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グローバル化時代の
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工業団地と直接投資誘致
理想的にいえば、一国のビジネス環境はすべての都市・省を通じて一様に改善されるべきだが、ベトナムのように制度・インフラが脆弱な後発国においては、改善は一朝一夕になしえない。こうした状況下では、直接投資を呼び込む方策として、少数の狭小な土地を選んでそのビジネス環境を優先的・集中的に改善するやり方は望ましいといえよう。東アジアにおける工業団地は台湾によって先鞭をつけられ、韓国、中国、ASEAN4へと広まった。ただし工業団地には成功するものもあるが失敗するものもある。成功の秘訣は何であろうか、そしてベトナムは自国の工業団地のパフォーマンスを改善するために何をなすべきであろうか。 閑古鳥の鳴く工業団地も 2000年末時点でベトナムには71の工業団地があり、その内訳は工業地区(industrial zone)が67、輸出加工区(export processing zone)が3、ハイテクパークが1となっている。その他に認可されたが実際にはつくられなかった団地が35ある。既存の工業団地のうちいくつかはすでに内外投資の受け皿としての重要な役目を果たしている。工業団地全体では914の投資案件が認可を受け、その登記資本総額は89億ドル、プラス、244億ドンである。これらの大部分(93%)は製造業に従事し、残りは工業団地内のインフラサービスを提供している。 2002年末時点で、工業団地はベトナムへの製造業累積直接投資の36%の受け皿となっている(登記資本ベース、石油・天然ガス・建設は除く)。2000年において工業団地はベトナムの製造業生産の21%、製造業輸出の15%を占めている。このように工業団地は工業化の重要な役割を担っているが、ベトナム経済自体がまだ小さいので、工業団地を通じた直接投資受入の規模は国際基準からしてまだあまり大きいとはいえない(これについては直接投資の臨界値も参照)。 現存工業団地のうち入居率がすでに半分を超えているのは、北部ではSai Dong B、Thang Long、南部ではBien Hoa II、Tan Thuan、Linh Trung、Vietnam-Singapore、Viet Huong、Vinh Loc等である。これらの好調な団地はすべて2大都市であるハノイかホーチミン市の近郊に位置している。これらを除くと、入居率がきわめて低調な工業団地もかなり多い。 工業団地マップ(工業団地の詳細はこちら) 顧客志向 どこの国でも(日本を含む)、地方政府は工業団地をたくさん作りたがる。彼らは工業団地が雇用・所得・税収などを当地にもたらすとナイーブに考えるからである。だが土地を工業団地として指定するだけでは何の価値も生まれない。外国の製造業企業にとって魅力的な重要要素がその土地に付加されなければ、そのような団地が成功する可能性は低い。企業ニーズをほとんど理解しない政府役人は、閑古鳥が鳴く工業団地を全国に作ってしまう傾向がある。工業団地が自動的に経済的便益を生み出すという神話は捨て去らねばならない。工業団地を魅力的にするためには、多くの能力と努力が必要とされるのである。 市場経済における最重要のビジネスルールは顧客の満足である。これは工業団地管理を含むすべての業種にあてはまる。工業団地にどの企業、どの産業が来るかを決めるのは政府官僚でもディベロッパーでもなく、あくまでそれは製造業企業の決断によるのである。ゆえに直接投資誘致政策は、潜在的な顧客企業が何を欲しているのかを知るところから始まる。彼らのニーズを把握したならば、求められている条件を高水準で提供できなければならない。一般にベトナムでは顧客志向を欠くことが多く、これは工業団地管理についても同様である。 「ハイテクパーク」「ソフトウェアパーク」「部品工業団地」といった特殊な工業団地は、ベトナムの現在の発展段階ではあまり効果的とはいえない。そのような特化された団地は、工業集積が今よりずっと進み、工業化政策や工業団地管理がはるかに改善されたのちにはじめて望ましく、また意義あるものとなるであろう。現在のところ、特殊な工業団地は、Quang Trungソフトウェアパーク(およびSaigonソフトウェア技術センターもある程度)を例外として、あまり関心を集めているとはいえない。 工業団地は経済インフラの一部であり、本来ならば受入国が整備すべきものである。日米欧およびアジアNIEsでは国内デベロッパーが工業団地を建設し管理している。しかしながら、低所得途上国は必要とされるノウハウ、資本、マーケティング能力を欠くから、外国の民間デベロッパーが利潤ベースで工業団地整備に参入することになる。もし受入国が外国デベロッパーと良好な協力関係を結び、顧客企業のニーズに応えることができるなら、その工業団地は受入国・ディベロッパー・投資企業すべてにトリプル・ウィン状況をつくりだすことができよう。だが逆にいずれかが使命を果たさなければ、工業団地は失敗してしまう。 成功の条件 工業団地の成功のための主たる条件は何か。日本の経験豊富な工業団地ディベロッパーによれば、それは(1)ロケーション、(2)インフラサービス、(3)管理会社の能力、である。 (1)ロケーション 工業団地は不動産ビジネスの一種であるから、不動産開発の黄金律がここにも適用される。すなわち、「1にロケーション、2にロケーション、3にロケーション」ということだ。適切な立地を選択しない限り、工業団地は多くの製造業企業を誘致することはできない。より具体的に言えば、以下の条件が満たされなければならない。
