Home | English | お問い合わせ

GRIPS開発フォーラム

「途上国の産業発展と日本のかかわり」
GRIPS・東大COE合同シンポジウム

2006年7月13日(木)13〜17時@GRIPS六本木キャンパス

  • 東京大学「ものづくり経営研究センター」(MMRC
  • 政策研究大学院大学「アジアの開発経験と他地域への適用可能性」 (GRIPSVDF)、 GRIPSのCOE紹介(15KB)

GRIPS・東大は、産業分析にかかわる文部科学省COEプロジェクトをそれぞれ実施中であり、中間評価ではいずれも高い評価を受けています。これらの研究は、理論・実証・政策の各面において新機軸を打ち出そうとするものであり、しかも途上国の産業ダイナミズムという共通視点をもっています。 2つの研究チームは、中間成果を研究者・政策担当者に広く議論していただくため、さらには我々自身の知的交流を深めるために、この合同シンポジウムを企画しました。

吉村融GRIPS学長の開会の辞に続き、藤本隆宏(東大リーダー)、大野健一(GRIPSリーダー)、天野倫文(法政・東大)、大塚啓二郎・園部哲史(GRIPS)がそれぞれの最新成果を報告し、そのあと約50名の参加者間で活発な意見交換が行われました。

シンポジウムのフルレポートはこちら、36KB)

報告要約

全てpdfファイルです。

藤本隆宏(東大)
「アジア諸国における組織能力と設計思想」
スライド 1.1MB
設計の発想には機能と部品を一対一対応させるモジュラー(組合せ)型と多対多対応のインテグラル(擦り合せ)型がある。各国には歴史に由来する組織能力の差がある。現状をみると、日本は統合力に優れたインテグラルの国である。欧は表現力に優れたインテグラル、米は構想力に優れた知的モジュラー。韓国は集中力に優れた資本集約的モジュラー、中国は動員力に優れた労働集約的モジュラー。ASEANは労働集約的なインテグラルとなりうるが、これは潜在的なものにとどまっている。アーキテクチャ的視点から、各国は自らのポジショニングを改善する努力が必要であろう。
大野健一(GRIPS)
「ベトナムの工業戦略策定支援:インテグラル型製造業のパートナーになるために」
スライド 174KB
ペーパー(日) 97KB
ペーパー(英) 149KB
 
ベトナム研究を11年している。2004年にはベトナム開発フォーラム(VDF)をハノイに創設した。ベトナムは労働力はよいが政策がきわめて未熟な国である。工業省を支援しながら、藤本教授の理論をかりて「中国に負けないために、また技術の壁を突破するために、日本のものづくりのパートナーになれ」という説得をはじめている。日本の「2007年問題」に対処するという意味もある。途上国で真のインテグラル・パートナーになりうるのはおそらくタイとベトナムであろう。必要なのは工業人材つくり、裾野産業つくり。日本はこの方面で協力してきたが、より集中的な取組みが求められる。ベトナムもこの目標を明確に意識すべき。
天野倫文(法政・東大)
「グローバル企業の立地戦略と産業クラスター政策:HDD産業の事例研究より」
スライド 648 KB
後発国はグローバル経済の中で工業を内生化し「逃げない投資」を呼び込みたい。また外資企業には、競争力を維持するためにローカルな立地優位性を利用することが必要。このためには、途上国・外資ともに産業クラスターへの関与が不可欠となる。製品はモジュラー、部品はインテグラルなハードディスクを例にとると、東南アジアにクラスターが形成され、中国シフトは起きていない。ここには米系アセンブラと日系部品メーカーの提携という構図がある。外資は企業間関係・人材育成などを通じ、シンガポール政府等は保税・投資認可などに戦略的政策を打ち出し、それぞれクラスター形成を支援した。
大塚啓二郎(GRIPS、上)
園部哲史(GRIPS、下)
「途上国のクラスター型産業発展支援戦略:地場産業の育成を目指して」
スライド 203KB
ペーパー(英) 118KB
アジア・アフリカで、比較的ローテクのクラスター事例研究を重ねてきた。途上国の内生的産業発展には、外国技術の模倣にはじまる「始発期」、模倣の模倣が広がる「量的拡大期」、多面的革新を達成する「質的向上期」、の3段階が共通にみられる。またそれぞれの時期には一定の企業家タイプ、必要能力、革新・模倣の形が存在する。このパターンを踏まえて、とりわけ第2から第3段階への突破を促進するために、政府やODAによる支援をすべきである。その途上国の「身の丈にあった」多面的革新(新結合)を可能にするために、インフォーマル部門の中小企業を選んで、経営・技術・流通などの模倣的革新力を強化することが望ましい。研究に加え、実際の支援策の策定にもとりかかりつつある。

 

 

 

 


討議要約

  1. アセアンは本当にインテグラル製造業のパートナーとなりうるのか?タイ・マレーシアなどは何十年も努力しているが、裾野も人材もまだ不十分な状態である。

    (藤本)たしかにアセアンも多様なので一般化は無理かもしれない。またインテグラル製造業はアセアンにとってまだ潜在性にとどまっているのも事実だ。それでも中国と比べると、多能工の可能性、人材の定着性などでASEANが有利なようだ。たとえばハノイの日系企業ではCADオペレータが増えており、しかも離職者は少ないという。

