済発展のために援助や助言を行う。例えば、加盟国の中の進んだ国の技術者を登録しておいて、途上国が必要とする人材を派遣したりする。 これだけだと、普通の国際機関だが、少し違うところは、毎年首相クラスや閣僚の会合がロンドンなど各地で開催されることで、これに出席することは、一種のステータスシンボルになっているようだ。なぜなら加盟国の首脳や閣僚の多くは、オックスフォード、ケンブリッジなど英国の1流大学を出ており、会合自体が一種の「仲良しクラブ」になっているからだ。英国はこの場で各国に根回しをする。援助の世界でも、英国は、コモンウエルスの会合を利用して債務救済の下打ち合わせをしたり、英国にとって有利な援助のやり方を各国に提案したりする。 ▽加盟国に政治圧カも また、英国は、「仲良しクラブ」という側面を利用して加盟資格停止という手段によって政治的圧カをかけることもある。パキスタンのムシャラフ大統領も民主的手続きを経ず大統領になったという理由でコモンウエルスの首脳会議への出席を停止されたことがある。 最近では、ストロー英外相が、言論弾圧などで物議をかもしているジンバブエのムガベ大統領に制裁を加えるためジンバブエの加盟資格を停止してはどうかと発言したりしている。 英連邦は加盟国の社会経済の発展すなわちコモンウエルスに寄与するための国際機関なのだが、英国がかつて支配していた国との宗主関係を温存するための「クラブ」という色彩も濃厚だ。大英帝国は健在なのである。 2002年2月15日 JICA英国事務所長 山本愛一郎 |
*「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |
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