2003年12月8日
GRIPS開発フォーラム 大野 泉
今般、2003年11月30日〜12月5日にかけてハノイを訪問し、CG会合において大規模インフラと貧困削減にかかる当方調査の結果概要を報告するとともに、CPRGSの進捗、援助効果の向上、成長戦略支援を中心に情報収集を行った。GRIPS開発フォーラムは、在越日本大使館からの依頼により、JBICハノイ事務所とJICAベトナム事務所の協力のもとで、ベトナム政府のイニシャティブによるCPRGS拡大作業注1を支援すべく、世銀、ADB、DFID、AusAIDと連携しつつ本年4月から分析的調査に取組んできた。本調査結果は11月末に最終報告書("Linking
Economic Growth and Poverty Reduction-Large-Scale Infrastructure in the
Context of Vietnam's CPRGS")としてまとめられたが、今般ベトナム政府の要請をうけて、調査概要をCG会合で報告することになったものである。また、CG会合の他にも、世銀及び在越日本大使館、JICA事務所、JBIC事務所等との面会を通じて情報収集を行う機会を頂いた。
以下、CG会合を中心に、今回出張を通じた当方所感を記す。出張に際し協力頂いた関係者各位に感謝したい。
注1:成長促進策の1要素である大規模インフラが貧困削減に果たす役割をより明確にすべく、包括的貧困削減成長戦略(Comprehensive
Poverty Reduction and Growth Strategy: CPRGS、ベトナム版PRSP)を拡充するもので、CPRGSに大規模インフラにかかる新しい章を追加する作業。2002年12月のCG会合での合意に基づく。
全般事項 |
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今回のCG会合は、@第7次社会経済5ヵ年計画の前半3年間のレビュー(2001-03年)と残る2年の課題、及びCPRGS実施における進捗と今後、Aベトナム経済の競争力強化、B社会・経済上のリスクであるHIV/AIDSへの取組み、C援助効果の向上と取引費用の低減にかかる進捗、という4テーマを柱に議論が行われた。
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また、今回は1993年のパリでの第1回CG会合から10年を経て、ベトナムの開発は新しい出発点(折り返し地点)にあるとの認識のもとで行われた。28億ドルにのぼる多額の援助プレッジがなされたが(昨年より3億ドル増)、これは、過去10年のベトナムにおける経済成長と貧困削減の大きな進展に対するドナーの高い評価を示すものだろう。同時に、今後の改革はより困難な性格のものが多く、ベトナム政府に一層の努力を求める要望が出された。
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特に、Vu
Khoan副首相はオープニング・スピーチにおいて、今回CGの主なテーマは現行5ヵ年計画の進捗レビューと今後の課題としたうえで、5ヵ年計画の目標達成のために引続き高成長をめざしつつも、次の3点に配慮する必要性を強調した。
---経済成長の速度と「成長の質」とのバランス
---経済成長の速度と「持続可能な開発」とのバランス
---地域・国際経済統合を視野にいれた開発、競争力強化 同副首相の発言は多くのドナーの支持を得て、CG会合の基調を設定するものとなった。
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日本側の対ベトナム経協関係者は、大きな「転換点」となった昨年のCG会合注2以降、成長戦略の重要性について幅広い合意形成(CPRGS拡大/大規模インフラ、日越共同イニシャティブによる投資環境整備)や援助効果向上・手続き調和化に向けて積極的に取組み、目に見える成果をあげた。ここ1年の関係者の努力が「結実」したものとして、高く評価される(なお、これらと並行して「国別援助計画」策定プロセスが進展)。また、世銀や英国DFIDからも、昨年のCG会合と比べて、日本を含めた関係者間でコンセンサスが広がった旨発言があった注3。
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その意味で、本年のCG会合に至るプロセスを通じて、名実ともに日本が多様な援助ツールを活用して成長戦略支援を行っていく枠組みが(ベトナム政府のみならず他ドナーとも)共有され、確立したと言える。今後は、インフラ整備を持続可能にするための制度上の改革、投資環境整備を含む成長戦略の具体化、といった中身の面の深化に重きをおいてベトナムの開発支援を行っていくことが重要と考える。また、そのためのツールとして、援助効果の向上(特に、技術協力や無償資金協力の面での手続き調和化)においても一層の実質的改善が期待される。その際に、これまで関係者の努力で築かれた大使館を中心とした現地主導のオールジャパン体制、及び国別アプローチを土台とした取組みが引続き重要と考える。