(2)インフラサービス 製造業企業は電気、電話、インターネット、水道、下水処理、運輸サービス、住居など様々なインプットを必要とする。このうちどれがとくに重要かは企業ごとに異なるが、工業団地はこれらのすべてを提供せねばならない。すべてのサービスに共通して、安定供給、高く一定した品質、低コストは不可欠である。インフラには港湾、空港、幹線道路、長距離送電線などの大規模インフラ、および工業団地周囲の道路アクセス、アパート、水処理プラント、変電所などのローカルインフラがあるが、これらのいずれも重要である。これらのサービス供給は外国のディベロッパーや入居企業ではなく受入国側の責任であることは、ベトナムでは強調しておく価値があるだろう。供給には関連各省、地方政府、サービス提供者である国営会社の密接な連携が要請される。さらに公共インフラ投資(ODAを含む)を工業団地建設計画とリンクさせることも肝要である。インフラサービスの価格は供給会社の利潤要請だけからではなく、国全体の発展ニーズの観点から決定されるべきである。これらサービスの質は、東アジアのベストプラクティスと同じか、あるいはそれ以上のものでなければならない。 (3)管理会社の能力 さらにもう一つの重要要素は、工業団地のマネジメントの効率性および顧客対応のよさである。投資家、とりわけ外国投資家は工場を建設し経営するに際し、多くの問題に直面する。工業団地の管理会社は、彼らに対してガイダンスと支援を提供し、彼らのビジネスプランが順調に進行するよう保証せねばならない。これには入居時のマーケティング、情報サービス、手続き上の支援、およびあらゆる種類の問題解決が含まれる。顧客企業に対する迅速かつ誠意ある対応が鍵である。ある成績のよい工業団地では、管理会社の社長は顧客企業に問題が発生すれば昼夜を問わず飛んでいき、それが解決するまで個人的責任をもって対処するという。もし献身的なサービス精神を欠くならば、たとえ絶好のロケーションと最高の物理的インフラを備えた工業団地でも、投資家をひきつけることはできないであろう。 以上3点に加えて、もちろん国全体の投資環境が良好なことが直接投資大量誘致の大前提である。残念ながら、この点においてもベトナムにはいまだ問題が多い。中央政府レベルの政策改善は、工業団地の管理改善と並行して達成されねばならない重要な課題である。 ベトナムのマーケティング さらにいえば、たとえすばらしい工業団地が存在したとしても、それが自動的に大量の投資を呼び込むわけではない。中国をはじめとする近隣諸国間の激しい誘致競争がある現在、活発な海外マーケティングを通じて外国顧客企業にアプローチし、彼らに情報を提供し、ベトナムに来てもらえるよう説得しなければならないのである。しばしば投資受入国は、投資があまり来ないのはせっかくの誘致政策があるのに外国投資家がきちんと反応しないからだという。だが積極的な海外宣伝活動を展開しなければ、誰もよいビジネス環境の存在を知ってはくれない。 ベトナムを望ましい投資先としてプロモートするには、外国投資家が関心を持つ要素にアピールすことが肝要である。彼らの真の要求を知るには徹底したマーケット・リサーチが必要である。また投資家の関心事項は投資を行なう国ごとに異なる可能性がある。 日本企業を対象とするマーケティングにおいては、ベトナムのメリットとして以下のようなプレゼンが典型的である。これは工業団地管理会社および日本の製造業企業自身の見解からくるものである。
以上のセールスポイントのうち、ベトナムが実に幸運にも中国とASEANにはさまれており、いずれに対しても生産パートナーとなりうる点は、再度強調しておいてよいだろう。ベトナムは自国だけで産業クラスタを構築しようとせず、この地理的条件を最大に活かすべきである。躍動的な中国南部への近さはとりわけ大きな資産であるが、いまだこの資産は企業努力と大胆な政策行動によって活用されるのを待っている状態である。 東アジアへの新規投資を考えている日本の製造業企業にとり、問題は大まかに言って次のようなものである。基本的な選択は、中国に行くかASEANに行くかである。中国は巨大、ダイナミックかつ魅力的で、実際ほとんどすべての投資家は中国を最優先の進出先とみなしている。だがすべての卵を1つの籠に入れるのは危険だ。日本の大企業のうちすでに中国進出済みの企業は投資先分散を望んでいる(2003年のSARS突発がこの傾向を後押ししたかもしれないが、長期的影響はまだわからない)。