英国通信


英国援助事情 No.9 「企業の社会責任を問う英国援助界」  

最近、英国国際開発省とNGOが一緒になって進めている新しい議論に「CSR」 (Corporate Social Responsibility=企業の社会責任)というのがある。開発途上国で操業する企業に対して、環境問題や貧困層に配慮した行動を取るように、援助機関が協調して働きかけようという動きである。筆者は当初この議論に接した時、なぜ援助機関がやらなければならないのか疑問であった。その疑問は、クレア・ショート国際開発相のスピーチを聞いて氷解した。

CSRの推進者の一人である彼女は、1月の終わり、世界の援助機関から代表約30名をバッキンガム宮殿の横にある国際開発省の本部に集めて一席ぶったのである。「みなさん、我々援助機関がいくら開発途上国で貧困削減や持続的開発をめざしてがんばっても、企業の協力なくしてはうまくいきませんよ。英国のODAは増えたと言っても年間36億ポンド、英国企業の開発途上国での売上げはその30倍の900億ポンドですよ。いかに企業の役割が大きいかわかるでしょう。」

イギリス人の実に面白いのは、こうして単に企業の責任を問う声だけでは終わらないところである。援助機関が企業とパートナーを組んで、貧困層にやさしい、環境にやさしい企業活動のあり方を一緒に考えようというのだ。その先鋒を担っているのが、英国のある大手NGOで、「開発のための官民パートナー事業」と称して政府と企業から金を集めて具体的なプロジェクトを始めた。例えば英国の鉱山会社とパートナーを組んでインドで地域住民のための開発プロジェクトを行うのである。実に見事な連係である。彼等の論理は、企業が貧しい住民や環境を配慮することは、結局は長期的な企業利益につながるというのである。

これに勢いづいた英国援助界では、CSRを9月にジョハネスブルグで開催される国連環境サミットの議題にのせようと画策している。この波はいずれ日本にも押し寄せるかもしれない。 

2002年4月2日 JICA英国事務所長 山本愛一郎



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「英国援助事情」は、筆者の英国での体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。
 

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