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なお、韓国は今回CG会合に外務省の経済協力局長が代表として参加したが、韓国の開発において5ヵ年計画が果たした決定的役割、経済成長及びそれを支えるための政治的安定の重要性、輸出促進のため明確な優先順位の設定、同時に成長を広範にするためには農村での(社会開発面だけでなく)所得向上や企業家のentrepreneurshipの重要性を強く訴え、(CPRGSに集中しがちなドナーの議論を開発の本質部分へと目を向けさせた意味で)強い印象を残した注4。アジアの"emerging
donor"としての韓国の役割に今後期待したい。
注2:詳細は2002年12月の出張報告を参照(GRIPS開発フォーラムWeb掲載、pdfファイル16KB)。
注3:世銀のMartin
Rama氏、DFIDのBella Bard所長から、パートナーシップ強化を通じた相互理解の深まりを評価する旨の発言があった。
注4:ベトナムは韓国の最大援助供与先である(バイODAの20%強は対ベトナム援助)。韓国のCG対応は昨年は大使館ベースだったが、今回はRae-Kwon
Chung経済協力局長の参加によりプレゼンスを示した。Chung局長は
DAC共催による国際シンポジウム(2003年11月7日、於ソウル)を企画し、ODAを通じた韓国の積極的貢献、その際に成長重視、所得向上といった韓国の開発経験の発信というメッセージを強く打ち出した(大野泉も同シンポジウムにパネリストとして参加。GRIPS開発フォーラムWeb掲載)。
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CPRGS拡大、CPRGSの今後の展開に向けたフォロー |
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MPIのシン経済問題局長(CPRGS担当)から、CPRGSプログレス・レポートの概要、大規模インフラの追加に伴うCPRGS拡大、CPRGSの省レベルへの"roll-out"について報告があった。特にCPRGS拡大に関しては、ベトナム政府は11月26日付で新しい章(Chapter
4: Large-scale Infrastructure Development for Growth and
Poverty Reduction)を追加し、改訂版CPRGSをCG会合で配布した。
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GRIPS開発フォーラムは調査協力を通じてベトナム政府のCPRGS拡大作業に関わってきたが、新しい章にはインフラが成長と貧困削減に裨益する経路の考え方、事例をふまえた裨益効果、インフラ整備における留意点などが盛り込まれており、当方調査が活用された内容となっている。また、今回ベトナム政府の要請をうけてCG会合で当方(大野)がベトナム政府側に座ってプレゼンしたのも、当方協力がベトナム政府に評価された結果と考える。
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他方、CPRGSに大規模インフラの役割を盛り込む点に異議はないものの、特にLMDGから、投資の効率性を改善する必要性、維持管理の重要性、汚職への懸念など、実施に際して慎重を求める声がだされた。CPRGS拡大そのものは支持するが、制度強化とセットであることにドナーが「釘をさす」形となった。
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今後、世銀はPRSC(3)〜(5)の毎年供与を通じて、PIP選定クライテリア、MTEF(リカレント予算と投資予算の整合性)、次ラウンドCPRGSなどのイシューに取組んでいく予定である。他方、現時点で世銀はPIPやMTEFにかかる制度設計(MOF、MPI、セクター省庁との関係)、求める改革の深さなどについて具体的ビジョンをもつに至っていない。日本はPRSC(3)〜に協調融資を検討中だが、制度強化の議論をセクター・レベルを含むより実質的なものへの誘導していくよう、日本の貢献を期待したい。
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CRPGSの省レベルへの"roll-out"に関し、UNDP、EUやLMDGの多くから、MPIの努力を評価する旨の発言があった。しかし、今後、次期5ヵ年計画策定の準備として各省で開発計画策定プロセスが始まる一方で、CPRGSの"roll-out"作業との関係、ベトナムの既存の制度体系をふまえたうえでのCPRGSの最終着地点について共通認識がない点は懸念される。日本がPRSC(3)〜に関与する場合には、次ラウンドのCPRGSプロセスにおいて5ヵ年計画との関係に配慮しながら、ベトナムの制度強化に実質面で資する方向に議論を促していく役割を期待したい。