他方、ASEANは日本にとって伝統的な投資先であり、すでに日本企業によって広範な生産ネットワークが組織化されている。中国と比べると現在のASEAN経済は元気がないが、日本の製造業企業はASEANを見捨てる気はない。彼らはASEANにおいて自らの能力を高めると同時に、中国にも追加的投資を行おうとしているのである。ビジネス戦略の柔軟性からすると、2つの生産基地をもつ方が有利なことは明らかだ。 このようにして、投資先としてのASEANは中国と競争しているのである。いったんASEANが選ばれれば、次の問題はASEANのどの国に進出するかである。現在インドネシアとフィリピンには政治不安があるので魅力的とはいいがたい(加えてインドネシアでは外国投資政策の悪化がみられる)。マレーシアは高賃金と固定為替の高止まりでコストが高すぎる。こうした理由から、多くの投資家の関心をひくのはタイとベトナムの間の選択である。タイは日本の投資を長く受け入れてきており、ビジネス環境はまずまずよい。それと比べるとベトナムは政策もインフラも劣っているが、経済は若くよりダイナミックである。ゆえに安定志向の投資家はタイを選び、興奮とリスクを好む企業はベトナムにやってくる。もしベトナムがその政策環境を大幅に改善できれば、ASEANの中で最も人気のある投資先となることもできるのである。 この夢を実現するには、投資家心理を理解し、プロのマーケティングによって彼らの興味をひきつけることが大切である。ベトナムは国内で待つのではなく、海外に出て行って、上述の自国のメリットおよび最近実施された投資手続き改善・コスト引き下げを大々的に宣伝すべきである。それには顧客を正しくターゲットし、正しいメッセージを発信しなければならない。これを適切に行なうには、企業誘致方法を熟知した外国専門家との密接な協力のもと、新たなキャンペーンが必要である。 日本の製造業企業に関する2002年のJBIC調査 国際協力銀行(JBIC)は日本の多国籍企業を対象とするアンケート・面接調査を毎年実施している。2002年の調査では508社の回答を得たが、その中には食品加工から自動車まで、また小企業から大企業まで多くのセクターが含まれている。地域別拡張計画に関する彼らの回答は以下の通りである。中国の人気が一目瞭然だ。
以下は、日本の投資家が最も関心を寄せる条件のリストである。調査では、これらが2000年から2001年にかけて改善したかどうかをきいている。この他にも労務問題、税制、投資許認可手続き等に関し質問がなされた(ここでは省略)。やはり中国がアジアの中でトップの評価を得ているが、ベトナムの成績も悪くない。ただし翌年(2002年)には、バイク問題などの一連の混乱を反映して、日本企業の対越イメージがかなり悪化したことは覚えておくべきだろう。
ベトナムの工業団地を活性化するには 以上の検討に基づき、とりわけ工業団地を受け皿として、ベトナムに臨界値をこえる製造業直接投資を呼び込むために以下の方策を提言する。 (1)顧客マインドの導入・徹底 工業団地は投資受け入れの安易な手段であるという見解を捨て、グローバル化時代にふさわしい顧客志向の考え方に改めなければならない。工業団地の管理者および担当官僚は、成功している他国の工業団地を訪問し、彼らの経験から学ぶべきである。 (2)ターゲットされた改善と外国人専門家の利用 工業団地管理に優秀な成績をあげている外国人の協力を得ることが重要である(大学教授や一般のコンサルタントは不可)。彼らの指導・協力のもと、(1)MPIは工業団地戦略マスタープランを改定すべき、(2)MPIと地方政府は高い潜在性を有する少数の工業団地の経営を劇的に改善すべきである。 (3)マーケティング 日本、台湾、韓国、シンガポール、EU、米国など主要な投資国において、積極的なマーケティング活動を展開すべきである。この努力は最高指導者からMPI、地方政府、在外ベトナム大使館、工業団地をすべて含むオールベトナムで行なわれなければならない。 (4)投資誘致戦略の全般的見直し 個々の工業団地の改善は必要条件にすぎない。現在のベトナムには、国全体の投資誘致政策がグローバル化時代の要請に十分に応えていないというより根本的な問題がある。具体的には、1.現実的な産業ビジョンの欠如、2.関税・輸入政策上の問題、3.現地化規制の不適切などである(当該サブページを参照せよ)。これらを解決せねばならない。 ベトナムはすべての外国人に愛される国であり、これは日本の投資家もかわらない。投資環境が悪いにもかかわらず、彼らはベトナムの人々、国土、文化、料理が好きなのである。彼らはベトナムに残るための言い訳をさがしている。彼らの願いをかなえてやり、さらに多くの投資家を招くために、ベトナム政府は外国人のプロと提携して「企業へのもてなしの心」の意味を了解しなければならない。グローバル化時代において、その中身は刻々と変化し続けている。ベトナムはこの分野における国際的経験がほとんどないから、外国人と密接に協力していく必要があるのである。 |
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