    (大野)各国を訪問すると、やはり理屈では説明できない国民性の違いを感じる。ベトナムでもジョブ・ホッピングは存在するが、企業の雇用政策によって改善できている。政策・経営によって結果が変わる。すべての労働者の移動性が高い中国などとは異なる。
     
  2. アーキテクチャ論は需要の視点がなければ完成しない。需要サイズとその特性が生産のアーキテクチャを左右する。中国にはモジュラー製品を好む膨大な消費者がいる。アセアンはよりインテグラルな製品を需要しているようだ。

    (藤本)日系企業はよいインテグラル製品をつくるが、その市場を積極的に開拓する努力が不足しているようだ。モジュラー製品を好む消費者の中では、「過剰品質」のレッテルを貼られてしまう。インテグラル製品を売るには、高性能・微妙な差異を重視する「オタク」消費者をつくりださねばならない。どの国でどのアーキテクチャが売れるかは歴史的に決まる面もあり、必ずしも十分説明しえない。
     
  3. 日本はインテグラル製品で優位ということだが、韓国などが日本を追い上げることはないか。またアメリカはモジュラーといわれたが、彼らの航空・宇宙産業はインテグラルではないのか。

    (藤本)ある国がモジュラーか、インテグラルかは相対的なものであり、また組織能力の変化に応じて時間的にも変化する。しかし短期をみる限り、どの国がどの傾向かはそう簡単には変わらない。韓国は汎用鋼で日本を凌駕するが、特殊鋼では日本を追い越すことがどうしてもできないでいる。国家の総力をあげる産業では、中国でさえロケットは開発できる。私の分類は、そのような例外は別にして、一般にどちらのアーキテクチャに比較優位があるかを示したものである。
     
  4. タイはだめだといわれたが、1970年代に比べ、現在のタイは技術者も育ちよい部品も作れるようになり隔世の感がある。このように時間をかければ、成果があがるのではなかろうか。

    (大野)ベトナムを鼓舞するためにタイ・マレーシアの弱点をやや誇張したが、たしかにタイの裾野産業は一定レベルに達している。だがこれまで費やした時間・努力に比べ、十分な発展とはいえないということも東アジアの高い基準からするといえるのではないか。タイもやはり、日本のインテグラル・パートナーとなったとはいえず、潜在性にとどまる。
     
  5. 工業人材・裾野産業はインテグラル・モジュラーにかかわらず必要なのではないか。ビジネス・アーキテクチャの違いが問題となるのは、人材・裾野を形成したあとの次の段階ではないか。

    (大野)私はむしろ、人材・裾野育成にアーキテクチャの差異は大いに関わってくると思っている。現地企業が日系のサプライヤとなるために何年もかけて、リジェクトを何度も受けながら食いついていく。このやり方は、モジュール型企業に部品供給する場合とは全く違う。こうした経験を通じ、現地企業はインテグラルなサプライヤとして叩き上げられるのではなかろうか。
     
  6. 大塚・園部氏の内生的発展モデルの理論的基礎がよくわからない。また実証研究をペアリングで行うことの意味は何か。

    (大塚)ルイスやトダロのモデルでは、理論を裏付ける具体的な実証がなかった。我々は、労働移動のプロセスを明示的に実証しようとしている。3段階の発展パターンは理論的に導かれた結論ではなく、多数の事例の類似性が我々に教えたものである。実証をペアで行っているのは、さまざまな条件が異なるにもかかわらず、発展パターンが酷似していることを示すためである。我々は事例研究からさらに実際の支援プロジェクトに移ろうとしている。
     
  7. 貧困削減につながる一般的訓練はODAで行えるが、企業の競争力を強化するような支援は援助では無理である。これは自助努力や民間協力で行うべきではないか。

    (参加者)ODAで行うことは十分可能である。我々もチュニジアで競争力強化のためのプロジェクトに携わっている。

    (大塚)我々もトレーニング・プログラムのカリキュラムを検討している。

    (園部)ポイントは市場の失敗であって、不法コピー、スピルオーバー、リスクシェア等の問題があるときには政府介入が正当化できるはずである。

    (大野)産業支援をODAだけでやる必要はなく、民間、NPO、ODA以外の国際協力なども動員すべき。ODAではやりにくい、動きが遅すぎるというならば、別のルートで支援すればいい。
     
  8. (大塚・園部の第3段階への突破支援に対するコメント)

(藤本)以前と比べ、「量的拡大」から「質的向上」に移る壁が高くなっている。その理由はデジタル化である。昔は製品をコピーするにも、リバース・エンジニアリングしていたから一定の技術・能力が必要だった。いまは現物を3Dスキャンし設計図にすることも、それをもとに生産することもごく簡単である。製品を違法コピーするためのソフトさえ違法コピーされている。誰でも作れるから価格が安くなり、技術・能力をみがくインセンティブが働かない。

スライド紹介

藤本教授のスライドより

大塚・園部教授のスライドより

[トップへ][GRIPS開発フォーラム・HPトップへ]