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競争力強化 |
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WTOやAFTA加盟を控え、ベトナムの競争力強化は急務との共通認識のもと、投資環境整備、民間セクター開発、企業の競争力強化、中小企業育成、SOE改革、金融セクター改革などの必要性について活発な議論が行われた。また、世銀・IFCからは競争力強化におけるインフラの重要性、そのための民活インフラの可能性、ADBからはメコン経済圏としてのベトナム経済の発展という視点から広域的インフラ支援の重要性について言及があった。
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日本は服部大使から、昨年のCG会合で発表された「日越共同イニシャティブ」の進捗(12月4日に最終文書採択)につき報告が行われるとともに、同イニシャティブがバイの関係を超えてベトナム投資環境全般の改善を支援し、同国経済の成長のエンジン強化に資すること、今後、行動計画をモニタリングしていくこと等が強調された。
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このような分野においては、上述の世銀・IFC、ADBといったマルチを除き、日本のように多様なツールをもって(ハード・ソフト面の双方で)支援を行えるバイのドナーは他におらず、今後、「日越共同イニシャティブ」のフォローアップを含め、マルチによる支援を補完しつつ、バイのレベルでも競争力強化・成長戦略支援を強化していくことが期待される。(なお、中国代表が中小企業育成や農村工業化の重要性につき、自国の経験に基づいた発言を行ったことは興味深い。)
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援助効果の向上・手続き調和化 |
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MPIのウン対外経済関係局長から、ローマ調和化会合(2002年2月)で合意された国別の調和化アクション・プラン策定に向けたベトナム政府の取組みとして、現時点のアクション・プラン(案)が示された("Simplification
and Harmonization and Capacity Building for Greater Aid
Effectiveness")。
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このアクション・プラン(案)は、調和化と能力強化の2つの柱から成る。前者においては、ドナー側の(一定の)多様性尊重、実行可能な調和化対象分野の選定、費用対効果への留意など、ベトナム政府が唱える「原則」に基づき、@政策レベル(例えば、ドナーの国別援助計画と開発計画・セクター計画・CPRGS等へのalignment、ドナーの援助手続きに関する情報公開・簡素化、現地への権限委譲)とAテクニカル・レベル(例えば、各種フォーマットの調整・統一、ミッションのタイミングの調整)での調和化に向けた努力を促している。後者においては、ベトナム側の制度能力の課題を認識したうえで、@ODAマネージメントにかかる法制度全般(Decree17を含む、ベトナム政府内の手続き改善)、Aプロジェクト型のマネージメント(「マネージメント」能力、及びディスバース・調達・監査などの実務に即した手続き習熟)、Bノン・プロジェクト型のマネージメント(財政支援の導入を前提した制度強化)を含む包括的分野での能力強化(=Comprehensive
Capacity Building Program)の必要性を示し、併せて、@〜Bの能力強化のためにドナーに計1,000万ドル(2フェーズ)の支援を要請している。
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日本からは、5
Banksにおける手続き調和化の取組み、JICA/CIEM取引費用調査をふまえたバイの無償・技術協力における改善点の洗い出し作業("Sit
down & Talk"イニシャティブ)、日英共催の調和化ワークショップ(2003年10月)を含むパートナーシップ枠組での取組み、「ポリシー・マトリックス」提案の紹介があった。また、PRSC(3)〜の協調融資を通じて制度強化の支援にも関与していく意向を示された。
