関税体系のデザインは、条鋼類の強化・淘汰および鋼板類の立ち上げの両方にとって、きわめて重要な政策手段である。最終的な関税体系はAFTAや将来のWTO等に従うことになるが、自由化までの猶予期間や通商交渉などを通じて、一時的、部分的かつ過大でない保護の延長はある程度認められるかもしれない。それを企画する際には、以下の点に留意する必要がある。
貿易自由化は有望企業を壊滅させるほど急激であってはならないし、また不良企業を温存するほど緩慢なものであってもならない。
製品間・工程間のバランスが常に適切であり、関税体系の歪みが企業に不合理な負担を強いる事態があってはならない。
鉄鋼ユーザーへの過度の負担を避けなければならない。
将来性の認められる新規投資については、初期の投資回収・学習期間をカバーする短期的保護が許されよう。
AFTA、非AFTA関税それぞれにつき、予想される輸入圧力に関する分析が必要である。
AFTAについては最終期限が迫っており、実施計画を変更する場合には外交交渉が必要となる。
以上に留意しながら、条鋼類と鋼板類それぞれについて複数の関税政策オプションを評価する。
条鋼類の関税政策
LAは2006年までに0〜5%というAFTA規定に従うシナリオであり、LBは2006〜12年に一時的に保護延長するシナリオである。ただし2015年までにはいずれも0%に引き下げられる。またビレットは5%の関税とし、やはり2015年に0%とする。政策オプションとしては、(1)LAをすべての輸入に課す、(2)LBをすべての輸入に課す、(3)LAをASEAN輸入に課しLBを域外輸入に課す、が考えられる。
これらの政策オプションのもとで、国際価格変動の可能性、条鋼生産に必要な適正マージン、操業開始時のコスト増を考慮しシミュレーションした結果、次のような結果をえた。もし国際価格が低迷すれば、政策(1)は大規模な企業淘汰を引き起こし、新規ミルの建設も不可能となる。(2)、(3)ならばリストラの時間的余裕が生まれ、電炉の拡張も可能性がでてくる。もし国際価格が高ければ、(1)(2)(3)いずれの場合も圧延ミルの再編成と電炉・圧延ミルの新規建設には明るい展望をもつことができる。なおいずれの場合も、ASEANからの大規模な条鋼輸入は起きる可能性が低い。ベトナム政府はこうした分析を踏まえたうえで政策決定すべきである[現在の関税案要確認]。
鋼板類の関税政策
鋼板類についても、AFTA規定に従うFAシナリオと保護の一時的延長を許すFBシナリオが想定できる。同様に政策オプションも、(1)FAをすべての輸入に課す、(2)FBをすべての輸入に課す、(3)FAをASEAN輸入に課しFBを域外輸入に課す、の3つを条鋼類と同じ手法で検討する。
近年の国際市況はとりわけ熱延鋼板生産にとって厳しいものであり、適正なマージンを許すものではなかった。ロシア・ウクライナの低価格輸出の動向には十分留意する必要がある。他方、自由化後のASEANからの鋼板輸入の可能性はあるが、それほど大きいものではない。シミュレーションによると、第1冷延ミルはいずれのケースも採算性を確保できる。第1熱延ミルについては、国際価格が低い場合、政策(1)では採算性を全く確保できないが、(2)ならばかろうじて確保でき、(3)はその中間である。国際価格が高い場合には、第1熱延ミルも採算性確保がかなり容易になる。今のところ財政省は中長期の鋼板関税を提示していないが、冷延・熱延ミルの建設が将来進めば、現在の低関税では困難が生じる可能性がある。
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