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DFIDからLMDGを代表して、ベトナム政府が他国に先駆けて調和化アクション・プラン(案)を策定し、取組む方向を明確にしたことを高く評価する旨発言があった。また、英国としては特に一般財政支援及びSWApといった新しい援助ツールに強い関心をもっており、この点におけるベトナム政府のより積極的な取組みを期待する旨、指摘があった。(ただし、ドイツはfiduciary
risksへの懸念から新しい援助ツールには慎重な意向。)また、EUやUNグループからも、各々のグループにおける手続き調和化の取組みに関する報告があった。
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その他(所感) |
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過去1年間における日本の対越経協関係者の努力により、成長と貧困削減の関係を広く捉え、"broad-based
growth"という共通認識に基づきベトナムの開発支援を行う枠組みが強固なものになった。また、援助効果においても日英によるパートナーシップ強化を含め、相互の多様性を理解・肯定する動きがあった。これは、1年前のCG会合(CPRGSとPIPのalignmentの範囲をめぐる議論あり)と比べ、特記すべき進展と思われる。
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他方、大規模インフラに対し多くのドナーが「釘をさした」点に象徴される慎重な姿勢、対照的にHIV/AIDSイシューへの「熱狂的」関心など、援助ツールや国民に対する説明責任の内容にドナー間で大きな相違があることが改めて如実になった。特にLMDGと日本とは(相互理解は大きく進んだが)、開発・援助アプローチの100%共有は現実的ではなかろう。
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従って今後は、今までの成果を土台に世銀やLMDG等との連携を続ける一方で、特に成長戦略支援といったベトナム側が必要とし、かつ日本がユニークな役割を果たせる部分において、@政策の中身(例:
投資環境整備に向けた支援パッケージ及びベトナム政府との対話・調整メカニズムづくり、大規模インフラの効果を広範にするための地域レベルの開発ビジョンづくり、成長がもたらし得る負の側面への対応)、A制度面(例:
運輸インフラの維持管理(財源・制度・工法)、新規投資のプライオリティづけ(M/P))の両方において、実質面での深化をめざした支援を強化することが望ましい。
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同時に、援助効果の向上においては、5
Banksの調和化努力を引続き着実に進めるとともに、無償・技術協力の分野でも日本が具体的な改善を示すことが必要である。
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また、今回のCG会合でベトナム政府は5ヵ年計画の進捗と今後の課題を基本テーマとして打ち出し、その中でCPRGSを位置づけた。CPRGSの将来的位置づけ、MTEFやPIPの制度設計は多くのドナーが強い関心をもつイシューであるが、これらを考える際に、今回のCG会合でベトナム政府が示したメッセージをドナー側は真剣に受けとめるべきであろう。今後、CPRGSの"roll-out"を通じてパイロット省への計画策定支援が活発化すると思われるが、日本としては、ベトナムの既存制度にも配慮し5ヵ年計画策定との関係を念頭において、次ラウンドCPRGSの"soft-landing"シナリオを考えた対応をしていく必要があろう。
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以上をふまえ、GRIPS開発フォーラムとしては、引続きベトナムを日本の援助協調への取組みのモデル国と位置づけて調査研究を行っていきたい。その際に、今回の大規模インフラの調査から得た示唆を踏まえ、対ベトナム経協関係者とも連携しながら、PRSC(3)〜の動向や日越共同イニシャティブのフォロー等を通じて、成長戦略の具体化を実効的にするために必要な支援策(政策・制度の両面)について助言していくとともに、援助効果向上に関し、CIEM/JICA取引費用調査の提言を踏まえた日本としての取組みについても関心をもってフォローしていきたい。また、次ラウンドのCPRGSとの関連で、ベトナムを含むアジア諸国での経験を念頭に、既存の開発計画体系が強固に根付いた国でのPRSPのあり方についての検討・問題提起を行っていきたい。
ベトナムCG会合・ハイライトのページはこちら
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以上
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